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カッコー

ある休日のこと、わたしは朝5時頃に目を覚ました。二度寝できないことはなかったけれど、その日はなんとなく、そのままベッドから出てみようと思った。

リビングに行くと、出窓で寝ていた猫と目が合う。彼は、普段よりもずっと早くに起きてきたわたしのことを、目を細めながら眺めていた。
この時間帯、すでに日は昇りリビングはすっかり明るい。わたしはまず、朝のルーティーンである猫のご飯の準備やトイレ掃除に取り掛かる。一連の猫のお世話を終えたら、今度はジョウロに水を入れベランダに出る。最近育てはじめた植物に水をあげるのだ。サンダルに足を入れてベランダに出ると、5月らしい爽やかな気温と湿度で、植物の一部にはすでに太陽の光が降り注ぎはじめていた。

まだ人々が活動しない時間帯だからか、外は非常に静かで、時折風が揺らす木々の音と、可愛らしい鳥の鳴き声が聞こえるだけである。そんな中で、植物たちにたっぷりと水を注いでいると、「カッコー、カッコー」と柔らかな鳴き声が聞こえてきた。最初は、別の部屋の住民のアラーム音か何かかと思ったのだが、耳を澄まして聞いていると、どうやら本物の鳥の鳴き声らしい。わたしの住むマンションの近くには、立派な木々がたくさん植えられた庭を持つ一軒家があり、どうやらそちらから鳴き声が聞こえてくるようだ。

カッコウって本当に「カッコー」と鳴くんだなぁ、などと思いながら、わたしはジョウロ片手にしばらくその鳥の鳴き声に聞き入った。丸みのある可愛らしい声色の鳴き声である。あとから分かったことだが、カッコウは初夏の訪れを告げる渡り鳥とされているのだとか。
こうして、間もなく夏が来るというカッコウの知らせを十分に楽しんでから、わたしは再び寝室に戻った。それから布団にくるまり少しだけ本を読んだ。周りから物音がしない早朝の読書は思いのほか集中でき、早起きというのもなかなか悪くないと思った。

なおその後、二度寝をしたら、直前に江戸川乱歩の怪奇小説を読んでいたせいか、しっかり悪夢を見てしまったのだけど、あの早朝の清々しい空気をまた味わってみたいという気持ちは、きっとしばらく忘れないだろう。

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