かんたんな脳とこころの階層と反射について 神経系の理解の一法

・はじめに

 医学や生物学では神経系は他の身体の部分と比べて別に扱います。

 生理学や病理学でも脳は特化した研究分野ですし、脳科学や認知科学として独立した一学問分野も存在します。

 脳の特殊さは形態と機能の関係が良く分からないからです。

 それは複雑すぎるせいです。

 神経系は回路の問題になるので組み合わせが問題になります。

 組み合わせや階乗は爆発的増加を表現する「指数関数的」という言葉よりもっと爆発的に増大し事実上無限を扱っているような気分になる時があります。

 しかし例え複雑であっても仮に精神障害があっても精神は比較的安定したシステムです。

 ここでは脳と心の1つの理論を説明します。

この理論は脳の階層論と神経の反射説という二つの理論を組み合わされて作られた仮説です。

かっこいい(?)言い方をすると器質力動論、あるいはネオジャクソニズムと呼ばれることもあります。

これを知っているとこころの一面を考えやすくなりますのでここで解説します。


・神経系の階層

 神経系の構造と脳の進化を考えます。

 脳は神経系の構造の最上層にあって神経系の進化の頂点にあります。

 脳という言葉を使ってきましたがまず神経系は中枢神経系と末梢神経系に分かれます。

 末梢神経は中枢神経系から目的のものに情報を伝えたり受け取ったりします。

 例えば筋肉や感覚器、血管や臓器などです。

 筋や感覚器とつながる神経は運動や感覚などの動物的な機能を司ります。

 臓器や血管などを調整する神経は自律神経系などと言って人体の内的状態を司るため植物性機能の自律性の調整神経と考えることができます。

 中枢神経系は下から脊髄、延髄、中脳、間脳、大脳辺縁系、大脳新皮質などと言います。

 小脳は中脳に含められるでしょう。

 大脳や新脳や終脳とも大体同じように使うことがあります。

 この神経の階層構造は神経の進化を反映していると考えます。

 つまり進化により脊髄から延髄が発達分化し、延髄から中脳が発達分化し、中脳から間脳が発達分化し、間脳から大脳辺縁系が発達分化し、大脳辺縁系から大脳新皮質が発達分化します。

 そして後に発達分化した神経系はその直前にできた神経系を抑制する機能を持ちます。

 脳と言うと形態的に東部の頭蓋骨にある丸い塊を指すので延髄より上、間脳以上を脳と言うイメージになります。

 大脳と言うと大脳の灰白質と白質、神経細胞の集まった新皮質や連合野、脳梁などの塊を指します。

 これは言語や計算や論理や空間、感覚のモダリティ形成、運動から行動の計画まで知性や理性と呼ばれるものを司ります。

 大脳辺縁系は海馬や偏桃体が含まれていることから推測されるように記憶や情動を司ります。

 つまり知性や理性より情動や記憶の方が昔からあった機能と推測されます。

 間脳は視床や視床下部、それにつながる下垂体などがありより身体内部のホメオスターシスに関わるような機能や感覚器からの情報のフィルター、つまり情報処理の途中経過を司ります。

 中脳にはカテコールアミンやインドールアミンの核群が存在し報酬、覚醒、衝動性などに関係しますし、小脳は運動の調整を行います。

 延髄は色々なモダリティの神経の基部でありまた脊髄に集約されている身体各部の神経の通り道でもあります。

 呼吸のような随意運動も不随意運動も行う活動にも大きく関わり延髄が損傷すると生存が危ぶまれます。

 せき髄は神経線維の通り道であるとともに神経節の名残である神経核が周期的に存在し、それぞれの神経節細胞が司る領域の自律的コントロールも行っています。


・反射について

 脳の階層論と並んで大切なのが反射です。

神経系の最も基本的なユニットは反射である、と言うものです。

普通生物学や心理学で反射と言えば第一回ノーベル医学生理学賞のパブロフの犬のような条件反射が有名です。

特定の学問を離れて反射と言えば光が何かに当たって跳ね返ることでしょう。

放ったものが何かに当たって帰ってくる、鏡でに映ったものを見る等です。

システムの話で言えばフィードバックなども反射に入るでしょう。
このような有名な反射の他に脊髄反射のような原始的な反射もあれば、精神機能を広く反射で説明するような反射を高次脳機能にまで適用して精神機能を説明する考え方が本書の骨子になります。

 精神病理学ではこの階層論と反射論で妄想や幻覚などの精神病症状を説明する考え方もあります。

 つまり階層論で説明した上位中枢が下位中枢を抑制すること、また上位中枢の指令が科直下の中枢で反射されて戻ってきます。

 神経内科学では反射を見るのは神経病理を診るための診察方法ですが、精神科医の中にも患者の精神症状を反射で判断する考え方があります。

 反射が失調しているか更新しているかで整理と病理を考えるのです。

 赤ん坊をよく観察したことがある人であれば心当たりがあるかもしれませんが、生まれたばかりの赤ん坊の運動は脊髄反射でなりたっています。

 これを原始反射ともいいます。

 小児科ではこれを見て赤ちゃんの診察をします。

 赤ん坊では下位中枢を抑制する上位中枢が十分に成長していません。

 大人であれば延髄で抑えられている脊髄反射がそのまま見られます。

 子供の動作の多くは脊髄反射で成り立っていると言えます。

 より上位の中枢が成熟してくるとその上位中枢の反射が見られるようになり、その回の中枢の反射は成熟した上位中枢によって抑制されるようになります。

 脊髄反射が消失すると延髄反射が見られるようになります。

 以下その繰り返しで下位の中枢神経系から上位の中枢系へ順番に反射の更新と抑制が見られていくのが子供の神経発達の理論として実際に応用されます。

 反射はある中枢からその上下の中枢やそこを起点として末梢へ延びる神経と基本的に反射していると考えます。

 行って来いで生きっぱなしはない訳です。

 ただし階層論によると上位中枢は下位中枢を抑制するように働くということですから下位から直上の上位中枢への反射の影響よりは上位中枢から下位中枢への反射の影響の秘奥が強いのかもしれません。

 中枢神経系は上皮細胞などと並んで基本的に結合組織がなくて細胞同士がじかに接しています。

 ですからそれぞれの神経中枢の大きさは神経細胞の数や大きさと相関するでしょう。

 人間の神経系は頭の方程容積も大きく細胞も線維も密集しているようにも見えるので上位中枢程強いのもあり得る話かもしれません。


・心の病気の場合

 定型的に神経が発達した、いわゆる正常な大人と言われる場合にはこの反射弓全体が亢進も減弱もせず逸脱のない安定した状態を保っていると考えます。

 そうではなくてどこかの部位に機能障害が生じた場合、特に減弱や欠損が生じた場合を考えてみましょう。

 例えば大脳新皮質や連合野が機能減弱すれば知性や理性が減弱する一方ですぐ下位の中枢である大脳辺縁系の海馬や偏桃体は活性化するかもしれません。

 海馬や偏桃体が活性化すると記憶や情動に何らかの影響がある可能性があります。

 他の例として大脳辺縁系の機能が減弱した場合を考えてみましょう。

 海馬や偏桃体の異常は記憶や情動に影響がある可能性がある一方で、そのすぐ下の階層である間脳の神経系が更新する可能性があります。間脳には例えば食欲や性差、内分泌に関係する神経系があり、本能の変化とともに身体の生理的変化が生じる可能性があるかもしれません。


・おわりに:心の切り口

 何事もそうであるように物事は色々な観点、側面から考えることができます。

 脳は複雑ですが医学や生物学などでは昔から色々な切り口で研究されています。

 神経系も同じで縦切り、横切り、輪切り、放射線切り(?)、ハニカムのようなコンパートメント切りなど様々な切り口があります。

 それぞれの切り口で神経や精神の病理学の理論的研究が昔から行われてきました。

 今回は階層論の解説をしましたが何かの機会に知性や記憶、情動などの関係を考える際に役に立つ事があります。

 また機会がありましたら他のモデルも解説していく予定です。(字数:3,302字)

現代哲学を広める会という活動をしています。 現代数学を広める会という活動をしています。 仏教を広める会という活動をしています。 ご拝読ありがとうございます。