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メタルの蘇生とプログの死: 僕の見た10年

おかげさまで、Marunouchi Muzik Magazine もめでたく10周年を迎えられた。これはもう、ひとえに読者の皆さま、そして取材に協力してくれたアーティストたちのおかげだ。僕ががんばったからだなんてあんまり思ってないんだよね。僕のがんばりなんて、日本盤のボーナス・トラックくらいのものよ。お為ごかしでもなんでもなく、読んでくれる人がいるから、喜んでくれる人がいるから、また書こうって思うわけで。だからね、本当にありがとうしかないんだよ。

で、10周年を迎えるにあたり、一度初心に戻って振り返ってみようと思ったんだ。弊誌はそもそも、BURRN! が扱っていないようなアーティストを紹介したいという気持ちから始まった。誤解しないで欲しいんだけど、日本に BURRN! があることは、僕たちメタル・ファンにとってとても幸せなことだ。BURRN! がメジャーなアーティストを掲載してくれるからこそ、日本からメタルは消えないし、来日公演も次々に開催できているわけだよ。

だけどね、90年代くらいから、メタルの多様性が花開き、とめどなく細分化が進んでいくことになった。基本的に日本盤が発売されるアーティストを掲載している BURRN! だけでは、どうしても拾いきれないほどにヘヴィ・メタルの裾野は広がり、続々と才能溢れる新世代のメタル・バンドが登場してきたわけなんだ。

僕は、その拾いきれない部分をなんとかカバーしたかった。だから、モダン=多様性と定義して、モダン・メタルを中心にインタビューを続けてきたんだよ。プロのライターでもモダン即ち FEAR FACTORY みたいな近未来的サウンドと未だに思っている人がいるけれど、大間違いだよ。メタルは90年代からずっと、次々と勃興し、波のように寄せては返す新たなジャンルを全て喰らい、その血肉としてきた。そんなジャンル・イーターなバンドたちこそが、モダン・メタルの真髄なんだ。

そうして僕は、現在のメタル世界の有り様を、メタルの生命力、感染力、包容力という言葉で表現することにしたんだ。生命力。だって、90年代のキッズなら誰だって、メタルの絶滅を心配したはずだよ。危機感を肌に感じていたはずだよ。ロキノンじゃなきゃ音楽じゃないみたいな時代がたしかにあったんだよ。でもね、消えたのはどっちだい?

メタルは様々なジャンルを飲み込み、あらゆる場所で感染し、どんな制約をも設けない。近年、第三世界のヘヴィ・メタルの勢いは本当に凄まじいものがあるよね。そうして、一見攻撃的でダークなヘヴィ・メタルに宿る優しさや寛容さが世界中、あらゆる場所のあらゆる人にとっての希望の光となっている。メタルには崇めるべき神も、虐げられる主人も、壁となる国境も存在しない。年齢や人種、宗教や信条を問わずすべての人々と分かち合える。そんな現代の理想郷、そして逃避場所をメタルは育んでいる。きっと今、多くの人がそう感じているはずなんだ。

つまり、ヘヴィ・メタル自体がレジリエンスなんだよねえ。回復力、反発力を他のどんなジャンルより発揮して、今、多くの人の "回復" を支えているわけなんだ。うん、これは結構伝えられていると思う。

で、僕はこの雑誌を始める際、もう一本の柱を立てていた。ご承知の通り、"プログ" だ。

かつて、予定調和や当たり前が嫌いで、常識を疑うことしか知らなかった少年にとって、プログレッシブ・ロックやプログレッシブ・メタルは神の啓示のように思えた。だけどね、残念ながらこのジャンルは衰退の一途を辿っている。

あんまりこういう一般論みたいなことは言いたくないんだけど、どうやら世の中は "インスタント" な世界になってしまったようだ。時間をかけたくない。要点だけを知りたい。簡素化して欲しい。余計なことは必要ない。僕はねぇ…真逆だと思うんだよねぇ。余計なことにこそ、面白みがあるんだと思うんだけどねぇ。不自由の中にこそ自由があるんだと思うんだけどねぇ…まあとにかく、そんなヤツが本当にいるのかは知らないけど、倍速視聴だとか、ギターソロをスキップするだとか、ストリーミング配信ですべて事足りるだとか、そんな世界になってしまったらしい。うん、完全にプログレッシブとは相容れない世界だよねぇ。

たしかに、プログ自体、定型化してもはやプログレッシブを体現していないという批判は的を得ていると思う。だけどね、それ以上にアホみたいに時間をかけて練習して、練りに練った32分の大曲を作ろうなんてニューカマーはほとんどいなくなってしまったんだよね。"見合わない" から。

それこそ、この雑誌を始めた10年前にはまだ Djent が栄華を極めていて、複雑な音楽をウルトラハイテクニックでぶちかましてやろうという若者も多くいたわけだけど、結局見合わなかったんだろうなあ。そしてあの方法論自体、飽きられてしまったんだろうなあ。本当にプログのニュー・リリースは大幅に減ってしまった。

だけどね、やっぱりプログは僕の原点の一つ。絶対に消えてしまって欲しくはない。だから、最後に昨年僕の心に響いたプログ・メタル作品をいくつか紹介しようと思う。せっかくなので、日本であまり紹介されていないものを。


まずはねえ、なんといっても THERESHOLD だよねぇ。"Dividing Lines"。バンド名が読みにくいせいか日本では未だに微妙な人気だけど、いやー、これは傑作でしょう。とにかくメロディーが良い。良すぎる!爽やか!歌える!そしてそこはかとなく知的!安っぽい近未来感!これはねー、ぼっちちゃんで言えばパリピぼっちちゃんだね。 THERESHOLD、スレッショルドと読むんだけど、意味は敷居とか入り口。文字通り、プログの敷居を跨ぎやすくしてくれるようなバンドだよね。昨年の海外メタル系サイトの年間ベスト常連だったね。


お次は、Charles Griffiths の "Tiktaalika"。METALLICA みたいなタイトル。HAKEN で Richard Henshall の陰に隠れていたギタリストがひっそりと世に出したソロ作だ。まさにぼっち・ざ・ろっく。もうね、最近の HAKEN より良い!YES と BTBAM が METALLICA の力によって悪魔合体したようなイーヴィルなプログメタル!そんでなんか知らないけどメロディーまで良い!複雑怪奇で凶暴で難解だけどメロディーも良い!あざざます!ちなみに僕はヨルさん派だ!


あと、僕は "ヘヴィメタル/ハードロックこの曲を聴け!" くらい執拗に、口を酸っぱくして ELDER を聴け!と言い続けているんだけど、たぶん日本でまだ6人くらいしか聴いていない。残念すぎる。サイケ・トリップした極上の OPETH とでも思ってくれればいい。ぼっちちゃんで言えば、路上で溶けるぼっちちゃんだ。海外プログ系、アングラ系サイトでは1位を獲得しているところも多い。日本も大好きで、浮世に生きているらしい。


最後は Noah の "Recollection"。一応、シンフォニック・メタルと銘打たれてはいるんだけど、非常に好奇心旺盛で、想像力の翼をくれるようなプログレッシブ作品。ただただ浸れて美しい。日本のコンポーザー/ギタリストだけど、その才気やDIYぶりを鑑みれば真のぼっちちゃんだと思う。

他にも、DISILLUSION とか、WILDERUN とか、PERSEFONE とか、AN ABSTRACT ILLUSION とか、Devin Townsend とか、HALLAS とか、Jakub Tirco とか、昨年はプログ・メタルの傑作が実は多かったんだねぇ。 えっ?話がちがう?プログは全然死んでないじゃないかって? うんうん、そのあたりの真相はぜひ、Marunouchi Muzik Mag でたしかめて欲しい!そうだよ、ただの宣伝だよ!言っておくけど、僕の虚言癖はキタちゃんにも負けず劣らずだ。好きでもないのにすぐに結婚しようと言ってしまう。だから、ギター弾けないのに堂々とバンドに入る女。ゴミ箱を漁ってまで嘘をつく女。嫌いじゃないよ。ともあれ、今年もよろしく!


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