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横たわる

横たわる

横たわる瞼のそばに
ゼラニウム

オレンジ色の光が
透過してしまうまえに

追いかける羊のそばに
ゼラニウム

その絹の糸が
ほつれてしまわないように

横たわる瞼は
オルゴールの箱のよう

濾過した真珠の光のよう
かごに積んで帰りましょう

エメラルド

エメラルド

間違い探しの刹那
見上げた横頬に
慟哭の痕



散歩のさなか
向かい合う背中に
苦悶の影

そう
抱きしめようか
抱きしめよう

メヌエットの拍子
数える歌声
エメラルド

そう
此処にいようか
此処にいよう

壁掛け時計

壁掛け時計

霧の中に貴方の歌声 

響いて響いて

靄の中のわたしの旋律

流れて流れて

届け合う白い鳩たち

私は目覚ましにする

澄んだ青の協和音

深い緑の通奏低音

私は目覚ましにする

響いて響いて

瑠璃

瑠璃

深く沈んだ深海で
瑠璃色のしずくが流れている

少女は瞼を閉じて
瑠璃色のしずくに気づかない

少女は微かに遠くから
柔らかい人魚の声を聴いた

深く沈んだ深海で
心地よい歌声が

瑠璃色のしずくを
なぐさめていた

ぬくもり

ぬくもり

ガソリンで溶かしたチョコレートを

顔に塗りたくり暖をとる

黒海で茹でたブロッコリーを

脚で踏んで柔軟をする

ガソリンを飲み込んだ女が

こちらを見て微笑んだ

海水を飲み込んだ男が

さめざめと泣いていた

食物連鎖

食物連鎖

冬に鶯が鳴いている

あゝとても可愛らしいわね
騒々しい

春に蝉が鳴いている

あゝとても綺麗な声ね
憎たらしい

夏に狼が鳴いている

あゝ泣くことしかできない
可愛らしい

すべての声を捻り潰して

搾り取った血を飲む私

楽典

楽典

倒れかかる白のまるに

直立不動の黒のしかく

五角形の地平線が織りなす和音に

円周率が4.82357

三角錐の底辺が五角形

ビルエヴァンスの丸を鞄に

コルトレーンの四角を静脈に

クリーム

クリーム

貴方のてのひらのなかに満月
淡くて優しい色をはなつ満月

貴方の声は
月の上に生きるさえずり
貴方の指は
廻る宇宙の小惑星

私のてのひらのうえに木星
苦くて甘い味のような木星

煌々と光る隕石たち
息を吐けばガリレオたち

鉈

音速を超えた生活が
蔦のように
私の神経に絡みつく

光速を超えた言葉が
ガムのように
私の頭蓋骨を覆ってゆく

日は西から登り東に沈む
月は満ちて欠けずに溢れ出る

覆ってゆく
覆ってゆく
叩かれ煌めく
私の頭蓋骨

打ち付ける
打ち付ける
縛られ煌めく
私の頭蓋骨

投影

投影

すべての傷が癒えたとして
宇宙の水は綺麗だろうか

すべての傷が癒えたとして
森林たちが唄うだろうか

冷たい音楽が響いたとして
泣き叫ぶ雫が聴こえるだろうか

貴方が
あたたかい凶器を手にしたとて

この地球に聖歌が響くだろうか

橙

橙色の蚊帳が
平面のように街に張り付いている

プリズムを放つ金魚鉢
ゆっくりと歩く恐竜

橙色の蚊帳が
夜に張り付いている

緑と藍色にせめぎあう
マラカスのような人々

橙色の蚊帳が
世界を覆い尽くしている

夜が柚子の匂いで満たされる

あ、

あ、

あ、流水の中の赤

美しい

あ、割れた爪の白

美しい

ざらざらしている毛皮のよう
堅いようで柔らかい

あ、増えてる半透明の頬

美しい

あ、少し猫のようなあたま

美しい

タイムカプセルみたいで
いつもいつも美しい

流通

流通

ベルトコンベアに乗せられた仮面
有象無象の舞踏会

ベルトコンベアに乗せられたわたし
狂乱錯綜の舞踏会

秋に準えワルツのリズム
5つのステップかなり怪奇

流れた仮面が行きつくヘドロ
舞踏会は葡萄のように

流れる仮面は舞踏のように
流れる顔面不凍のように

ベージュのドーム

ベージュのドーム

暗闇に流れるベージュ
悠久の時が流れる藍色

暗闇に佇む足跡
遥か隣に暖かい指紋

暗闇に流れるベージュ
ビロードのような流砂を纏う

暗闇に響く影
光の束で包む惑星

遥か隣にやわらかい声