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安生正『生存者ゼロ』

安生正『生存者ゼロ』を読んだので感想などを書く。ネタバレは無いように努める。

読んでいる本が終わりかけだったので、旅先のイオンモールの中の本屋さんで購入。本当は違う本を探していたが、品揃えが悪くそちらが売っていなかった。どうしようかと思っていた時にこのキャッチーな本のタイトルが目に飛び込んできた。この本も以前何かの雑誌か何かで見たことがあり、そう言えば気になっていたので購入を決めた次第である。

この本のあらすじは、北海道に浮かぶ石油掘削基地で職員が無残な死体となって発見される。彼らは何かの感染症に感染していると思われた。だが、その原因や正体がわからないまま北海道にその影響が広がっていくというもの。第11回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作らしい。個人的に最近の本かと思っていたが、2014年に書かれたものだ。近年の例のウイルスにインスパイアされたものでは無い。

私が面白いと思った点は大きく3つある。まず一つ目は舞台設定やそのスケール感である。物語は自衛隊員が通信が途絶えた石油採掘基地へ出動するところから始まる。石油採掘基地と聞くと何をしているのかはうっすらとわかるものの、普段多くの人が意識することの無い場所であろう。そこでが舞台となるとまず興味がそそられる。

そこから物語は「未知の感染症」の疑いで進む。そしてそれが北海道に広がって行き、多くの人がパニックになるというものだ。北海道というスケール感が迫力があるし、具体的な地名も多く出てくるのでイメージがしやすい。

二つ目は人間の描写である。登場人物が実に多く出てくるがどれもリアルである。組織で働く者、動く者は結局は組織に利用されたり、組織の言うことを聞かねばならない。時には理不尽な論理も受け入れねばならない。

また政府関係者の描写も多く描かれている。被害が拡大する中、なかなか政府は動こうとしなかったり、迅速に判断を下せなかったりする。総理や大臣は誰もが頼りなく、地方自治体や自衛隊に責任をなすりつけようとする。

三つ目は、これは明言できないが、やはり最後の種明かしである。最後の方で感染症のカラクリというかその正体が明らかになるがそれが1番びっくりする。ただの感染症かと思われていたものが実はそうではないのだ。このどんでん返子は「このミス大賞」の中でもかなりスケールが大きいと思う。(このミスをたくさん読んだわけではないが)


我々はここ数年、例のウイルスによって翻弄されてきた。政府の訳のわからない施策、アベノマスクや20時までの時短営業、などがあったし、様々な混乱やパニックがあった。本書にはそれらの多くが描かれている。まさに、近年の様子を予言したかのようである。

結局のところ、政治家はあくまで政治家なのである。何大臣になろうと、変わるのは肩書きだけで、そこに専門性や経験は伴わない。政府とはそういった人々によって構成されているのである。改めてそう感じた。

本書はとにかくスケール感が大きい。そこにハラハラさせられた。ついつい続きが気になって1週間で読み終えてしまった。(私の1冊の読了までの平均は数週間程度かかる)スケールの大きいハラハラドキドキを感じたい人はぜひこの本を読んだ方がいい。

頂けたサポートは書籍代にさせていただきます( ^^)