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『「これからはAIのじだいやさかいに」』


「これからはAIのじだいやさかいに」


無学な自分には

意味がよくわからなかった


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日の暮れた頃に床を出て

質素な夕食を済ませる


通勤ラッシュとは逆の路線に乗り

都会にあるオフィスを目指す


「残務屋さんきはるからみんなはよかえり」


自分の職業は残務屋


正社員や派遣社員

はたまた日中のパートに比べて

深夜割増はあれど

最低賃金ギリギリの安さで

雇われている


自分には昼間の仕事はできない


そう気づいたのは

社会人になってからすぐのこと


別に酒を飲んだわけでもなくまた

疾患を抱えているわけでもないのに

なぜだか日中は異様に眠くて

知らぬ間に落ちていることもある


初めて働いた工場のラインでは

とある分別作業の手を止めて

よく叱られていた


いっぽうで夜中は目が冴える


初めは映画を観たりなんぞしていたが

もう少し生産的なことはできないかと

そういった意味で勉強を始めた


”日勤の人ら”が残した

書類の束には付箋が貼られ

またペラ1枚の用紙に

今晩の作業内容が印字されている


しょうもない


売上日報が見にくい

という偉いさんからのご指摘

グラフの配置や色使いを直して


わけもない


書類の束は折りたたんで封筒に入れ

宛名ラベルを印刷しておく

明日の昼間

パートさんが郵送してくれるもの


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「いつもごくろうさん」


社長から呼び出された


「これからはAIのじだいやさかいに」


何年か前にも

同じことを言われた

あぁ数えてみれば

もう10年は経つのか


いまとなれば

社長の考えはよくわかる

ただ彼自身も

漠然としたイメージのようで


だからこそ相変わらず

売上日報のグラフを調整して…

宛名ラベルを印字して…

そんな作業を

自分みたいな残務屋を雇ってまで


「がいちゅうしてもええんやけど」


そう言って渡されたのは

ソフトウェアの企画書のようなもの


「あんたならつくれるやろ」


いわゆる”残務”はたいていの場合

午前2時の休憩前に終えている


だから朝の終業時間までを

自分の勉強に充てていた


社長から手渡された

新しい仕事は

はっきりいって

漠然とした企画書


だけども

今の自分になら余裕かな


「ほしたららいげつまでにたのむわ」


来月までに自分は

残務処理AIの内製を終えて

この会社を去ることになりそうだ


自分もこの会社も

あたらしいステップへ

進めるんじゃないかな














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