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2023年10月の記事一覧
『珈琲とか?』 # シロクマ文芸部
珈琲とかはお好きですかって?
今、そう言いましたよね、珈琲とかって。
どうなんですか。
言ったか、言わないのか。
そうですよね。
言いましたよね。
だって、そう聞こえましたもん。
それって、自分で何を言ってるかわかっていますか。
珈琲はお好きですか、それならわかります。
こちらも、返事はYESかNOですよ。
それで、YESなら、例えば、いつもはホットですかアイスですか、好きな銘柄は何ですか、こんな
『忍者ラブレター』 # 毎週ショートショートnote
いわゆる置き手紙とでも言うのだろうか。
このところ残業続きで疲れ切っている。
もう化粧も落とさずに、何もかも放り出して眠りたい。
そう思って開けた1人暮らしのアパートのドア。
その足元にこの手紙は、置かれていた。
明らかにラブレターだ。
差出人はわからないが、私はその人の人生で一番大切な存在らしい。
待て待て。
宛先はどこにもない。
私の名前どころか、固有名詞など一切書かれていない。
そもそもど
『りんご箱』 # シロクマ文芸部
りんご箱、ええ、私はりんご箱でした。
と言っても、若いあなたはご存知ないでしょうか。
私みたいな板切れを打ちつけた箱に、りんごを入れていたなんて。
そうですか、最近はインテリアとして売られているのですか。
それは、それは、よかったです。
そうなんですよ、昔は本当に私の中にりんごが入れられていたのですよ。
りんごとりんごの間には、おがくずを詰め込んだりして。
でも、私の役目はそれだけではなかったの
『数学ダージリン』 # 毎週ショートショートnote
ダージリンが好きだって言ったことがあったかなあ。
あったかもしれない。
設定の際の、数ある質問事項の中に、
「紅茶では何が好きですか」
そんな項目があったような気もする。
多分、他の種類を知らないので、適当にダージリンと答えたのだ。
もちろん、大好きと喜ぶほどではないが、嫌いではない。
だから、ダージリンが出てくるのは別に構わないのだけれど。
ただ、どうしてこれが数学と結びついたのかだ。
何かが
『秋桜』# シロクマ文芸部
「秋桜」と書かれた小さな札が立っていた。
まるで位牌のようだと思った。
コスモスと書かずに、漢字で書いたのには、もしかするとそのような思いもあったのかもしれない。
もしそうなら、そこに書くべき名前を書けなくしたのは私たちなのだ。
それにしても、しばらく見ない間に増えたものだ。
私は風に揺れているコスモスを一本一本丁寧に抜いていった。
後でまた植えられるように。
父が亡くなった。
葬儀の段取りで
『スべり高等学校』# 毎週ショートショート
「いよいよだな」
タカシが屋上から下を見下ろした。
「あっという間だったけどな」
僕は逆に崖を見上げた。
天気のいい昼休みには、屋上のベンチでみんな勉強している。
年号や英単語を覚えるには打ってつけの時間だ。
来週から推薦入試が始まる。
できれば、春まで待たずに進路を決めたい。
思いはみんな同じだ。
僕もなんとか3校に推薦してもらえることになった。
タカシとはひとつも重なっていない。
崖の上で
『最後の良心』 # シロクマ文芸部
「走らないでください」
男は黄色い拡声器を手に叫んでいた。
スーツには皺がより、ところどころシミもできている。
ネクタイは緩んで、それは伊達に緩めたと言うよりも、もう役割は終えたとすべてを諦めたかのようだった。
その前を、人々は駆け抜けて行く。
我先にと、前の人の腕を引っ張り、転んだ人を踏みつけながら。
悲鳴と怒鳴り声と、夥しい数の足音。
その向かう先には、大きな船。
世界最大と呼ばれる豪華客船よ
『秋の空時計』 # 毎週ショートショートnote
ようするに、あれか、娘ごころと秋の空ってやつか。
違うってのか。
そんなこたあ、言わせねえよ。
なんだ、差別だと。
娘ってのがいけねえってのか。
笑わせんじゃねえ。
てめえみてえなババアを娘って言ってやってんだ。
ありがたく思えってんだ。
だいたい、今何時だと思ってんだ。
約束は何時だよ。
この雨ん中をよ、どんだけ待たせやがんだ。
まったく、てめえの心みたいに冷てえぜ。
いや、てめえの心にくらべり