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【短編小説】たばこ

7
コレサワさんの「たばこ」という曲をテーマに書いた短編です。 ゆるめですが、同性愛・BL描写がありますので、そちらだけお含みおきください。
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たばこ(7)

たばこ(7)

 交際をはじめると、佐原は僕のアパートで一緒に住みたいと言い出した。
 佐原は実家通いだが、実際のところあまり家には帰っておらず、人の家に寝泊まりしたり、適当に安いラブホテルやネカフェに泊まったりすることが多いようだった。
 一人暮らし用のアパートを借りているから、ルームシェアは基本NGのはずだが、「そんなんばれねーよ」という佐原に結局押し切られてしまった。

 こいつとは趣味嗜好どころか、生活リ

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たばこ(6)

たばこ(6)

※同性同士の恋愛描写含みます。

 それから一週間後のことだった。翌日一限の火曜の夜に、佐原は僕の家にやってきた。
「ナオ、聞いてよ。昨日、彼女にふられちゃった」
 佐原はスマホの画面をスクロールしながら、何気なく言った。
「藤野さん?」
 僕は聞き返す。
「うん、そう。LINEで別れよって」
 あぁそうか、と納得のような気持ちと、藤野さんへの同情の気持ち。
 そしてあさましくも、佐原が別れたこと

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たばこ(5)

たばこ(5)

 佐原に誘われて、ときどき外にも飲みに行くようになった。
 レバーがうまい焼き鳥屋、日本酒の専門店、珍しいクラフトビールが飲めるバー。佐原はいろんな店を知っていて、どの店員とも顔見知りのようだった。
 宅飲みばかりしていて忘れていたが、佐原はやはり目立つ。クラブ系の派手な店は避けて紹介してくれているようだったが、それでも驚くほど女の方から声をかけてくる。以前、女と合流して二軒目までいったことがあり

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たばこ(4)

たばこ(4)

 佐原と酒を飲みかわすようになって、10カ月の月日が流れた。
 部屋には、リユースショップで買った安い布団のセットと、銀色の灰皿が増え、常に酒瓶と水が常備されるようになった。シャンプー・リンスや洗顔料は、いつのまにか佐原の好きなブランドのものに変わっていたし、佐原のヘアワックスや歯ブラシは、当然のように洗面所を占領するようになっていた。
 佐原は時間にルーズで、いつも授業や友達との約束に遅れてばか

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たばこ(3)

たばこ(3)

 佐原と宅飲みする仲になり、距離はぐんぐん縮んでいった。だが、学校で佐原と会っても、会話を交わすことはほぼない。僕がそれを嫌がるからだった。
 佐原とは学部は同じだが専攻が違うから、授業や教室棟は、そもそもあまりかぶらない。数少ない共通の講義のとき、当初佐原は何気なく「ナオ」と話しかけてきたが、僕はそれを無視してしまった。
 あいつはいつも、少し遅れて授業にやってくる。そんなやつが、静かな教室で注

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たばこ(2)

たばこ(2)

 ぼんやりと向かいの居酒屋の中でうごめく人たちを眺める。目の前を行きかう車の音を聞く。0時を超えてもなお、街はまだ動いている。
 ふいに後ろで自動ドアが開く気配がした。足音が僕のすぐ間近で止まった。
「ナオ、なにしてんの?」
 顔を上げると、そこには明るい茶髪の男がいた。左耳にはシルバーピアスが光っている。
 ――佐原樹。僕をこんな場違いな場所に連れ込んだ張本人だった。
 二次会のカラオケでは、部

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たばこ (1)

たばこ (1)

曲からイメージした短編を、これからいくつか書いていこうと考えています!

まずはその1作目。
今回のテーマは、コレサワさんの「たばこ」です。
長くなりすぎたので、いくつかに分割して投稿していきます。
(たぶん、おそらく全文で3,4万文字くらいです)

コレサワさんのオフィシャルMVとはまた解釈違うと思いますが、曲の一人称が「僕」なので、あえて男性目線のお話にしました。
同性愛・あるいはBL描写あり

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