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『魂の貴賤』


みんな行ったことなくとも

こんな話はよく聞くだろう


ひとは死んだら

三途の川を渡って

彼岸つまりあの世へ逝く


その三途の川の手前には

たくさんの仲介人が待っていて

生前の身分や行いで

魂に値をつけて

買い取ってくれるという話


医者の家系に生まれた僕は

じっさい余裕で医大へ入れたから

将来はなんの苦労もなく

今後も安泰なんだろうと

勝手に思っていた


ところが大学生活最初の夏休み

あのスピード狂のクルマに轢かれて…


--


魂の貴賤

つまり引き取りの値段は仲介人ごとに

基準が違う


これまでの実績を重視して

著名人や重要人物を高値で買うもの


名は知れていなくとも

徳を積んだ人々を良しとするもの


そして僕のように

若く将来有望な魂に価値を見出すもの


高く買い取るよ!

いいやウチのほうが!

こちらは来世のガチャ特典まで!


さまざまな宣伝文句で

呼びとめられる


カネに興味はない


ボンボンで育ってきたから

カネの価値などわからないという

歪んだ自覚だけはあった


来世にも興味がない


せいぜい大学生までだけど

なにひとつ不自由なく暮らせた

これは親に感謝しなければ


だけど僕の人生は別に楽しくなかった

もちろん苦痛はなかった

そしてだからといって

つまらなくもなかった


てか

この世ってさぁ

イージーモードすぎるだろ


だからもう僕は

輪廻を望まないよ


三途の川で

魂を清めてもらって

解脱して

涅槃の境地へ

向かおうと思う


そんなことを思いながら

棺桶の中から

坊さんの読経を聞いている… 


ってあれ?

ん?

もしかして僕

行き返った?


線香の煙が

鼻をつく


どうしようかな













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