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『珈琲とか?』 # シロクマ文芸部

珈琲とかはお好きですかって?
今、そう言いましたよね、珈琲とかって。
どうなんですか。
言ったか、言わないのか。
そうですよね。
言いましたよね。
だって、そう聞こえましたもん。
それって、自分で何を言ってるかわかっていますか。
珈琲はお好きですか、それならわかります。
こちらも、返事はYESかNOですよ。
それで、YESなら、例えば、いつもはホットですかアイスですか、好きな銘柄は何ですか、こんなふうに会話が続くんですよ。
わかりますか。
それを、何ですって。
とか、ですか。
珈琲とか。
とかって、何なんですか。
それって、ね、あ、ごめんなさい。
ちょっと、くらくらしてきちゃった。
深呼吸させてくださいね。
ああ、そこに座らせてもらいますよ。
ふう。
はい、大丈夫です。
で、その、とかですよ。
珈琲っていうのは、この世界で唯一無二の飲み物なんですよ。
わかりますか。
もっと言えば、今、世界中のあちらこちらで淹れられている珈琲の一杯一杯が、世界でたったひとつの珈琲なのですよ。
あら、ごめんなさい。
あなたには、ちょっと哲学的だったかしらね。
わかりやすく言いますね。
あなたの言い方は、珈琲にとっての侮辱です。
それは、ひいては私に対する侮辱でもあるのですよ。
これは、わかりますよね。
例えば、あなたは、自分がこの世界でたった一人の貴重な命だと思っているでしょう。
いやいや、ここは謙遜するところではありません。
いらいらさせないでくださいね。
それを、あなたとかって言われたらどう思います。
あなたの命とか大切ですかって、そんなこと。
わかりますか、それはね、人の命をこんな風に粗末にしていることなんですよ。
ほら、ほら、こんな風にね。
今、あなたがされていることを、あなたは珈琲にしたんですよ。
わかりますか。
逃げないで。
あなたとか、いのちとか。
今の気分はどうですか。
苦しいとかですか。
痛いとかですか。
ほら、ほら、血とか流して。
どうしましたか。
動けないとかですか。
もちろん、珈琲は好きですよ。
特に、モカの細挽きがね。
でも、淹れていただくのに贅沢は言いませんよ。
ホットでお願いします。
何も入れません、ブラックでね。
あらあら、もう返事もできないとかですか。

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