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小説_『立つ』

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長生きすることは僕にとって、とても重要なことだ。

いろんな人がいるから一概に言えないことは分かっている。
短いほうがいい人もいるし、今すぐに、と思っている人だっているんだ。

僕は長生きすることは可能性が増えることだと考えている。

世界は変わっている。
僕だってそれに合わせて、時間はかかっているかもしれないけれど、少しずつ変わっている。
変化は現状を変えてくれる。


「ドアが閉まります。ご注意ください」
ホームにアナウンスが流れた。

僕は電車に乗った。
座席は空いていたが、僕は立つことを選んだ。
つり革にも捕まらずに、電車の動きに合わせてバランスを取った。

~~~~~
人間は座ったままの状態だと、余命が縮むと言われている。
ある記事では1時間座ると、余命が22分縮まるらしい。

座ったまま動かないと、人体の筋肉の中で約7割を占める足の筋肉が動かないため、たちまち血流が滞り、代謝機能が低下するからです。それが積み重なり、長期化すれば全身が巻き込まれて、糖尿病、高血圧、脳梗塞、心疾患、がん、さらにはうつ病や認知症などあらゆる病の引き金となるのです。
https://diamond.jp/articles/-/142877

僕はこの記事を読んですぐにスマートフォンの電卓アプリを起動し、ざっと計算してみた。

・通勤で電車に乗る時間は往復2時間
・デスクワークで1日5時間座っている(もっとかも)
・月に20日出勤とする
・それを30年続ける(そんなつもりはないけど)
・1時間座ると22分余命が縮まる

<1日に座っている時間>
電車2時間+デスクワーク5時間=7時間/日

<1ヶ月あたり>
7時間/日×20日=140時間/月
140時間/月×12ヶ月=1680時間/年

<残り30年働くとすると(絶対嫌だけど)>
1680時間/年×30年=50400時間

1時間座ると22分余命が縮まるので
50400×22分=1108800分

1108800分=1320時間

1320時間=55日

55日。

約2ヶ月。
~~~~~

僕は電車の中でバランスを取りながら、ふと電卓で計算したことを思い出した。
窓から見える景色はどんどん流れていく。

2ヶ月余命が縮まる。

仕事以外の時間だって座っている。
その時間も余命は縮まっているということだ。
別にそれはいい、というかしょうがない。
自分の人生を楽しんでいる時間だから、その代償みたいなもんだ。

でも仕事は違う。
少なくとも今している仕事は。
やりたいことをやっているわけではない。

余命が2ヶ月早まる。
この世界に存在する時間が2ヶ月も違うなんて。

やりたい仕事をしているんだったら僕はそれでもいいと思う。
でも、好きでも、嫌いでもない仕事をあと30年続けて、余命まで短くなるなんて馬鹿らしいじゃないか。

有限で貴重な資産である時間を、好きでもない仕事をして減らしているだということだ。


今の時間は今だけ、今の人生も今だけ。

長く生きていれば、嫌なことがある。

でもそれ以上に幸せなことがきっと待っている。

そんなとこに座ってないで、今すぐ立ち上がろう。

僕は電車を降りて、目的地に向かって歩きだした。

快晴の空が僕を応援していた。

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