パータ・ビスキュイって、なんだ?[生地編vol.2]
名前も知らずに、食べている。
洋菓子のスポンジは一種類だ。
違う。
ショートケーキのあれだけだ。
違う。
違いなんて、どうでもいいのか。
パティシエだけが、知っていればいいのか。
おいしい、それだけでいいのかもしれない。
それがお菓子にとって正義だろうから。
スポンジ生地です、で済ませる笑顔の裏、
呑み込んだ黒い塊。
それを消化してしまいたい。
だから今日も書いている。
おはようございます!
見習いパティシエ、真白けいです!
今よりもっとお菓子屋さんへ行くのが楽しくなる!そんな知識をあなたと一緒に学んでいきます!
読んでくださった方は、ボクのやる気スイッチ、スキを押していただけるととっっても嬉しいです!遠慮なくお願いします!
今回のテーマは、パータ・ビスキュイ です!
初耳です。はじめまして。
でもなんか名前はビスケットに似てる…?
てことは硬い生地なのかな?
ふっふっふ。
さあどうでしょう。一緒に見ていきましょう!
Pâte à biscuitって、なんだ?
初対面の人と仲良くなるには、まず顔と名前を一致させること!
ということで結論からどうぞ!ドン!
pâte à biscuit
(パータ・ビスキュイ)
||
卵白と砂糖を泡立て、卵黄と小麦粉を
混ぜ合わせて焼くスポンジ生地
ここで前半部分にちゅうもーく!
卵白と砂糖…メレンゲのことかーーーっ‼︎‼︎
メレンゲに、卵黄、小麦粉を混ぜて焼きます!
ふんわりしておいしそうッ!!
そうだ、メレンゲなんだっかなーって方はこちらをどうぞ。
こいつは、卵黄と卵白を分けて作るので、別立て法と呼ばれます。
…なんや、別立て法て。ほんなら別立てじゃない法もあんのかい、あんちゃん?んん?
あります。
共立て法と別立て法
別立て法
||
卵黄と卵白に分けて泡立てた後に
混ぜ合わせる方法
別立て法はさっき言ったように、分けるやり方のこと。
卵白だけ泡立てる時もあれば、卵黄も泡立てる時もあります。
分けなきゃなので、少しメンドクサイ。
パータ・ビスキュイは、別立て法で作ります。
共立て法
||
卵黄と卵白を分けずに一緒に泡立てる方法
分けない方は、共立て法というらしいです。
卵黄も卵白も共に泡立てるので、共立て法。
先生に怒られそうな時に、友達を売るのが友盾法。なんつってなんつって!
失礼しました。
[vol.1]で紹介したパータ・ジェノワーズは共立て法で作ります。
でもでも、別立て法でもどうせ後から卵黄と卵白を合わせるなら、共立て法となにが違うの?
って思いますよね。
だって別になってるのは泡立てる工程だけなのに。
それが、どうやらだいぶ変わるんです。
実は、主に泡立つのは卵白のほうで、卵黄は脂肪分を含むのでむしろその泡を消していってしまいます。
卵黄は泡立てのときにはおじゃま虫なんです。
だから共立て法では卵の温度を少し上げてわざと泡立ちやすくしますが、そうしてできた泡もやはり消えやすいのです。
焼いてできた生地も、共立て法では泡一つ一つが細かく、噛んだらシュワっと消えるようなふんわり感があります。
逆に別立て法だと、メレンゲが何者にも邪魔されずにのびのびと成長するので、丈夫な体を手にします。
その後卵黄が混ざっても耐えて、焼き上がった生地もよく膨らみ、しなるようなものになります。
なるほど、と。
だから共立て法のパータ・ジェノワーズは、やさしい口溶けのショートケーキにうってつけなんですね〜。
じゃあパータ・ビスキュイさんはどんな風に使われるのか気になりません?気になりますよね?はい、気になります。
こちらです。
・しなるのでロールケーキの生地に。
・ふわっと軽くブッセの生地に。
・丈夫なのでシロップを打ってもボロボロになりにくく、ふわっとしててよく染み込むのでムースの底生地や、ティラミスに。
・出来上がった形を維持してくれるので絞ってシャルロットの周りの生地に。
・アーモンドの味わいを濃くすればビスキュイ・ジョコンドに。
・それ自体軽いのでビスキュイ・ド・サヴォワやビスキュイ・ア・ラ・キュイエールとして焼き菓子に。
は、幅広し…!
軽くて丈夫、というのは使い勝手がいいんです。
水筒だってフライパンだって靴だってそうですよね。
みんな軽くて丈夫なのが好きなんです。使いやすいから。
もしかしたらみなさんも、スポンジと言ったらボブ!
…じゃなくて、ショートケーキの生地、つまりパータ・ジェノワーズを思い浮かべるかもしれませんが、
意外と言うか、パータ・ビスキュイさんが頑張ってくれてます。
パティシエにとっては、ここでもメレンゲの状態を見極めたりコントロールするのが一層大事になってきます。
オーブンで焼けばかさや食感で如実に結果が現れるので、ごまかしが効きません。
しなりを強くするのか、ボリュームを出すのか、しっとり焼くのか、毎日そこに向き合っているわけです。
ということでパータ・ビスキュイの出来も、やっぱり💪ここです。
さあ、だんだんあなたもケーキを食べるときに生地に注目してしまうようになってきたでしょう?笑
パータ・ビスキュイの由来
さあ、由来です!
特徴的なのは、この名前です。
ビスキュイは「biscuit」と綴りますが、
bis = 二度
cuit = 焼く
という意味になります。
ここでボクは思いました。
二度焼く?!二回焼いてあのふわふわに??
ところがどっこい、やっぱりというか、パータ・ビスキュイは二度焼くなんてことはしません。普通に一回だけです。
ならばなんでそんな名前になったのか…。
さあ共に歴史の波へ!
(ⅰ)古代ローマ帝国の時代、軍隊用・航海用の保存食として、パンを切ってもう一度焼いて乾パンのように乾燥させたものが存在。
出ました!ここで二度焼きが登場です。
でも全然お菓子じゃありません。あくまでいざという時に食べられる用の工夫です。
(ⅱ)スペインにて、パンのように発酵させずに、小麦粉や卵から直接作って二度焼きするビスコチョが生まれる。
なるほど。
パンを膨らませるにはイーストという菌で時間をかけて膨らませる手間がありますが、
結局カチカチにするなら、メンドクサイし膨らませなくてよくねー、ってなったようです。
膨らませないで混ぜて作る。
少しお菓子寄りになってきました…!
このビスコチョ、スペイン語で「二度焼く」という意味なのでやはり意味は一緒です。
(ⅲ)スペインにて、ある時ビスコチョを卵を泡立てて作ってみたところ、ふわふわの生地が焼けた。
来たきたーっ!!ふわっとしてきました!!
こういうの、今までむしろ練ってたのに、最初に泡立ててやってみた人、本当にすごい。
それとも、更なる美味しさを求める人類からすれば必然の進化でしょうか…?
そしてここで思い出して欲しいのは、前回の記事。パータ・ジェノワーズのルーツ。
もう一度リンクを載せておきます。
そう。
スペインでスポンジ生地が発展した。
ここに繋がるのはもうおわかりでしょう。
二度焼きパンからスポンジへ。
実は、元々はビスキュイ(ビスコチョ)はスポンジ生地全体を指す名前でした。
ならば、なぜ現在は別立て生地だけにビスキュイの名が残っているのでしょう。
ここからはボクの妄想を含みます。
[事実]スペインにて、二度焼きの意味であるビスコチョが進化してスポンジ生地になる。
↓
[妄想]なのでスポンジ生地全体をそのまま
二度焼きの名で呼んだ。
(スペインならビスコチョ、
フランスならビスキュイ)
↓
[妄想]よりボリュームを出すために卵白を
分けて泡立てる方法が考案される。
(この段階では、
スポンジ生地=ビスキュイ=別立て)
↓
[妄想]全卵のままでも、温めることによってボリュームが出ることが発見される。この方法で作られる生地がパータ・ジェノワーズになっていく。
↓
[事実]現代では、
共立て法…パータ・ジェノワーズ、
別立て法…パータ・ビスキュイ
(=ビスキュイの生地)
2人は途中から生きる道が分かれてしまったんですね…。
一緒にされがちですが、違う生き方をしてきてます。
由来は、おわりっ!
結局、パータ・ビスキュイって、
もとは軍・航海用パン。いかつい目的で生まれた彼は今、世界中で人々を笑顔にしています。
日本では、ショートケーキ人気から「スポンジ生地といえばパータ・ジェノワーズ」というイメージがついてしまってるのではなかろうか。
スポンジ界でパータ・ジェノワーズと双璧を成す、この生地の名も覚えておいてあげてくださいね…!!
ということで今回は以上です!
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「パータ・ケック」です!お楽しみに!
参考文献
猫井登、お菓子の由来物語、幻冬舎ルネッサンス、2011
川北末一、プロのためのわかりやすいフランス菓子、柴田書店、2018
ビスキュイとは?、オークラだより、The OkuraTokyo、閲覧日2021-5-19、https://theokuratokyo.jp/letter/pastry/article-07/
ビスコチョ、戦後日本の津々浦々、閲覧日2021-5-19、https://proto.harisen.jp/mono/mono/bisukocho.html
大航海時代、はるかなインド洋を渡って、文明堂の歴史、横浜文明堂、閲覧日2021-5-19、https://yokohama-bunmeido.co.jp/history
※この記事は上記の参考文献を元に執筆しました。諸説あるものは一部のみ紹介しています。
また、新たな事実を勉強し次第、追記・編集する場合があります。
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