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「デザイナー採用が分からない」 70人規模の企業で、採用責任者が直面した課題とやったこと

デザイナー採用をどうやったらいいか分からない

IT企業の中の人たちから、よくお聞きする言葉です。

デザイナーのどこを見て自社にマッチするか判断すれば良いのか、また、デザイナー側はどういった企業を魅力的に感じるのか……。

デザイナー採用の成功事例と言える企業はまだ少なく、ノウハウもあまり出回っていないため、どうすればいいか分からないという企業担当者は多いです。

そこで、デザインカンパニーであるMaslowは、デザイナー採用の事例を紹介していく連載を立ち上げました。

第一回として、Maslowに所属するメンバーであり、過去に5年間、デザイナー採用に取り組んだ米田峻さんの事例を伺いました。

70人規模の企業で、営業職から採用責任者となり、それまで現場のデザイナーが担当していた書類審査や一次面接を巻き取ることになったという米田さん。

「デザイナーを採用する上で、何を見ればいいのか分からない」ところから、20人近いデザイナーを採用するまでの軌跡について聞きました。

デザイナーの気持ちを知る

ーー米田さんが取り組んだデザイナー採用についてお聞きしていくわけですが、まず、米田さんが採用を始めたときの状況を伺えますか?

米田:当時、会社がしっかり成長していくなかで、事業課題として新卒と中途どちらにおいても、デザイナー採用を行っていく必要がありました。

デザイナーは他の職種と比べて、活躍してもらえるレベルまで育成するのに時間がかかります。

ポテンシャルのある人材を新卒で採用しつつ、未経験のメンバーを育成できるような力のあるデザイナーを中途で採ることで、デザイン組織をより強化していくことが狙いでした。

もともと在籍していたデザイナーは7名くらいで、組織の1割くらいの人数だったと記憶しています。

一方、まだ専任の人事はおらず、社長とバックオフィス業務を手がけていた一人の社員が、2人で採用活動を行っている状態でした。

もともと私は、顧客の採用課題や組織課題を解決するブランディングの最前線での仕事をしており、人事も兼業のような形で手伝うことから始まりました。

そこから正式に人事になるにあたり、それまで現場のメンバーが行っていた書類選考や一次面接を巻き取っていく必要が生まれました。

ーーそれ以前から、デザイナー採用は上手くいっていたのでしょうか。

米田:もともと会社の事業がしっかり回っていたこともあって、デザイナーからの応募自体はインバウンドで結構来ていて、良い人材も採用できていました。

そのため、会社としてより攻めの採用に取り組んでいくなかで、私に求められているのは、それまで現場の方たちが行ってきたのと同じレベルの仕事を果たし、専任の人事担当者としてのバリューを発揮していくことでした。

実際に採用活動を進めていくにあたり、まず社内のデザイナーにヒアリングを行ったのですが……。

「こういう人を採りたい」というふうに、スキルや人物像について教えてもらうんですけど、それがどんな人かよく分からない

「デザインはこれぐらいできて欲しいんだよね」と言われても、どれくらいのアウトプットであればそれと同じレベルなのか分からない。

「ポートフォリオを見て判断すればいい」と言われても、その見方が分からないんです。

デザイナーとの共通言語を持っていないことが、人事としてデザイナー採用に取り組む上での最大の課題となりました。

ーーそれは、どうやって解決していったんでしょう。

米田:デザインの仕事に詳しくなろうとするのではなく、「デザイナーの気持ちを知る」ことに注力しました。

具体的には、社内のデザイナーの話を聞き、デザイナーとしての仕事の楽しさや辛さについて、詳しく聞くということをやりました。

デザイナーの仕事をやっていて、楽しいところ、大変なところ、こういうときにやりがいを感じる、こういうときは辞めたくなる、などなど……。

自分がデザイナーになるわけにはいかないので、その仕事がどういうものかを真の意味で理解することはできません。

しかし、「デザインの仕事で心が動くのはどういうときか」を知ることはできると考えたんです。

実際に話を聞いてみると、「デザインを95%完成させてから、残りの5%を詰めていく過程が楽しい」という人もいれば、「他社サービスの事例を調査しながら自社サービスにおける最適解を見つけていく過程が楽しい」という人もいました。

そういったお話を聞いていくなかで、グラフィックやWebなど、さまざまな領域の仕事に取り組むデザイナーそれぞれの思考プロセスが見えるようになっていきました。

見るべきは「意図のあるアウトプットができているか」

ーーデザイナーと会話し、仕事をするなかで何に楽しさや辛さを感じるのかを聞くことで、デザイナーの思考への理解度が高まっていくと。それは、採用活動にどのような影響を及ぼしたのでしょうか?

米田:デザイナーの思考プロセスに迫っていくなかで、「そんなに難しく考えなくていい」と気づけたことが、大きかったと思います。

デザインのことだと考えると、自分がそれをできないから、どうしても身構えてしまうものですが……。

結局、専門的な領域であっても、仕事をする上で大切なことは、他の職種とあまり大きな違いはないなと気づいたんです。

具体的にそれが何かと言うと、「ある課題をデザインで解決しようとするとき、どういう意図でその成果物が生まれたのか」をちゃんと話せることです。

それは例えば、代替案としてこういうものがあったけど、こういう理由から、こういうふうに判断した……というような話です。

もちろん、その成果物によって、狙いどおりの結果が出ないことはあると思うんですが、とはいえ、ちゃんと狙ってやっているかどうかが重要だと捉えています。

なおかつ、その意図をしっかり言葉にして伝える能力があるかどうかもチェックする。

これらは、私が他の職種の採用活動を行うときも見ているポイントなのですが、「普段の採用でやっていることと同じことをやれば良いんだな」という意識は、私のデザイナー採用への取り組み方を方向づけました。

ーーデザイナー採用において、採用候補者が、ちゃんと意図のあるアウトプットを出せているかどうかと、その意図を適切に伝えられる言語化能力があるかどうかを重視するようになった。それは、他の職種の採用活動でも同じように、大切にしていることだと。

米田:採用活動に取り組んでいて思うことなのですが、「なんとなく」で仕事をやっている人って、案外たくさんいるんです。

「このデザインは、どういう意図でこの色と形になったんですか?」と質問したとき、ちゃんと話せない人って、本当にたくさんいて。

その点、なぜそのデザインになったのかを話せる人は、そのアウトプットが生み出した結果が狙いどおりだったかを振り返り、成長していける

そういった、成長角度の高い人かどうかを見極めることが、デザイナー採用においても大切なポイントだと考えています。

もちろん、回答いただいた内容をちゃんと理解できなければいけないので、ある程度はデザインについて勉強しました。

それは、デザイナーと一緒にプロダクトづくりをする近しい職種の仕事内容も含めてです。

ーーデザイナーの仕事そのものというよりは、アウトプットの背景にある思考や人間性を掘り下げていくということですね。

米田:自分は人事なので、デザイナーの気持ちは分からないし、それを知るために自身がデザイナーになるわけにもいきません。

また、自分がデザインの仕事をできるようになったからといって、デザイナーを採用できるようになるかと言えば、そうでもありません。

結局、私たち人事に求められるのは、採用したい職種の仕事そのものを理解することではなく、その仕事に取り組んでいる“人”を知ることです。

そのために必要なのが、その職種に対する一定のレベルの知識と、採用候補者の内面を引き出すための傾聴力なのだと思います。

これは、採用候補者に自社を魅力的だと思ってもらう上でも、大切なことだと捉えています。

人事担当者のスタイルにもよりますが、自分の意向としては、デザイナーに限らず、採用候補者と共通言語で話せるかどうかはとても大切です。

なぜなら採用候補者は、自分が受けようとしている会社の人事が、自分の職種に対して理解があるかどうかを最初に見るからです。

採用候補者からすれば、自分がやっている仕事の意味や大変さを分かってもらえるかどうかは、本当にとても大事なことですから。

ーーそのように、米田さんが採用活動に取り組んだ成果がどうだったのか、気になります。

米田:人事の仕事は採用して終わりではないため、はっきりと「こういう成果が出た」とは言いづらいのですが……。

私が採用活動をしたのは、在籍していた2年前までの、5年間くらいです。

その間に私が採用を担当したデザイナーは、新卒・中途合わせて20人くらいで、新卒と中途の内訳はちょうど半々くらいでしょうか。

その中で辞めた人は数名ほどと伺っており、この時期に採用した人たちが現デザイナー組織のリーダーを担っているなど、組織にマッチするデザイナーを採用するという観点では、かなり良い結果を出せたと思います。

しかし、採用時にしっかりすり合わせできていたとはいえ、彼ら彼女らが組織に定着したのは、それぞれがデザイナーとして成長し、自分たちの手で会社を働きやすい環境にしていけたことが大きいと捉えています。

成長意欲が高く、自分の意向をしっかり言語化して伝えられる人たちを採用でき、また、それを受け入れられる組織風土があった。

そのため、それぞれのデザイナーがしっかり成長し、組織のケイパビリティが増え、受けられる案件や仕事の幅が広がり、結果的にデザイナーが楽しく仕事に取り組める環境になった。

今も懇意にしている社員たちに話を伺う限り、そのような背景があるようです。

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それでは、引き続き記事をお楽しみください!

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対象が専門職であっても、採用活動の根っこは同じ

ーー結局、今回のお話を要約すると、「デザイナー採用で大切なことは、相手がデザイナーだからと言って色眼鏡で見ないこと」ということでしょうか。

米田:そうですね。

相手がデザイナーであっても、課題に対するアプローチを意図的に行えているか、自分の思考を適切に言語化できる能力があるか、人間性が組織にマッチするかどうかといった、誰を採用する上でも大切な部分をちゃんと押さえることが肝心だと思います。

デザイナーと一口に言っても、Webやアプリ、グラフィックといった領域の違いはありますし、リーダークラスの人材を採用したいならマネジメントの能力も見る必要があります。

とはいえ、一番見るべき根っこの部分は変わらない。これは、どの会社でも同じだと思います。

ーー最後に、これから米田さんと同じような立場で、デザイナー採用に取り組む人へ伝えたいことは何かありますか?

米田:私は初めて人事としてデザイナーの方と面接をしたとき、とても大きなミスを犯してしまいました。

デザイナーの仕事について無知だった私は、何かにつけ、「それはすごいですね」と言ってしまったんです。

自分にとっては未知の領域である、デザインという仕事に取り組む人のことを、「自分にはできない、すごいことをやっている人」というふうに捉え、畏怖を感じてしまった

よく「デザイナー採用ってどうしたらいいですか?」と聞かれるのですが、みんな当時の私と同じように、知らないから怖がっているだけだと思います。

確かに、デザインへの知識がゼロでは務まりませんし、他の職種の採用と勝手が違うところもあります。例えば、どの媒体に採用広告を出すのがいいかといった細かい部分は、職種によって異なりますが……。

何度も言うように、採用活動における根本的な部分は、相手がデザイナーだからと言って変わりません。それはもちろん、他の専門職であっても一緒です。

専門的な技術について深く理解することは難しいかもしれませんが、採用候補者の人となりを知ることはできます。

未知の領域であっても無闇に恐れず、その職種に就く人びとの思考を理解することに努める。

そのように、人に向き合う採用活動を通じて、事業を前に推し進めることこそが、人事が生み出せる価値ではないでしょうか。

というわけで、米田さんの事例について伺いました。

彼と同じく、70人規模くらいの会社で初めて人事担当者になったという方や、初めて現場のメンバーとして面接をするというデザイナーの方にとって、とても参考になる事例だったと思います。

小さな会社であるほど、一人のメンバーが組織に与える影響は、大きなものになります。

採用候補者のスキルセットを見ることももちろん大切ですが、組織にマッチする人間性かどうかや、現時点で成長が見込めるような行動を取っているかどうかを見極めることは、米田さんが何度もおっしゃっていたように、対象がデザイナーであってもそうでなくても、変わらないことなのでしょう。

今後もMaslowではデザイナーやその周辺でプロダクトづくりに取り組む人びと、そういったチームでの経営を行う人たちに向けた記事を発信していきます。

さいごに

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話を聞いた人

米田峻(よねだ しゅん) 新卒で採用・コーポレートブランディングを手がける企業に入社し、営業プロデューサー、営業マネージャー、新卒採用責任者、人事マネージャーとして携わる。その後、ユーザベースグループの株式会社ミーミルに入社し、ビジネスプロデューサーを担当。Maslowではプロデューサーとして参加している。Twitterアカウント:https://twitter.com/Gengoka_Yoneda

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