朝に怯える理由。

要点:眠りと非連続性な世界との繋がり。漸進する劣化。

睡眠欲が全身を覆って動けなくなったとき、きっと死ぬ時はこんななんだろうと漠然と考えている。瞼は言うまでもないけれど、太股や背中や二の腕、ありとあらゆるところに猛毒が回ったように億劫になって、そうして意識は希薄になっていく。

眠る度に僕らは世界との繋がりを失っている。次に目が覚めたとき、世界に繋がっているのは昨日までの僕らではないのだろう。代替可能な僕らは、次の僕らにコピーされているだけだ。コピーを繰り返して劣化していく僕らは、オリジンが徐々に失われていくことに恐怖する。ありがたがるほど価値があるオリジンというわけでもないのに、幼少から肩身離さずに使ってきたぼろ切れみたいな毛布を捨てられないみたいに、僕らはそれに執着するのだった。

だから僕らは不眠症のふりをして、いつまでも起きていたがるし、朝が来ることに怯えている。ありふれた朝が来て、昨日より少しだけ劣化した僕らは再生産されて、そうしてまた夜に向かって突き進んでいく。恒星へ突入する彗星みたいに、もう変えられない運命を以て、僕らは解体へと向かっている。

僕らは破滅を愛していたけれど、それは僕らの社会性の破滅を欲していたのであって、僕らの理性の破滅を欲していたのではなかった。僕らは苦蓬の苦さを味わいたいのであって、苦蓬の味もわからぬ白痴にはなりたくないのだ。

だから眠りが僕らの脳髄を捉えて、あの妖艶な底へと引きずり込んでいく刹那、僕らはいつもこう願うのだった。

ビルの屋上の貯水槽で溺死したまま、朝を迎えることができたなら!それが僕らの永遠なのだから。

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