「引越しTech」を掲げ、14期連続で右肩上がりの成長を実現する企業のスタンス
新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、打撃を受けている引越業界。そのなかでも、右肩上がりに急成長を続ける企業がある。業界9位の株式会社アップル(以下、アップル社)だ。業界上位8社の設立年数が平均約40年のなかで、15期目を迎える同社は、業界では若いベンチャー企業。その中でも、累計の引越し件数は200,000件を超え、売上も昨期を大幅に上回る見込みで、平均成長率も29.4%(CAGR)誇り、創業期から成長を続けている(アップル社HP「実績・業績推移」より)。業界TOP3の企業が変わらない、競合ひしめき合う中で、ベンチャー企業としていかにして引越し件数や売上を伸ばし、成長を続けているのか。引越Techを掲げ、さまざまDXを実現している同社の文字放想社長にその裏側をMEオンラインサロンで語ってもらった。
マーケットエンタープライズグループ(以下、ME)は、ネット型リユース事業を中心に、メディア事業、モバイル通信事業などを展開し、現在国内16拠点・海外1拠点を構え、従業員450名、グループ5社体制の企業です。
MEオンラインサロンとは、「次世代を担う、経営メンバー育成」のため、代表取締役社長 小林(以下、小林)の人脈を活用し、社外の経営者を招いてプロダクトからビジネスマインド、企業理念にいたるまでさまざまなコンテンツをオンラインでご講演いただくME社員限定のオンラインセミナーです。
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第4回目となるMEオンラインサロンは、Web上で引越し予約から見積もりまでを、24時間365日わずか3分で完結できる「ラクニコス」を展開し、ITの力で経営の効率化や、新たな引越しサービスを生み出す「引越Tech」を掲げ、成長を続けている株式会社アップル代表の文字 放想氏(以下、文字氏)にご登壇いただきました。
本記事では、中古トラック1台で起業し、企業理念を軸にITの力で会社を成長させ続けている理由について紹介します。
▼文字 放想氏
1984年生まれ、神奈川県出身。14歳から引越し会社でアルバイトをはじめ、現場スタッフとして数社の引越し会社を経験。4年後に引越し事業部を任され、2年間でゼロから年商2.5億まで伸ばした経験を持つ。その後21歳にて株式会社アップルを設立。2016年10月には業界初の、引越し予約から見積もりまでをWeb上で完結できる「ラクニコス」を展開し、2020年6月には累計利用件数4.1万件を突破。大手3社が約50%のシェアを占める業界で、ITの力を最大限に組み合わせた「引越Tech」を掲げ成長中。座右の銘は「誠実に正直であること」。
中古トラック1台起業→14年で20拠点500名の企業に成長するまでの軌跡
文字氏:引越しと出会ったのは14歳(中学2年)の時です。お金を稼ぎたくて働ける場所を探し、当時の年齢で雇ってくれたのが引越し会社だったんです。最初はお金稼ぎで始めたアルバイトも、毎日たくさんの方にFace to Faceで「ありがとう」と感謝される仕事にどっぷりハマって、現場スタッフとして週5.6で働いていました。
その後、19歳で結婚、20歳の時に子供が1人生まれました。家庭の大黒柱として、家族を養っていくためにはお金が必要。学歴が中卒だったので、何かやるしかない、と考え出したのが起業でした。何が自分にはできるんだろうと考えたときに、やはり今までやってきた引越ししかないと思ったんです。
そして、「引越しを通じて、ひとつでも多くの笑顔を生み出し笑顔溢れる世の中をつくること」を理念に掲げ、株式会社アップルを創立。中古トラック1台とアパート一室から事業を始めました。
創業時から、引越し業界で事業を展開している理由は、業界を変えたいという強い思いがあるからです。長らく現場スタッフをしてきたからこそ、毎日「ありがとう」と言われ、感謝される仕事にも関わらず、世の中のイメージが良くない引越し業界に違和感を覚えていて。
働いている人たち自身も否定的で、ネガティブな印象を抱いているケースが多く、引越しなんて、という言葉多く飛び交うことが残念でなりません。そのイメージを変えたい、業界を変えたい、そんな思いで取り組んでいます。
一方で、ITの力を最大限に組み合わせた「引越Tech」を掲げている理由は、これも業界を変えたいという思いとつながりますが、なるべく安くお客様に良い引越しサービスを提供したいという思いがあるためです。
他の引越し会社の社員属性を見ると、営業やバックオフィスを担当する割合と現場スタッフの割合は1対1。デジタルの力を使って、人がやらなくても良い部分をIT化させられれば、さらにリーズナブルに引越しサービスを提供できると思い、少しでも安くお客様によりよいサービスを提供するため、さまざまなことにチャレンジしています。
現在は、業界でいうと売上9位の立ち位置ですが、ITの力であらゆるものをDX化させることで、2034年までに年商500億を突破し、将来的には日本一の引越し企業を目指しています。
アンケート結果は社内外に全公開。「顧客満足度の追求」が出した答え
アンケート結果をWebで全公開したワケ
大手企業が業界を牽引していることもあり、集客はとても苦戦しました。当時は、コンテンツマーケティングも検討していたのですが、手間もかかるし、嘘が交じるケースもあるなと思いました。それであれば、嘘偽りなく、サービスを利用したお客様からいただくアンケートを全公開しようということで、HPに掲載する形となりました。
(HPで公開されているアンケート)
周りからは勇気のいることだねと言われるのですが、実はメリットしかないんです。もともと私の座右の銘が「誠実に正直であること」なので、そこに起因している部分もありますが、これを見て予約してくださるお客様も多く。
あまり良くない評価が公開されることももちろんありますが、嘘がないことが証明できますし、自分たちの改善点にもなっているので全公開に踏み切ってよかったと思っています。
NPSを計測し、社内で全公開するメリット
NPS※はすべて社内で全公開しています。お客様からいただいたアンケートはシステムで自動計算して全て指標化し、毎週公開しています。100点を何度ももらっている人もいれば、数字が少ない人も。個人はもちろん、支店ごとも見られるようになって、社内ではランキングになっています。
※NPSとは、「Net promoter score(ネットプロモータースコア)」の略で、その製品やサービスを「友人や知人に薦めるか」について数値化する指標です。回答者を、「推奨者(非常にそう思う)」「中立者(そう思う)」「批判者(どちらでもない、全くそう思わない)」に分類し、「推奨者の割合ー批判者の割合」でNPSスコアを算出します。
アンケートにおいては質問項目にも注力していて、「良かったですか?」という質問よりも、「誰かに紹介したいですか?」という質問項目にすることで、紹介につながるケースが増えています。
他の引越し会社ですと、1日に何件回れたとか、引越し案件の売上が評価のベースになっている事が多いですが、弊社はNPSの数値が評価とつながるような設計にしています。
そうすることで、お客様から喜んでもらったけど会社から駄目出しされたとか、会社が追加料金を取って喜んでいるけど、お客様からしたら不満があるなどといった矛盾をなくすことができると考えています。
シンプルで従業員にとってはわかりやすく、お客様に喜んでもらえれば、会社から評価される仕組みを作りました。
企業理念の浸透さえできれば、スキルマニュアルは重要ではない
ITの力で、引越し業界のイノベーションの創出を目指していますが、私たちが最も大切にしているのは企業理念です。過去に組織で崩壊したことがあったため、組織を見直した際に、企業の軸になるのは企業理念であると気づいたんです。
弊社では毎月社員研修を実施しているのですが、テクニカルなスキル研修は一切せず、理念を浸透させるための研修を実施しています。組織において最も大切なのは人であり、その人の考えです。その人の考えを養い、心を育む研修に重点を置いて実施しています。
この理念浸透は結果にも現れていて、リンクアンドモチベーション社のモチベーションサーベイの結果を見ると、成果を出している拠点は、理念浸透の項目の偏差値が高いんです。逆に、伸び悩んでいる拠点は、人間関係の偏差値が高くても理念浸透の項目が低い。つまり、仲良しこよしのグループになってしまっているんです。
逆説的になるかもしれませんが、理念を理解し、体現していればお客様のためなって、現場での言動や行動にも現れる。その結果がアンケートにつながって、NPSに反映され、リピートにもつながる。
理念を体現することが従業員の評価つながり、結果的に売上にもつながるんだよ、とメンバーには伝えています。
最後に伝えたいこと
メンバーにも伝えている、2つのことをご紹介します。
価格も大事だけど、価格が一番ではない
よくメンバーに伝えている言葉です。最初はみんな値段がお客様にとって一番大切だと思って安くすればいいと思いがちなのですが、お客様が一番に求めているものは価格か?というと実はそうではありません。
お客様の立場になって、同じ目線になって考えることで、ニーズが見えてくる。価格も大事だけど、そこが一番重要なわけではない。
お客様に寄り添って、本質的なお客様のニーズに気づけるか。その上で自分たちに何ができるかの提案をする。この差で最終的なお客様の満足度も変わってくると伝えています。
組織は家族。社長が父ならマネジャーが母、メンバーが子供。
これは組織を家族に例えてマネジャーに伝えていることです。父が働きに出ているときに、母が子供に父のことを良いように言わなければ子供はそれを真に受けます。逆を言うと、母が、父が何のために働き、どんな仕事をしているかを伝えれば、子供もその意思を受けて育つはずです。
マネジャー陣には理念浸透に向けた話をしているため、それらをメンバーに伝え、浸透させることがマネジャーの役目だよ、と伝えています。それが組織エンゲージメントにも紐付き、お客様へのサービスにつながるからです。
講演を終えて
セミナー後は質疑応答を実施。顧客満足度や従業員満足度が下がってしまった時期は過去にあったのか、NPSを意識しすぎて件数が極端に減ることはないのか、予約フォームはこれまでどのような改善を行ってきたのか、企業理念浸透のために研修以外でしている具体的な事例を教えて欲しい、などの質問にご回答いただきました。
メンバーからは、NPSによるサービスの質を中心とした経営の話がとても勉強になった、顧客満足度の先を追及する姿勢にサービスの本質を感じた、企業理念を何度も繰り返し伝えるという姿勢が理念浸透とサービスに生きているのだと感じた、といった感想がよせられました。
小林からは、「アップル引越しセンターの評判を多数聞き、利用者がサービスを勧めているのを知っていたので、NPSの数値が高いのは把握していた。今回はその真髄を知ることができた。MEでもNPSを導入しているが、取り扱う商品に依存してしまう部分もある一方で、アップル社の場合はお客様へのサービスがリアルに結果に現れる。正直な姿勢で取り組みを貫く文字社長の言葉、業界のせいにしない、金額のせいにしない、できないわけはない、に重みを感じた」と感想を述べていました。
今回のセミナーを終え、レッドオーシャンなマーケットであっても、業績を伸ばし、成長を続けるには、企業理念を軸にリアルなサービスを追及したうえで、ITをかけ合わせているのだと学ぶことができました。
セミナー後は、文字氏と一緒にMEの今期テーマ「MEX」になぞって、「X」ポーズを。
(Zoomの仕様上一部のメンバーのみですが、「X」ポーズの様子をご紹介)
サーキュラーエコノミー(循環型経済)発展の一翼を担うとともに、「持続可能な社会を実現する最適化商社」というビジョンに向かって進むME。学んだことを、それぞれの部署・役割でアウトプットしていけたらと思います。今後もMEブログでは、MEオンラインサロンについて特集いたします。
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