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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2022年11月の記事一覧

『ほんとうに空気が綺麗で』

『ほんとうに空気が綺麗で』

木枯らしの音と

川のせせらぎ

それとカラスの鳴き声をのぞいて

一切の物音がしない

人里離れた

キャンプスポット

幾年か前に

友人に連れられて

ここにテントを張り

飲めや歌えやの

大騒ぎをした思い出

それ以来わたしの

お気に入りスポットだ

ここはいつ訪れても

豊かな自然に囲まれ

ほんとうに空気が綺麗で

当然ながら

アクセスが良くないゆえに

未舗装の林道を

RV車

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『「これからはAIのじだいやさかいに」』

『「これからはAIのじだいやさかいに」』

「これからはAIのじだいやさかいに」

無学な自分には

意味がよくわからなかった

--

日の暮れた頃に床を出て

質素な夕食を済ませる

通勤ラッシュとは逆の路線に乗り

都会にあるオフィスを目指す

「残務屋さんきはるからみんなはよかえり」

自分の職業は残務屋

正社員や派遣社員

はたまた日中のパートに比べて

深夜割増はあれど

最低賃金ギリギリの安さで

雇われている

自分には昼

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『凶器』

『凶器』

とある政府の要人が

公衆の面前で

儚くも刺殺された

容疑者はすぐさま捕らえられ

動機

目撃情報

状況証拠

すべては整っている

残るは

被害者の遺体から推察された

渡り10cmほどの

刃物

つまり凶器だけが

現場からも

容疑者の持ち物からも

見つかっていない

政府は真相を究明せんと

秘密裏に

”刃物を呑み込んだ可能性”

があるとして

容疑者を解剖した

執刀医

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『その名も”不謹慎カフェ"』

『その名も”不謹慎カフェ"』

脱サラをして

夢だったカフェを開いた

この俺のことだ

そこらのカフェとは

一線を画す

その名も”不謹慎カフェ"

色々な体験型カフェが

巷を賑わせていると思う

そんななか

俺が思いついたのは

不謹慎な光景を見ながら

食事や雑談を楽しめる店

たとえば最初の企画はこれ

徳の高い坊さんを呼び寄せ

説法をしてもらうという趣旨

ところがそれは表向きで

店の庭先に落とし穴を掘って

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『11/22』

『11/22』

悪夢で目が覚めれば

頭痛がひどくて

隣の妻を起こさぬよう

灯りをつけずに

鎮痛剤のありかをまさぐる

水で流し込む

--

もうこんな時間だ

頭痛は消えていないが

床を出る

妻も同時に目を覚ます

同じように

悪夢にうなされ

また頭痛に

苦しめられたときく

知らずのうちにストレスが

お互い溜まっているのだと

朝から慰め合う

朝食はふたりとも

簡単に済ますタイプ

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『我が宿敵』

『我が宿敵』

我が宿敵

謙信から

塩が送られてきた

厳冬の日本海から

千曲川を辿り

はるばる甲斐へ

憎き相手といえど

礼節をわきまえねばならぬ

ゆえに返礼の品を

どうしたものか

--

舐めてみたら

砂糖だった

端から怪しいと思っていた

ムカついたから

その砂糖を使って

信玄餅をこさえて

返礼してやった

そしたら

ガチギレで

チャットが来た

あんのじょう

キーボードが

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『会社に包丁を持って行く』

『会社に包丁を持って行く』

会社に包丁を持って行く

別にただちに

誰かを刺すつもりなんてない

ただなんとなくかっこいいだろ?

ビジネスバッグに

よく研いだ細身の刺身包丁を

潜ませているなんて

高校のときに

サバイバルナイフを鞄に入れてる連中

何人かいたよな

俺はその頃まだガキで

そいつらのヤバさに気づいていなかった

ところが就職して妻と子を持ち

役職に就いてから

ようやくわかったんだ

俺には包丁

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『セクハラをしたくてしたくて ~後編~』

『セクハラをしたくてしたくて ~後編~』

(前編はこちら)

じんじぶはさっそく

とくべつセクハラちかしつの

じゅんびにとりかかりました

どうじに

しゃないしんぶんのごうがいをだし

ぜんしゃいんにおしらせしました

セクハラをしたくてしたくて

ばくはつしそうなおじさんは

まいあがるほどに

よろこびました

ところがそんなこともつかのま

セクハラをしたくてしたくて

あわをふきそうなおじさんが

ちょくめんしたじじつ

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『セクハラをしたくてしたくて ~前編~』

『セクハラをしたくてしたくて ~前編~』

ごくさいきんのこと

とあるかいしゃに

セクハラをしたくてしたくて

たまらないおじさんがいました

セクハラがまんが

げんかいにたっしたおじさんは

じんじぶにうったえました

こまったのはじんじぶです

じゅうぎょういんの

ふくりこうせいには

どのかいしゃより

ちからをそそいでいました

ですからこれまでも

じゅうぎょういんからの

ようぼうにはほとんどすべて

おうじてきました

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『拒否権はないらしい』

『拒否権はないらしい』

この田舎町もなんだか

町長が替わってから

住みにくくなって

周辺から苦情が多いのか

公園でのボール遊びは禁止されて

子供たちの声は消えた

人が減って景気が悪いのか

通りの向こうのコンビニは潰れて

インドカレー屋になってしまって

長年見続けてきた

牧歌的なこの風景も

次第に趣が薄れて

声をかけられた

これまで何十年と

ここに居て

ほとんど初めてと言っていい

それで

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『つんでれのJKがいました』

『つんでれのJKがいました』

むかしむかしあるところに

つんでれのJKがいました

つんでれのJKは根がまじめなので

ルールはまもります

つんでれのJK

交通違反はぜったいにしませんが

信号無視をします

赤信号無視は交通違反ですが

つんでれのJKの場合

青信号を無視します

交差点に立って

赤信号が青になるのを

そっけないふりをして待ち

青に変わった瞬間

ぷいっとあらぬほうを

向いてしまいます

ずっ

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『実はこっそりと俺』

『実はこっそりと俺』

気づいたときには

もう手遅れだった

きのうは部下のNさんにだいぶ乗せられて

こちらも調子が良くなり

あまりに飲み過ぎてしまったようだ

記憶がない

Nさんはいま俺の横で

静かに寝息を立てている

それだけは間違いなくて

つまり俺は

詰んだということだ

妻と

それと小6の娘からの着信が

エグイほどある

メッセージも読む気になれないが

もうそれはたくさんで

ほんとに浮気をし

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『魂の貴賤』

『魂の貴賤』

みんな行ったことなくとも

こんな話はよく聞くだろう

ひとは死んだら

三途の川を渡って

彼岸つまりあの世へ逝く

その三途の川の手前には

たくさんの仲介人が待っていて

生前の身分や行いで

魂に値をつけて

買い取ってくれるという話

医者の家系に生まれた僕は

じっさい余裕で医大へ入れたから

将来はなんの苦労もなく

今後も安泰なんだろうと

勝手に思っていた

ところが大学生活最初

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『書き綴ることは、いくらでもどうぞ。』

『書き綴ることは、いくらでもどうぞ。』

視覚と聴覚を奪われ、利き手を除いた身体は束縛。

そんな状態で狭い部屋に監禁される。

うっとおしい喉は前もって潰されて。

それで最低限の食事と排泄の世話だけが施され、睡眠は自由。

期間は定められていないようで。

唯一の自由は利き手だけ。

鉛筆を持たされて、紙を差し出されその感触を確かめる。

直接的に助けを乞う文句を除き、すべて自由意思で創作ができる。

一切の執筆の邪魔はされない。

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