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遂に来日が決定した HAKEN の一体何がすごいのか?!: 傑作 "The Mountain"10周年によせて

「"The Mountain" というタイトルは、僕らにとっての苦しい闘いの象徴のようなものかな...そう、文字通り。バンドはプログを演奏することを選んだけれど、それは今の時代にとても大変なことなんだ。この曲は、僕らがバンドとして直面する挑戦と、僕ら全員が一緒になって真実の山を登っていく様を表しているんだよ」

HAKEN は過去10年間、プログレッシブ世界の古典とモダンを誰よりも巧みに交差させてきたバンドです。そんな名品揃いの中でも、"The Mountain" はバンドのサウンド、スタイル、作曲能力の発展だけでなく、プログ・メタル全体の歴史的、社会的な文脈において、明らかに噴火の瞬間で金字塔でした。

1990年代、DREAM THEATER は、セカンド・アルバム "Images & Words" でプログ・メタル第一人者としての地位を確立し、ジャンルの雛形を作り上げました。DREAM THEATER の初期のデモやデビューLP、さらに FATES WARNING や QUEENSRYCHE がプログ・メタルの伝道師であったことは確かですが、"Images & Words" では、プログ・メタルの枠組みにより幅広い色彩のパレットを持ち込み、そうすることでモダン (多様) で豊饒な新しい言語を生み出したのです。

「初めて "Awake" を聴いたときは衝撃だった。当時 METALLICA が僕 (Richard) のお気に入りで、Kirk Hammett が世界最高のギタリストだった。でも友人に DREAM THEATER を聴いたことがあるかと聞かれた。その翌日、僕は "Awake" を買ったんだ。15歳かそこらだったかな、僕は Ross と一緒にいた。"Erotomania" まで聴いて革命が起きたように感じたね。彼らは間違いなく、バンドとして僕たちに大きな影響を与えたよ。
93年にマーキーで DREAM THEATER を見たんだ......観客は10人くらいいたかな......(笑)。だけど今、ウェンブリーのようなアリーナで演奏すると、即座に完売する。それはすごいことだよ。彼らはこの種のジャンルで、あのような規模になる最後のバンドになるような気がするんだ」

今やプログ・メタルという広大なタペストリーの中には、多くの枝別れした道がありますが、それでもこの30年間、DREAM THEATER はプログ・メタルの象徴として君臨し続けています。逆に言えば、このジャンルの栄光は彼らにのみ集中して、少なくとも商業的にプログ・メタルは徐々に枯れていったという側面もあるのかもしれません。
むしろ、DREAM THEATER が打ちたて、守り続けたメタルにおけるプログの地盤は、モダン・メタルの領域において多くの実りを得ました。00年代、OPETH, BETWEEN THE BURIED AND ME, MASTODON のように、典型的な "プログ・メタル" ではないバンドが "プログ" の影響を公然と認め、プログ要素をメタルへと取り込んでいきました。そして、プログ・メタル空白の時代に、そうした裏プログ・メタルがヘヴィ・メタル界の主流となりつつあったのです。 

2010年代に入って、マイク・ポートノイが DREAM THEATER を脱退。本家が次の10年を模索する中で、インターネットやレコーディング機材の進化による "ベッドルーム・ミュージシャン" が台頭します。誰にでも音楽が作れて、発信できる。副業としてのメタルが可能となり、商業性から解き放たれた "プログ" の世界はここで再度羽ばたきました。
メタル・コアからメシュガー・スタイルのポリメトリックなリフ・デザイン、ポスト・ハードコアのエモーションに近未来のアトモスフィアを抱いた djent の登場です。このサウンドは00年代からひっそりと、地下室や寝室で育まれ、ネットの片隅で徐々に支持を増やしていましたが、2010年に PERIPHERY のデビュー作がリリースされた瞬間、ビッグバンの時を迎えました。そして彼らの音楽は、現代的で多様でありながら、テクニカルかつキャッチーを極めた点で、DREAM THEATER の王位を継ぐものとして期待を集めていったのです。 

https://smash-jpn.com/live/?id=4076

「多くの人がいつも僕たちに言うんだ、メタル・バンドなのか?プログレ・バンドなのか?ってね。僕はいつも、自分たちはプログレッシブ・バンドだと言っている。プログレッシブであるならば、サウンドは進化すべきだし、新しいサウンドを探求し、影響を受けたすべてのものを可能な限り讃えるべきだよ。
僕たちはたくさんのインスピレーションや影響を受けていると感じている。ティグラン・ハマシャンのような音楽が大好きだし、Elbow も好きだ。
イギリスに Everything, Everything というバンドがいるんだけど、彼らはインディー・ロックなんだけど、プログレッシブな影響も受けていて、ポップでもある。ヘヴィなものだけでなく、そういうものも好きなんだ。バンド全体が本当にバラエティに富んでいて、それが僕たちの多様なサウンドにつながっている」

そうした背景の中で、ついにこの物語の主人公 HAKEN が登場します。彼らのデモ・アルバムは2000年代後半にリリースされ、プログのディープな地下コミュニティで好意的な反応を得ていました。重要なのは、先述のバンドたちがほぼアメリカから登場したのに対して、HAKEN は英国にルーツを持つことでしょう。ゆえに、彼らが影響を受けたバンドは DREAM THEATER 以上に伝統的なプログレッシブ・ロックの系譜に傾倒していて、DREAM THEATER, OPETH, そしてプログの4大バンド以外にも、GENTLE GIANT, VAN DER GRAAF GENERATOR, IQ, MARILLION といった数多の英雄の残留思念が、当時フォーラム主導の黎明期にあった djent と共存共栄を果たしていたのです。
そのデモの強みを背景に、HAKEN はプログの重鎮ザ・レーザーズ・エッジの姉妹レーベル、センサリー・レコードと契約を果たしました。そしてスタジオ・デビュー作 "Aquarius" は、すぐに熱狂的な喝采を浴び、現在 ProgArchives の2010年ベスト・アルバム第3位にランクするほどの人気となったのです。

"Aquarius" は、複数の楽章からなる壮大な構成とアルバム全編に及ぶコンセプチュアルな展開を誇り、その濃密なストーリーの中で、インタテクスチュアルなモダン・プログレッシヴ・ロックやメタルが乱舞するバンドの個性が確立されました。翌年には "Visions" がリリースされ、同等以上の評価を得ます。細かいディテールや作曲スタイルが煮詰められ調整された作品は、コンセプト・アルバムの栄華を極め、22分強に及ぶこれまでで最長のタイトル曲も収録されました。

「"The Mountain" の歌詞を見始めたら、人生の葛藤や苦難を克服するといった同じようなテーマがあったんだ。だから、目標に向かって頂上まで登っていくというようなアイデアが浮かんだんだ。"In Memoriam" は......僕たちはみんな喪失を経験した人間だから、愛する人を失って、その過程をどうやって乗り越えていくかという内容なんだ。愛する人たちを失っても、彼らは心の中にいてくれる。
一方で、"Because It's There" は現代の音楽産業でバンドをやっていくことの苦労や、バンドを軌道に乗せ、続けていくことの難しさを歌っているんだ。だから、アルバムは個人的と一般的、両方の歌詞が混ざったものなんだ。何を目指しているかに関係なく、誰もが共感できる部分だと思うよ」

それでも、今年10周年を迎えた2013年作の "The Mountain" は、HAKEN のタイトルの中でも "霊峰" であり、あまりに高すぎる山脈です。最初の2枚は、バンドが自分たちを主張しようと躍起になっていた面があり、そのために信じられないほど濃密で多忙な作品となりました。重く飽和したプロダクションは彼らの長大な作曲と相まって、疑いようもない彼らの素晴らしい演奏と豊かな想像力に幾許かの警戒感を抱かせたかもしれません。

ゆえに、"The Mountain" で彼らは、作曲と編集に対してより "冷酷" なアプローチをとるようになりました。多くの場合、曲の長さだけでなく、競合する音のレイヤー数も削っています。同時に、"djent らしい djent" から脱却。その結果、楽曲にはより透明感が増し、空気と呼吸に満ち溢れ、連続的で終わりのない楽器の攻撃とは対照的に、素晴らしいバランス感覚で妙技が配置されることになりました。各パートの複雑さや重さレコード全体の難解さを犠牲にすることなく、映えるメロディとアトモスフィア。

1970年代のプログ、特に GENTLE GIANT からの影響を感じさせながらも、アンビエント、ジャズ、シンセ・ポップ、そして "Because It's There " ではグリッチ・ホップのドラムまで、斬新な影響をふんだんに取り入れた8曲を聴かせてくれます。このアルバムは、ヘッド・バンギングのための十分な衝動を保ちながら、ジャジーな華やかさ、心を揺さぶるクワイア・アレンジ、ホーンをふんだんに使ったネオ・プログレへの傾倒、アクロバティックなリフ、サイケデリックなキーボード、何層にも重なった幻想的なボーカル、そしてサーカス・ミュージックから抜け出したような華やかさが共存するプログ・メタルの新世界。

「"The Mountain" では、本当に独創的なものができたと思う。僕らにとっては間違いなく異質なものだ。6つのインプットを持つことでそれぞれの曲に独自の風味を持たせることができた。 "Visions" には、1つの長く流れるような潮流があって、それがセクションごとに分かれている。でもこのアルバムでは、それぞれの曲に独自のスタンスとメッセージを与えたかったんだ。歌詞が伝わるようにね。コンセプト・アルバムのフォーマットを繰り返すよりも、今までやったことのないことをやってみたかったんだ。物語的なアプローチは少し窮屈になりがちだから」

"The Mountain" はコンセプト・アルバムではないにもかかわらず、様々な曲の中で形を変えて現れるモチーフの発展が特徴的で、サウンド的、想像的、感情的な統一感が白眉。主に美しさに焦点を当てた短いトラックが散りばめられていることで、このレコードの5つの "長編" は、より特別に感じられ、より新鮮で消化しやすくなっています。プログレッシブ・ミュージックの世界では、1枚のレコードを完全に消化し、心に花を咲かせるには何十回も聴く必要があるとよく言われますが、ある意味、用心しなければ、この思想はプログ世界を衰弱させる可能性のある諸刃の剣。透明で奔放な見せ方よりも、楽曲の密度と不透明さのレベルを上げることを奨励しているのですから。それでは届く人がきっと限定されてしまいます。

"The Mountain" で HAKEN は、MOON SAFARI を思わせる "The Path" や "Because It's There"、アルバムのクローザー "Somebody" における PORCUPINE TREE のようなアトモスフィアなど、より歌に重点を置いた、美しく、ロマンティックなプログレッシブ・ロックの開放に目を向けました。
一方で、プログの偉大な美点のひとつは、影響を臆することなく大胆に示すこと。仲間や伝説的なミュージシャンたちの作品と対話することに誇りを持って、歴史を描くこと。"Pareidolia" は11分にも及ぶ、完璧なプログの傑作。MR. BUNGLE の狂気じみた "Ars Moriendi" にほとんど肉薄しています。HAKEN はおそらく、1曲の中で異なる拍子記号を狂おしくいじくり回すギネス記録の保持者にもなれて、この曲ではその変化が特に邪悪に、そしてクールに聞こえます。
つまり、HAKEN はこの作品でプログのクラシックと現代の風景との共生関係を見事に達成し、同時に "ノン・プログ" リスナーへと訴えかけるアクセシブルな魅力を提示しました。それは文字通り、"The Mountain" 聳え立つ山脈のように高い壁。実現できたバンドはごく少数に限られます。

「曲をもう少しスリム化したかったし、絶対に必要だと感じないものはすべて捨てたと思う。ボーカルと歌詞は最も重要な要素であるべきで、リスナーへのメッセージや結びつきが最も強くなる場所なんだよ」

中でも、"The Mountain" を名作以上の傑作に導いたのは、"Cockroach King" の存在でしょう。GENTLE GIANT や QUEEN のカノンや重層なコーラス・ワークス、ザッパや KING CRIMSON に匹敵する数式のシンコペーション・セクション、そして DREAM THEATER 以降のプログ・メタル・スタイルの美麗まで、プログ世界のあらゆるものがこの楽曲では見事にブレンドされているのです。
この曲は、HAKEN が "The Mountain" で培った、より明瞭で透明感のあるプログ、そのセンスを示す最良の例のひとつでしょう。しばしば全く異なるセクションが同時進行で数多く存在するにもかかわらず、決して雑然とせず、存在するそれぞれの音楽要素が明確な役割を果たし、それぞれのスペースを与えられています。その結果、DREAM THEATER の "Metropolis Pt.1"、BETWEEN THE BURIED AND ME の "Selkies"、PAIN OF SALVATION の "Beyond the Pale" といった楽曲と並んで、"Cockroach King" はこのジャンルの真の偉大な名品となったのです。 

「"Cockroach King" には、"Killer Queen" を思い出させるような、本物のイギリス人のエキセントリックさがある。表面的には楽しそうな曲だけど、メッセージはかなりダークでカフカ的なんだ。ゴキブリの王様とは、僕たちの中に常にある欲という自然な本能を表している」

"The Mountain" の成功は、皮肉にも HAKEN にとって険しい山脈となりました。そのため、彼らが次にとった行動は、すぐに新しいスタジオ・アルバムを作るのではなく、デモの音源を書き直して、"Restoration" というタイトルのEPを再録音することでした。以前の "散らかしていた" 部分を捨て、これからより中心的な存在にしたかったメロディーとリズムのモチーフを拡大。"The Mountain" と次のスタジオLP "Affinity" をつなげるミッシング・リンクとして完璧に機能することとなりました。

「"1985” で僕たちは、自分たちにとっての80’s サウンドというものを幅広く取り入れてみたんだ。だからリスナーが、例えば Michael Jackson のような傑出した80年代のアーティストを想起しても驚きではないね。
僕は Charlie がこのリフを思いついた時、YES の “Owner of a Lonely Heart” が心に存在したと思うね。1985年と言えば、僕は1歳の赤ん坊だったから、スポンジのように物事を吸収していたよ。だけど、Charlie は9歳だったから、この年が彼により深いインパクトを与えているだろうね」

ゆえに、"Affinity" が、HAKEN がこれまでに制作したアルバムの中で最もフック志向の強い作品として飛び出したことも驚きではありませんでした。このアルバムで彼らは、1980年代のサイバー・フューチャリズムを背景として、アーキテクトによって作られたコンピューター・ウイルスをめぐる物語の展開に合わせて、1980年代特有の煌びやかさや艶やかなレトロ・フューチャーな美学を身にまといました。この数十年の間に、80年代の音の美学は、まずモダンなものとして、次にキッチュなまがいものとして、そして陳腐なものとして処理され、最終的に文化的で想像主義的な記号として彼らの作品に現れることになったのです。

「音楽の多くはヴィンス・ディコラという男にインスパイアされている。彼は "ロッキーIV" の音楽を書いたんだ。ロッキーIVのサウンドトラックを聴いたことがあるかどうか知らないが、僕らは大ファンなんだ。彼はトランスフォーマーの映画も手がけている。僕らにとってはシンセベースの80年代ロック天国だよ!」 

"Affinity" では、常に活動している音の量が "The Mountain" よりも平均的に濃く感じられますが、より良いプロダクションと、デモ音源を編集する目を持ったことで研ぎ澄まされたセンスにより、相対的に密度が増しているにもかかわらず、アレンジは非常に読みとりやすく、解析しやすくなっています。
加えて、"Affinity" 全体を通して、より演劇的な装飾が施され、音色とムードに歌詞そのものと同様に直接的に物語を語らせることに成功しました。その結果、アルバム全体にまとまりが生まれ、独立した曲の集まりとしてではなく、緊密に結びついた曲の集まりとして聴かせることがより可能になったのです。ゆえにリスナーは、曲が終わるという感覚ではなく、シーン・シフトに近い感覚で楽曲の終わりを味わい、"The Mountain" より1曲長い作品にもかかわらず、彼らのアルバムの中で最も短く感じられるようにも思えます。アルバムを聴き終わっても感情的な疲労感はなく、むしろ、そのエンディングの緊張感によって、もっと聴きたいという活力が湧いてくるのでしょうか。

「アルバムを書くたびに、自分自身やバンドメンバーについてより多くの発見があるし、新しい色やムードが生まれる。そのプロセス全体が僕にとってとても楽しいものだから、それをさらに進めていくのが楽しみなんだ」

以降、HAKEN の音楽的な旅路は続き、ついに来日公演の決定にもつながりました。ただし、今でも "The Mountain"、そして "Affinity" での革命がバンドの地位を確立し、シーン全体のあり方を変えたことはたしかです。洗練を勝ち得たこの2枚は、HAKEN の広大な未来が約束されたレコードであり、バンドが野性的で豊かなイマジネーションを持つ "プレイヤー" の集まりから、曲とアルバムの両方のレベルで噴出するような作品を想像するアーティストへと変遷した記念碑だと言えるでしょう。 

「今でも "The Mountain" のことは究極に誇りに思っているよ。初めて成功を味あわせてくれたという意味では、僕たちのキャリアにとっても重要なマイルストーンとなったね。あの作品がリリースされてから、以前よりも多くのドアが開くようになったんだ。評判は広がり、あのパペットの MV(Cockroach King) はネットのCMにもなったから、僕たちはより多くの人のレーダーにかかることとなったんだよ。
僕たちのようなバンドは、まず名前を知ってもらって、ファンにシェアしてもらうところから始るんだ」


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