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【美術展2024#38】民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある@世田谷美術館

会期:・世田谷美術館
     2024年4月24日(水)〜6月30日(日)
巡回:・名古屋市美術館
     2024年10月5日(土)〜12月22日(日)
   ・福岡市博物館
     2025年2月8日(土)〜4月6日(日)

約100年前に思想家・柳宗悦が説いた民衆的工藝、「民藝」。
日々の生活のなかにある美を慈しみ、素材や作り手に思いを寄せる、この「民藝」のコンセプトはいま改めて必要とされ、私たちの暮らしに身近なものとなりつつあります。
本展では、民藝について「衣・食・住」をテーマにひも解き、暮らしで用いられてきた美しい民藝の品々約150件を展示します。また、いまに続く民藝の産地を訪ね、そこで働く作り手と、受け継がれている手仕事も紹介します。
さらに、昨夏までセレクトショップBEAMSのディレクターとして長く活躍し、現在の民藝ブームに大きな役割を果たしてきたテリー・エリス/北村恵子(MOGI Folk Art ディレクター)による、現代のライフスタイルと民藝を融合したインスタレーションも見どころのひとつです。
柳が説いた生活の中の美、民藝とは何か、そのひろがりと今、そしてこれからを展望する展覧会です。

展覧会公式サイト


渡り廊下を通って会場へ。
ここはタイムトンネルを抜けていくようでいつもワクワクする。


エントランス脇のスペースに柳宗悦が提唱したライフスタイルを視覚化した「1941生活展」が再現されている。

日本のものだけでなくイギリスやスペイン、中国や朝鮮半島のものまで、時代も生産国も違う品々が違和感なく等価に並ぶ。
柳宗悦は直接見ることを非常に重視したからこそ日本民藝館を設立したとのことだが、やはり写真で見るのと実物を見るのでは入ってくる情報や感じる直観が全く違う。
一見どれも一様に古めかしい古道具だが、このようなボーダーレスな見せ方は当時の人々にはさぞ新鮮に映ったことだろう。

今となっては当たり前の手法だが、用途や文脈の違うものを合わせることで新しい価値観を生み出す日本のリミックス文化の一端を感じる展示だった。

イギリスの椅子やテーブル
朝鮮の火鉢
日本の鉄瓶や襖

ただ、この空間は本来眺めの良い大きな窓があり、この美術館の個性が際立つ重要な場所でもあるのだが、今回はその場所に室内空間を模して壁を作っているので、窓が潰れてせっかくの見せ場の空間を全く活かしていないのは勿体ない気がした。

その後、第Ⅱ章:暮らしの中の民藝と題して「衣・食・住」の品々が並ぶ。
ここから先はしばらく写真撮影禁止なので公式図録より転載。

公式図録より
公式図録より

ミナペルホネンのタンバリンを彷彿とさせる(正確にはもちろん逆だが)



公式図録より
公式図録より

藍の絞り染めを見ると中国雲南省大理の「白族扎染」を思い出す。
私が大理を旅したのはもう20年も前ことだが、街中に藍染の布がたなびく美しい光景が昨日のことのように思い出される。

こちらは参考までに人民日報の最近の記事 ↓



第Ⅲ章の後半に展示されていた、BEAMSの元ディレクターで現MOGI Fork Art主宰のテリー・エリス&北村恵子氏が自邸で実際に用いている品々を並べた、現代のライフスタイルの中に民藝を取り入れたインスタレーション。

冒頭の柳宗悦の「1941生活展」の現代版のようなものだが、こちらではアフリカや南米のものも多く取り入れており、より広く地球を俯瞰して民藝的なものをセレクトしている。

開発途上国は決して文化レベルや美意識が低いわけではない。
そこには独自の美しいものがたくさんあり、むしろ本来の意味での民藝的なものがまだ多く残されている。
それは私自身アジアや中東諸国を旅して体験した知見でもある。 ↓


スカジャンやスツール60と民藝がmixされた展示。
奥にはバタフライスツールが積まれている。

スツール60は我が家でも愛用している。
こだわりの3本足とカラー。
今となっては安価な模倣品が溢れているので、高価なArtek製オリジナルのアドバンテージは「オリジナルである」ということくらいだが、むしろそれこそが大切だと思っている。

《スツール60》とフィリップ・スタルクの《プリンスアハ》


90年代に青春時代を過ごした私は、当時の古着・ヴィンテージブームにがっつり洗礼を受けたため、今でも「made in U.S.A.」の表記を見るとわくわくしてしまう。
安価な中国製が世に蔓延する中(※中国製を一様に否定するわけではない)、今でも頑なにそれが誕生した土地にこだわって生産している物にロマンを感じるのは民藝品にロマンを感じることと同義だと思う。
だから私は今でもアメリカやイギリスでの本国生産を貫く一部のアパレルには敬意を持っているし、スツール60はフィンランド製であることに意味があり、白族扎染は中国雲南省産であることが大切で、小鹿田焼は大分県小鹿田皿山地区で生産されなければならないと思っている。

我が家で愛用しているいくつかのJ.AUGURの品も、アメリカンビンテージのラグや布切れをJudy Augur氏がチョイスし再構築してカバンにしたり服にしたりと民藝感あふれる一点もののクラフトワークだ。
かのラルフ御大に見初められて、ラルフローレンやRRLの別注バッグやアクセサリーを手がけていたこともある。
このようなストーリーのある品にも心躍らされる。

《MEXIQUE Table》& モン族の蝋纈藍染
《CICOGNINO Side Table》& J.AUGURのラグ
《BERGER Stool》 & RRLのリメイクバッグ
イラン産カシュガイ族のギャッベ

これらの品々は生産国も文脈も価格帯も違うが、それぞれにストーリーがあり私にとってはどれも等価に価値があるものだ。
だから冒頭の「1941生活展」の再現も、テリー・エリス&北村恵子氏の展示もすっきりと腑に落ちた。


だが、「民藝」の元々の成り立ちが、民衆が日常的に使用している無名の職人の手仕事による生活用品の中から美を発掘し紹介するとして生まれた言葉「民衆的工藝」すなわち「民藝」であるとするならば、現代の「民藝品」は「民衆が日常的に使用している生活用品」とは言い難いほど敷居が高く、そして高価になってしまってしまった。

「民衆が日常的に使用」という部分にフォーカスすれば、現代ではそれこそ機械的に量産された安価な工業製品(某N社の家庭用品某U社の服、等)こそ「民衆が日常的に使用」している。
だが、それらはどんなに美しくとも「民藝品」とは呼ばれない。

一方、「手仕事による生活用品」にフォーカスすれば、現代では基本的に手仕事の工程が増えるほどそれが価格に反映されるため「民衆が日常的に使用」するのは敷居が高くなってしまう。
それは「民藝」の元々の成り立ちからは逸れてしまう。

柳宗悦が説明した民藝の特性(日本工藝協会 「民藝」の趣旨―手仕事への愛情)に沿うならば、今「民藝」として存在しているものは本来の「民藝」ではなく、金持ちの(とは行かないまでも生活に多少の余裕がある人々の)趣味趣向のための「MINGEI」だ。

だが、それは健全な発展の姿なのだと思う。
職人のこだわりや美意識、制作工程の工夫や努力、伝統や文化の独自性等々、それまで目に見えずに本来の価値が評価されてこなかったものに価値が見出されて正当な評価が与えられ、それが金銭的な価値に換算されるということは、フェアトレード的な観点から鑑みても正しい


民藝品とは「一般の民衆が日々の生活に必要とする品」という意味で、いいかえれば「民衆の、民衆による、民衆のための工芸」とでもいえよう。

日本民藝協会

世界には今でも数多くの少数民族が昔ながらの土地で暮らしている。
それらの人々が作り出し、地産地消品として今でも日常的に用いられているものこそが本来の意味での「民藝」なのかもしれない。

高価となってしまった民藝品を用いて生活の何から何までを彩ることが(金銭的に)難しい私は、せめて民藝的な思想を大切にして、価値や価格にとらわれずに私のフィルターを通して私なりの美や価値を見出し、こだわりを持って身の回りのひとつひとつの品を選び、大切に扱い、作り手を想い、自分の中にストーリーを描きながら少しずつ暮らしを豊かに彩っていきたい。


出口の物販はちょっとしたセレクトショップかと思うくらい充実していた。
気になるものはたくさんあったが買い出すとキリがなくなりそうだったし、ここで色々揃えてしまうのは「民藝的な思想」からするとちょっと違うかと思い(金の無い言い訳…)、結局図録のみ購入。

どさくさに紛れてバタフライスツールも売られていた。
このスツールはジャパンデザインのアイコン的存在。
世界の名だたる美術館にコレクションされている。
座り心地や強度に関してはそれほど優れているわけではないが、モノとしてのシンプルな存在感は唯我独尊。

我が家の床の間に鎮座するバタフライスツール。
イサムノグチのAKARI&曜変天目(ぬいぐるみ)と。

一民衆の私にとってバタフライスツールの今の価格はやはり高価だし、それを実用的に用いているわけではなく観賞用に飾っているだけなので、私にとっては本来の意味での「民藝品」ではなく、やはり椅子オタクの「嗜好品」なのだろう。
柳宗悦&宗理先生に申し訳ないが、私なりの美との関わり方ということでご納得いただきたい。

森美術館で行われている「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」はどのような世界観を提示してくれるか楽しみだ。(【美術展2024#40】にてレビュー済)



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