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ムラング・イタリエンヌって、なんだ?[クリーム編vol.4]

「美しいなあ…」
白くきめ細かい美肌を前に、思わずつぶやいていた。
私はどうだ。ただ今7連勤中、この調子ならまだ続くだろう。
家に帰るのは深夜。バタっと気絶するように眠り、目覚めてそのまま出勤するのが早朝5時。
とうぜん体臭もキツくなり、肌も荒れる。心も荒む。女としての魅力を失い、仕事中にお菓子に話しかける始末。
「あなたは強いね…」
100℃を超えるシロップを浴び、めちゃくちゃにかき乱されても、こんなに凛として美しい。
おまけに炎で炙られてもグラデーションの美しさが出るときた。
完敗だ。でも、憧れちゃうな。
私も、あなたみたいになれるかな。
強くて美しい、あなたみたいに。

おはようございます!真白けいです!
お菓子の面白さ・奥深さを広めるために、見習いパティシエとして皆さんと一緒に学んでいきます。
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今回のテーマは、ムラング・イタリエンヌ です!
カタカナの羅列…!!
でも大丈夫。その実態を知れば恐るるに足りない!!
早速勉強していきましょう!!

Meringue italienneって、なんだ?

この長い横文字をそのままにはしておきたくないので、まずは結論から!ババン!!

meringue italienne
(ムラング・イタリエンヌ)
||
卵白に煮詰めたシロップを注ぎながら泡立てた
メレンゲ

だからそのメレンゲとはなんやねん!っちゅうねん!って話ですよね。

メレンゲ
(フランス語ではムラング)
||
卵白に砂糖を加えて泡立てたもの

なーるほどね。この例えは前にも出したかもしれませんが、甘くて食べられる洗顔フォームみたいなやつです。
メレンゲ界にムラング・イタリエンヌという国があると、そういうことですね!

さー!間違い探しをしてみましょう!
チッ、タッ、チッ、タッ、チッ、タッ……
チーン❗️
正解は「メレンゲの砂糖が、ムラング・イタリエンヌではシロップに変わっている」でした〜!

ちなみにシロップは砂糖を水に溶かしたものですよ!

砂糖をシロップに変えたところで、なにが違うの?って思いますよね。

実は、ムラング・イタリエンヌには、重量的に卵白に対して2倍の砂糖が入っています!!

…あれ?みなさんのテンションがついてきてないぞ…?
それ多いの?ってなっちゃいました?

多いです。むっちゃ甘い…。
ノーマルメレンゲには最大でも1倍、つまり同じくらいまでしか砂糖は入りません。

いれない」のではなく、「はいらない」。
卵白の水分に、砂糖の粒子が溶けきれません。
つぶつぶで残っちゃいます…。

じゃあどうするの?
先に溶かしてしまおうホトトギス、というわけです。

(すみませんホトトギスは溶かしません。ホトトギス好きな方申し訳ありません)

ということで、ムラング・イタリエンヌのスーパーエクストリームな作り方!

鍋に水と砂糖を入れ、水分を飛ばすように煮詰め、泡立てておいた卵白に注ぎながら、さらに泡立てる!

水分を飛ばしたいのは、もともと欲しいのは砂糖だからです。
こうすることで、いつもの2倍の砂糖を入れることに成功!滑らかなメレンゲになりました!ってことらしいです。

さらに!こうすることで、シロップの熱で卵白の空気が一気に膨張したところでタンパク質が固まり、ボリュームも出る!

さーらにさらに!砂糖が多いので離水しにくい!みなさんと以前一緒に勉強しました!砂糖が水分を掴んで離さないからですね!

さ〜らにさらにさらに!シロップは約120℃で加えるので、その熱で卵白が殺菌されて、ムラング・イタリエンヌは生で使える!
(…まあこれは眉唾とも言われてるみたいだけど。)

なんだよ!いいことづくめじゃん!
そうなんです。
だから、いろんなお菓子で使われます。

ムラング・イタリエンヌを使うお菓子

メレンゲとムラング・イタリエンヌ親子の使われる場面を比べてみましょう!

[親父メレンゲ]
・卵黄と混ぜてパータ・ビスキュイとして焼く。
・アーモンドなどと混ぜてシュクセ生地として焼く。マカロンにも。
・他の生地に混ぜ込んで軽い食感にする。

焼いてますね。そっか、離水しちゃうからか。
焼くしかないんだ。親父は。

(すみません人間の親父を焼くわけではありません。オヤジ好きな方申し訳ありません)

[末っ子ムラング・イタリエンヌ]
・マカロン生地として焼く。
クレーム・オ・ブールの食感を軽くする。
・ムースに入れて食感を軽くする。
クレーム・パティシエールと合わせて食感を軽くする。
・アイスクリームに使う。
・タルト・シトロンなどに絞り、バーナーで表面を炙ったり、オーブンで軽く焼いてグラデーションの焼き色をつける仕上げに。
・糖菓としてヌガ・ド・モンテリマールやマシュマロの軽くて甘い特徴に。

す、すーぱーえりーと…!
甘くてー、軽くてー、焼かずに食べられる
ってハイスペックぶりだもんね…!そりゃー引く手あまただわ!

そんな親子ですが、まずは親父から由来をご紹介しましょう。こちら6説あります。笑

メレンゲの由来[説①]

まず叫ばせてください。
由来が多すぎるー!!
卵と砂糖さえあればできちゃうもんですから、多分そこかしこでいろんな人が作っちゃったんでしょうね。
いやー調べるのも骨が折れました。全身疲労骨折。
それではまず1つ目いきましょう!

現代に残された、16世紀のとあるレシピメモ。
そこには、イギリスの主婦の言葉で、「pets」「white bisketbread」の名でメレンゲにとてもよく似た特徴のものが記されている。

ありえます。どこからでも生まれる余地がありますから。

それにしてもpetsってそのままペットだよね?って思って調べたら、お気に入りって意味もあるんですね〜。1つ勉強になりました!
それまでのクッキーとは違う食感の白いクッキーがお気に入りだったのかな…。

メレンゲの由来[説②]

場所は移り、イタリアはアブルッツォ地方のある一家。「ズッケ・マリターテ」と呼ばれたそれは、卵白に砂糖を加えて泡立てて焼いたものと、ホップとスイカの種と粉糖を混ぜたものを、これまた混ぜたもの。

待って…。わかんない…。
まずメレンゲを焼いてから混ぜてるの??混ざる?それ?
あと、ホップとスイカの種…。わかんない…。
かぼちゃの種じゃなくて…?

あ!そうか!今思いついたんですが、グラノーラ的なやつじゃないですか?
ホップとスイカの種とメレンゲに粉糖をまぶしたグラノーラです!
記述しか残ってないのでなんとも分かりませんが、そんな気がする!

メレンゲの由来[説③]

1720年、スイスはベルン州の山間の村マイリンゲンにて、イタリア人菓子職人ガスパリーニが発売。

今度はスイスですか…!今回はあっちゃこっちゃ場所が変わります。
しかも売ってんのはスイス人じゃないんかーい!ややこしー!!

由来的には、マイリンゲンメレンゲ(英)やムラング(仏)やメリンガ(伊)やらになったっちゅう話です。
しかも、この説には有力と思われる理由がもう一つあります。

現在でもマイリンゲン村では名物としてメレンゲを売り出しており、1日1500個売れるらしい。

そう、今でも名物なんです。メレンゲ発祥の地ってアピールしていることもあるとは思うけども。
ただ、証拠となる文献は世界大戦で焼失してしまったらしく、残っていないそうです。
本当に残念です…。

メレンゲの由来[説④]

ほぼ同時期である18世紀、ポーランド国王からロレーヌ公となったスタニスラス・レクチンスキーの悩みは、娘マリーが王妃として嫁いだルイ15世の浮気。

どええ!全然違う話始まりましたけど…!
とりあえず続きを聞きましょう。

そこでスタニスラス、娘マリーに向けて数々のお菓子のレシピを送り、お菓子作りでルイ15世の気持ちを繋ぎ止めるよう画策。その中に、マルツィンカという名の硬く泡立てた卵白と砂糖を合わせて焼いたポーランド菓子があり、これをきっかけとしてフランス宮廷にメレンゲ菓子が広まった。

なんかかわいいね、この話。
でも案外こういうことがきっかけで文化が伝播して行ったりするんですよね。
それにしてもポーランド…!今回は幅が広いですね!
長くなってきましたがあと2つです!

メレンゲの由来[説⑤]

舞台は1800年、イタリア北西部マレンゴ村。この地で起こった戦いに一度は撤退しつつも勝利を手にした男の名は、ナポレオン・ボナパルト。彼に仕える料理人デュナンが、祝い菓子として作ったそうな。

なるほど。マレンゴ→ムラングと言うわけですね。
は!いかん!納得しかけた!

実は、ボクはあんまりこの説は支持しません。なぜなら…

その戦いの夜デュナンが拵えた料理は鶏のマレンゴ風として今でも残っています。しかし!これには、補給の部隊が後方におり、現地でかき集めた食材で作ったというエピソードがあります。

なので、結構な食料の危機に、お菓子作ってる場合かなって思っちゃいます。
個人的な意見としては。

メレンゲの由来[説⑥]

時代は遡り1692年に出版された、フランス宮廷料理人フランソワ・マシアロットの本がある。のちに英訳されることにもなるそれに、メレンゲの記述がある。

おっと!これまでの説の中でも、メレンゲの名前が出たのはこれが1番早かったという主張ですね。

でもどうかな〜。なんだかな〜。
だって今までの説はなんだかんだ名前の由来があったじゃないですか。
急にポンって名前出して1番早いですよって言われてもなー。うーん。

メレンゲの由来、まとめと妄想

お疲れ様です。ここまで長かったですね。
まー、ボクがあんまり納得していないのを除外すると、大きく分けて3つの由来になるのかな。
あ、妄想入ります!

(α)[説①]のみ

[事実]イギリスで、「pets」「white bisketbread」と呼ばれるメレンゲによく似たものが存在した。

もうこれは名前の由来にもなっていないので、そうだったんだな〜、ありえるな〜って、ただ素直に思います。

(β)[説②]→[説③]

[事実]イタリアでズッケ・マリターテが食べられる

[妄想]ズッケ・マリターテ作りのノウハウを持った者、スイスのマイリンゲンへ移住し、ガスパリーニ生まれる

[妄想]ガスパリーニ、菓子職人として力をつけていき、ズッケ・マリターテのメレンゲの部分だけを大きく作ってみる

[事実]1720年、マイリンゲンでメレンゲを発売する

[妄想]評判を呼び、村で流行る

[事実]村の名物として伝わり、現在1日1500個売れる

いかがでしょうか。こういうルートもありかなーって思います!

(γ)[説④]のみ

[事実]ポーランドでマルツィンカが存在

[事実]スタニスラス・レクチンスキーの娘マリー・レクチンスキーがルイ15世の王妃となる

[事実]スタニスラス・レクチンスキー、ポーランド国王を退きロレーヌ公となる

[事実]レクチンスキー親娘、ルイ15世の浮気に悩まされる

[事実]スタニスラス、マリーにお菓子のレシピを送り続ける

[事実]マリー、他のお菓子と共にマルツィンカを作り、ルイ15世へ渡す。

[妄想]宮廷で評判になる

[事実]メレンゲ菓子が広まる

ほぼ妄想なしでお届けしたのでこっちも確定ルートだなーって思います。

いかんせん時代が古いのではっきりとはしないですが、その分考察の余地が残されていますから、ぜひあなたもあなたなりに妄想してみてください!
そしてよかったらコメントで教えてください!
どんな意見でも待ってます!!

ムラング・イタリエンヌの由来[独自考察]

これに関しては、この子には2人兄がいるんですが、そのメレンゲ三兄弟に便宜上名前をつけただけで、イタリアとかの地名は必ずしもその土地と関係ないっていわれてるみたいです。

でもそんなの物足りない!
なので少しだけ独自に考察してみました!!

まず、italienne(イタリエンヌ)というのは、「イタリアの」って意味です。

ただ、現地イタリアのメレンゲの製法を調べても、むしろフランスから伝わってシロップを注ぐやり方をし始めたらしいんです。

じゃあ、と思って、フランスの食に関するものでイタリエンヌと名のつくものは、他に何があるか調べました。

ボクの調査で出てきたのは、
ソース・イタリエンヌと、
グラス・イタリエンヌだけでした。

まずソース・イタリエンヌは、マッシュルーム、たまねぎ、エシャロット、バター、白ワイン、トマトピューレ、ドミグラスソース、ハム、パセリなどでできる料理のソースで、関係なさそうなので諦めました…。

次にグラス・イタリエンヌについて、フランス語でグラスはアイスクリームのことで、つまりイタリアのアイスとなるみたいなんです。

イタリアのアイス……ジェラート?!
と思いついたのにどうやら違う!!
あくまでフランス人目線のイタリアなので、ジェラートとは乳脂肪分が低めで軽いアイスのことを指す!つまり!!
日本で言うところのソフトクリーム!らしい!

glace italienne
(グラス・イタリエンヌ)
||
日本のソフトクリーム

ここで少し可能性を見出しましたわたくし!

一つ目!ムラング・イタリエンヌはアイスクリームにも使われる!

二つ目!どっちも甘くて軽くてスッと溶ける!

三つ目!ソフトクリームとかジェラートのあの白くてうにょんって伸びる感じ、ムラング・イタリエンヌと似てる!!

「おおお!!これあるんじゃない!」
テンション爆上がり
。笑

つまり!!

「グラス・イタリエンヌ」と名付けられたアイスと、似た特徴を持つメレンゲを「ムラング・イタリエンヌ」と名付けたのではないか!!

しかもアイスという共通点があるから思いつきやすい!

どうだろ!!当たってたら嬉しい!!!

以上考察でした!お付き合い頂きありがとうございます。

結局、ムラング・イタリエンヌって、

「秘密主義のエリート」だと思った。
だって、お菓子の中でこんな活躍の場が広くて屈指のハイスペックさを持ちながら、生みの親さえわからない。名前の由来もわからない。
めっちゃかっこいい!!クールだなー!!

みなさんもぜひ、パティスリーでムラング・イタリエンヌの美しいグラデーションを見つけて、食べて、堪能してみてください!!

ということで今回は以上です!
長くなりましたが最後までお付き合い頂き本当にありがとうございました‼️

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今回に関連する「」「クレーム・オ・ブール」「パータ・ビスキュイ」「シュクセ」に関しても学んでいきたいと思うので、興味のある方はフォローしていただくと、すぐにお届けできます!
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次回の大テーマは…
クレーム・シブースト」!一緒に今回の復習会しましょう!

参考文献多いぞ〜今回。疲れたもん。

参考文献
猫井登、お菓子の由来物語、幻冬舎ルネッサンス、2011
中山弘典 木村万紀子、科学でわかるお菓子の「なぜ?」、柴田書店、2018
川北末一、プロのためのわかりやすいフランス菓子、柴田書店、2018
イタリエンヌ、コトバンク、閲覧日2021-3-11、https://kotobank.jp/word/イタリエンヌ-1494210
フランスのアイスの種類、フランス菓子ラボ、閲覧日2021-3-11、https://www.patissieres.com/douceurs/glaces/
Q&A、日本ジェラート協会、閲覧日2021-3-11、http://www.italiangelato-kyokai.com/?page_id=19
野いちごのグラスイタリエンヌ、exciteブログ、フランス料理 ウェロニカ・ペルシカ、閲覧日2021-3-11、https://www.google.co.jp/amp/s/vpiruma.exblog.jp/amp/20097642/
イタリアにスイス?メレンゲの違い、食育大事典、閲覧日2021-3-11、https://shokuiku-daijiten.com/mame/mame-815/
ムラング・イタリエンヌ、パティシエwiki、閲覧日2021-3-11、https://www.patissient.com/wiki/ムラング・イタリエンヌ
メレンゲの種類は?イタリアン・スイスメレンゲなどの作り方と使い方は?・安全性は?、美味しい料理のポイント、閲覧日2021-3-11、https://syunnminn.com/merennge-1740
メレンゲ(菓子)、Wikipedia、閲覧日2021-3-11、https://ja.m.wikipedia.org/wiki/メレンゲ_(菓子)
ふわふわケーキを焼くには欠かせない!メレンゲを発明したのは誰?、miroom、閲覧日2021-3-11、https://miroom.in/articles/icingcookie/merenge
メレンゲ-Meringue、Wikipedia、閲覧日2021-3-11
メレンゲ Meringue、フランス菓子ラボ、閲覧日2021-3-11、https://www.patissieres.com/douceurs/meringue/
メレンゲ、スイス政府観光局、閲覧日2021-3-11、https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/food-and-wine/recipe/meringues/
ロレーヌの地方菓子、フランスおいしい旅ガイド、閲覧日2021-3-11、http://candle-chocolat.com/lorraine1.htm
フランソワマシアロット、Wikipedia、閲覧日2021-3-11、https://nipponkaigi.net/wiki/François_Massialot
鶏のマレンゴ風、Wikipedia、閲覧日2021-3-11、https://ja.m.wikipedia.org/wiki/鶏のマレンゴ風
【お菓子史】メレンゲとフランス菓子、パリパリマセマセ、閲覧日2021-3-11、https://parismasse.net/?p=530
ムラング、一般社団法人日本洋菓子協会連合会、閲覧日2021-3-11、https://gateaux.or.jp/ufaqs/ムラング/
疑問No.787、素朴な疑問集、閲覧日2021-3-11、http://tadahiko.c.ooco.jp/GIMON/QA/QA787.HTML
スタニスワフ・レシチニスキ、Wikipedia、閲覧日2021-3-11、https://ja.m.wikipedia.org/wiki/スタニスワフ・レシチニスキ

※この記事は上記の参考文献を元に執筆しました。諸説あるものは一部のみ紹介しています。
また、新たな事実を勉強し次第、追記・編集する場合があります。

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