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残り30ページの夜ふかし

通勤時間で小説を読む。

「あぁ、あと約30ページで読み終わってしまう…」
というところで、目的地に着く。

こんなことが、多々ある。


到着する前にピッタリ読み終わる、ということは難しいだろう。
たいてい、途中で中断して、栞を挟み、本を閉じる。

しかし、あと数十ページで終わる時というのは
物語の中で、
一番次の展開が気になる場面だったり、
クライマックスだったりする。

場合によっては泣きそうになっていたり
胸がドキドキしている時もある。

そこで、中断された時のいたたまれない気持ち。
…そのやり場を先ほどまで、探していた。


夜。

結局、帰宅して、あとは寝るばかりの状態になって落ち着いてから、
気になって仕方がない続きをようやく読む。


あと数十ページなので、
ほんの少しの夜ふかしで済む。と、思うのだけれど…

読み終わったあと
しばらく余韻に浸る。

あとがきを読み、
あとがきの文章と自分の感想を頭の中に羅列し、天井を見つめながらぼーっと比較してみたり。

「なるほど確かに、あのシーンはそんな解釈もあるのか」
「あとがきを書いた人の文章も素敵だな」
「他の作品も読んでみようかな」

こんな調子で、しばらくその作品の後味を楽しむ。

その時間を含めると、
まあまあな時間の夜ふかしになってしまう。


…時にはそんな夜があってもいい、と思う。

誰かに感想を聞いてもらいたくなったり、
語り合いたくなったりするけれど、
あとがきで十分満足できるし、
どうしても難しいところや考えてしまうところについては
読んだ人のレビューや感想を見ればその欲は満たされる。

しかし、夜更かしをして読了した物語は
その余韻としばらく向き合うことで
その作品と一対一で真剣に向き合っている気がする。


静かで、孤独で、
少し寒い気がするような、夜の時間。

その時間が、私はとても好きだ。


しっかり自分なりにその作品を消化できたら
同じ作品を読んだ誰かに出会えた時に直接、語り合える日を楽しみにしている。

「それ、私も読みました!」
「この作家さん好きなんです」
「この作品が一番好きでした、おすすめです」
「あのシーンのあのセリフ、響きました」
「これって、どういう意味だと思います?」

こんな風に、共感したり、一緒に考えたり、お互いに好きなところを伝え合ったり。
いつか訪れるかもしれない、誰かとの会話を楽しみに。

今日も私は
作者と、あとがきの著者と、自分の感想を比較し、考え、会話し…。
読了した本の余韻に浸っている。


今回読み終えたのは
町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』。

単行本の頃からずっと気になっていたけれど、余裕がなくてなかなか読むことができず。
文庫化しているのを本屋で発見して購入してから、最近になってようやく読むことができた。


次はどんな物語との出会いが待っているのだろう。

物語は
夢を与えてくれる。
知識を与えてくれる。
視野を広げてくれる。
こんな夜の、至福なひと時を与えてくれる。
一つの作品について、誰かと語り合える喜びを与えてくれる。


エッセイやテキスト、自己啓発本も魅力的だけれど

架空の物語を通して、
何かを感じたり、得たりすることができる。
間接的で、遠回しだけれど、確かに伝わってくる作者の伝えたいこと、意図を探る。
フィクションはそれぞれ感じ方や学び方が違い、正解がないため
一人で読んでも、誰かと語り合っても、
とても楽しい、と感じている。


私は、小説が好きだ。


そして、最後のデザートのように残しておいた、一番美味しい部分。

夜ふかしをして
残り数十ページを読了した後の余韻に浸る時間が
もっと好きだ。


2023.12.15

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