ちきゅう

エモいって感情を忘れないようにしたい。

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最近の記事

天井に隠されたもの

要点:本当に書きたいこと、寝台から眺める天井の意味。 僕らはここではない何処かに憧れている。ここではない何処かが多層的に描かれた物語を本質的に欲している。 僕らはここではない何処かでひとりぼっちで何かを憂いていたいし、そこで憂う対象は、やはりここではない何処かで起きた(実際には起きていない)悲劇でなくてはならない。 ここではない何処かで、自分の分身がひとりぼっちになることを想って、僕らはなぜか安堵する。 泉鏡花の義血侠血だったり、坂口安吾の桜の森の満開の下だったり、ス

    • 夜の雫

      要点:透き通った夜の底にあるもの。 蛍光灯の光が眩しい。時間の流れは生ぬるく停滞している。 雲の隙間を想う。僕らは真夜中に月が雲を捕食する姿をいつまでも飽きずに見ている。 透明標本みたいに鮮やかに染色された夜は確かにあるのだと感じるけれど、この干からびた角膜にはそれは決して写らないのだろう。 目を閉じて耳を塞ぐと、肋骨の底に沈んだ夜が、濡れたガラス越しに見る景色みたいに抽象化されて、屹立している。夜は計り知れないほどに高く聳え、球形の時間を覆っている。 夜に依存する

      • ひとりぼっちの宇宙遊泳。

        要点:手が届きそうで届かない場所への憧れ。夢はいつも創造力の限界線の上にあること。 いつか宇宙遊泳がしたい。そう願っている。 太古の昔、詩人は鳥になる夢を見た。届かない空が憧れの器だった。科学が進歩した時代の僕らは、空にたどり着くことができるようになった。飛行機の切符を買って、空港に行きさえすれば良い手軽さは、憧れの器にはもうなり得ない。 僕らはその代わりに宇宙遊泳をする夢を見る。真空が生み出す無音、極限の冷え、天体の巨大な引力、移動エネルギーと遠心力、全て僕らの想像を

        • 雨と終末。

          要点:雨の中に見える都市。雨と都市が喚起する原風景。 局所麻酔を打ち込まれたみたいに弛緩したまま、波の音を聴いている(それは実際には長子が悪い空調器による不規則な雑音なのだけれど)。夢を見ている時よりも、こうして薄明かりの天井を眺めている時の方が、逃避として相応しいような、そんな気がしている。暗がりの中で丸まったまま、焦点の合わない瞳は、ここではない何処かを見つめている。 雨が降っている。いつからかわからないくらい降り続けている雨に、都市は沈んでいく。雨の潮位は排水溝から

        天井に隠されたもの

          集団的独りよがり。

          要点:一人称複数に紛れたい理由 僕らはそれぞれが孤独であるべきなのに、いつも一人称複数を使いたがる。一人称複数のぼんやりとした不死身の概念でいたいのだ。僕らのうちの一つが消滅したとしても、次の僕らがどこか深いところからやって来て、僕らを補強するような気がするのだ。 僕ら、私達、我々。孤独であるはずなのに複数を語ることで、僕らは自らを武装する。脆弱な僕らの主義・主張は、一点に収束せず、常に拡散したままでいることができる。それは僕らが僕らを定義しないことによってのみ保障されて

          集団的独りよがり。

          極圏の露天採掘。

          要点:ここではない何処かの空想。夢遊病への憧れ。極圏で凍る永遠。 凍りついた空気。重く沈んでいる大気。夜の芯が成層圏を貫いているはずなのに、地表で固まった雪の照り返しで、あたりはうっすらと明るい。地平線の向こうまでツンドラが続いていて、生命のざわめきは耳を澄ましても聴こえない。そんな極圏の雪原を行進するのは夢遊病の僕らだけだった。 夜空は曇天に覆われていて、地表にも目印がない場所なのだけれど、僕らには向かうべき方角がわかっていた。僕らはいつも孤独な衛星を覗き見て、レンズに

          極圏の露天採掘。

          朝に怯える理由。

          要点:眠りと非連続性な世界との繋がり。漸進する劣化。 睡眠欲が全身を覆って動けなくなったとき、きっと死ぬ時はこんななんだろうと漠然と考えている。瞼は言うまでもないけれど、太股や背中や二の腕、ありとあらゆるところに猛毒が回ったように億劫になって、そうして意識は希薄になっていく。 眠る度に僕らは世界との繋がりを失っている。次に目が覚めたとき、世界に繋がっているのは昨日までの僕らではないのだろう。代替可能な僕らは、次の僕らにコピーされているだけだ。コピーを繰り返して劣化していく

          朝に怯える理由。

          読書感想文(ハピネス)

          要点:ハピネスを読んで思ったこと(まだ途中までだけれど)、吸血鬼に憧れを持つ理由、フィクションとの関係性 僕らは皆、吸血鬼に憧れている。ただし、僕らが憧れるのは、怪物となった吸血鬼ではなくて、人間に戻りたいと願う吸血鬼だ。 人と同じように生活したくても、血を飲まなければ生きていけない。人を襲いたくないという祈りと、極限の飢えとの狭間で、救いを渇望している姿は、僕らの憧れそのものだ。自分は怪物でないと泣き叫びながら、飢えに負けて人の血を啜りたいのだ。生暖かい背徳が喉を潤して

          読書感想文(ハピネス)

          聾唖のメガホン。

          要点:ここではない何処かの風景に、憧れを探す。 いつも通り不眠症を気取って、暗い部屋で天井を見つめながら、その先にある失われた世界を覗き込んでいる。これが夜の匂いを主食とする僕らの営みだった。 理想郷。その言葉はいつもディストピアを想起させる。いつまでも続く曇天、銃器を携えた無表情な憲兵、配給切符を握って行列を作る市民、サブリミナルに満ちた思想広告、管理されたキャリアパス、そしてビッグブラザーの絶対的存在。 そんな最も効率的で、今の価値観では非人道的とされるシステムの中

          聾唖のメガホン。

          午後の倦怠。

          要点:移動販売車の憂鬱。生まれ持った性質。 昼下がりに家から出ると、普段はいない移動販売車が弁当を売っていた。強い日差しと気だるく間延びした午後に、窮屈なトラックに乗り込んだまま弁当を売り続けるなんて、とても自分にはできないと思った。 きっとベンヤミンだったら、トラックの調理台に詰まった魔術的仕掛けだとか、移動販売車が何処からやって来て、何処へ帰っていくのかだとか(それはもちろん都市が引いた境界線を往き来する神秘性についてだと思う)、そうした非日常をいくらでも語れるのかも

          午後の倦怠。

          銀河鉄道の廃線。

          要点:祈りたい自身の姿と、本質のずれ。苦しみへの憧憬。 フナムシが囁いている。蛙が泣いている。海風が防風林を揺らす。そして僕らは乗りそびれた銀河鉄道の廃線に佇み、夜に取り残されている。もう降りることのない錆びた遮断機に寄りかかって、煙草に火をつける。 どうしてかわからないけれど、銀河鉄道を想起するのはいつだって初夏の夜半だ。夏の気配が窓から部屋に入り込んでくるとき、意識はあの懐かしい廃線に帰っていく。 ジョバンニでもカムパネルラでもない、物語の蚊帳の外に置いてきぼりの僕

          銀河鉄道の廃線。

          太陽の下で。

          要点:真昼の眩しさ。アスファルトの照り返し。白昼夢が呼び覚ます回帰への意志。 真昼の日差しが熱を帯び始めると、J・G・バラードの終着の浜辺、あるいはロッド・サーリングの真夜中の太陽に類似した、非日常への入り口がすぐそばに潜んでいる予感がする。 熱せられた都市は廃墟であるべきだった。それもスタティックではない不快に蠢く廃墟であるべきだった。 アスファルトが溶けるタールの匂い。黒いビニールのなかで有機物が腐敗する匂い。アルミニウムに反射する熱。紫外線で焼けていくガラス片。コ

          太陽の下で。

          詩と夜釣り

          要点:都市の無機質な明るさ。詩人とは寝台に横たわったまま、夜の砂浜で釣りをする空想をすること。 僕らは詩人になりたかったのだ。自分の定義する詩人とは何なのだろう。 都市が集める孤独のなかで、蛍光灯に照らされながら横たわっていても、首元に当てた寝具越しに自らの脈を感じる。 そうして目を閉じると、意識は都市の底へと続く螺旋階段を降り始める。緑暗色の非常灯に羽虫が当たる音と、金属質の階段を降る自らの足音。繰り返される螺旋によって、方向も失われていく。都市と曇天で書き消された北

          詩と夜釣り

          その先にはきっと何もない。

          要点:夕焼けから生まれるノスタルジー、人生の捉え方。 眩しい夕暮れに目を細めている時に不意にわいてくる喪失感。西日の淡いオレンジに染まった壁に等身大の自分の影が映っている。 希望なんて大袈裟なものではないのだけれど、まだ知らない何かが世界には溢れていて、まだ何者でもない自分に可能性を感じていた時があったはずだった。 気がつくとそんな近未来のわくわくはどこかへ廃棄されていて、こうやって可もなく不可もなく、無難なままで人生終わっていくんだという確信めいた予感だけが手元に残っ

          その先にはきっと何もない。