波打ち際に

父の亡霊と一緒に私は歩く
父はこんな風に私に語りかける
「お前にはすまないけど 自由になるのは難しいことなんだ」

父は言う
「私はまだとても小さかった頃のお前しか知らない
お前も私のことは何も知らないだろう
赤ん坊の頃に一緒に撮った写真くらいは
見たかもしれないけれど」

波打ち際に
今夜 私は波打ち際にたたずむ
波打ち際に
今夜 波打ち際にたたずむ

私はわずかな手がかりを元に
あなたの姿を作り上げなきゃならない
心のほんの片隅に残ったあなたの姿を
かき集めなきゃならない

私たちは 波打ち際にたたずむ
今夜 波打ち際にたたずむ
波打ち際に
今夜 波打ち際にたたずむ

あなたのために小舟を作ったけど
乗り込む人はいない
もしかしたら私は舟を湖に流して
泳いだほうがいいのかもしれない

膝まで水に浸かりながら
手作りの小舟の横に私は立っている
ここに来ればあなたに会えるような気がしたけど
私以外には誰もいないみたい

波打ち際にたたずむ
今夜 波打ち際にたたずむ
波打ち際にたたずむ
今夜 波打ち際にたたずむ

父の亡霊と一緒に私は歩く
「すまないね」と
父が私に言った

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