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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2021年1月の記事一覧

『崩壊しやがって』

『崩壊しやがって』

なんでうちは

若い社員がやめちゃうんだろうな

仕事がきついのか?

ノルマなんて

これまでに課したことがないぞ

もちろん

目標に対して実績未達の場合

ボーナスの査定はちょっと厳しくしている

だがそれは会社員として

当然のこと

生活面に至っては

なおのこと

気を払っている

若い奴らは

安心して生活できるように

必ず

寮に入れるようにしてやっているし

門限だって早くはな

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『あたし よかれと思って』

『あたし よかれと思って』

なんだか妙なウイルスで汚れてるだなんて

そんなこと伺ったもんだから

ピンセットで軽くつまんで

ビーカーいっぱいのアルコールに浸して

消毒してあげようとしたのね

あたし

よかれと思って

地球をね

そしたらなんと

その妙なウイルスは滅亡したのよ

ただ

その



ほんっとに

ほんとよ

悪意はないの

ないのよ

あたし

人間や

動物が

みなさん泥酔してしまってね

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『BAR[Lime Light]』

『BAR[Lime Light]』

モクさんは

6弦ベースを鳴らし

ゆらゆらと

グルーヴの深淵へ

俺らをいざなってくれる

づぅづぅんどぅんどぅどぅん

どぅーうぃどぅーうぃ

どぅーうぃどぅーうぃ

このLime Lightとかいう店

始めは上司に連れてこられた

づぅづぅんどぅんどぅどぅん

正直いって肌に合わない

だってさ

ダサくね?

づぅーんどぅどぅ

それなのに

もう俺ひとりで訪れること

数知れず

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『しげるさんはラジオ体操をやらない』

『しげるさんはラジオ体操をやらない』

しげるさんはラジオ体操をやらない

朝礼

所長による点呼と連絡事項伝達のあと

決まって行うラジオ体操

ところが当所イチの古株

しげるさんは

ピアノの前奏が始まるやいなや

さっさと持ち場に就いてしまう

誰も注意しない

別に迷惑がかかるわけじゃないし

僕が入所したときからそうだから

そういうもんなのかと思っていた

人事異動があって

新しい所長が来た

その人はしげるさんの

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『ボンクラ』

『ボンクラ』

石を投げたりしていた

水を掛けたりしていた

そんなのは序の口

もっと

もっともっと

酷いことぉ

してきた

15年ぶりの同窓会で

酔っ払ったせんせいが

クチをすべらすまでは

誰もが想像していなかった

あぁそういや同窓会に来てないし

あの

クラスにひとりは居た

ボンクラは

雇われていたんだと



ビビるでしょ

俺たちが

上履きの底を顔になすりつけたり

彫刻刀で●

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『盗聴キャンプ』

『盗聴キャンプ』

某月某日

某所発某所行

いまも

例のキャンプは決行されているようです

世情がどうあれおかまいなしだそうでして

数十年来変わらない

揃いのキャップと

揃いのツナギに

着替えさせられて

それから

揃いのリュック

全身

薄いグレーでした

そして上述のキャップには

ご丁寧に

赤い糸の刺繍で

「盗聴」



書かれています

キャンプは10日ほど続き

煮炊きはスタッフがや

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『どうもありがとうございますあいすみません』

『どうもありがとうございますあいすみません』

いまこれを読んでくださってるみなさん

上から目線でたいへん恐縮ですが

          

素直ですね

            

先日あたくしが

みなさんのお宅にお送りした

                        

"都合よく記憶がなくなるくすり"

                          

ちゃあんとお飲みいただいたようで

どうもありがとうございますあいす

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『○。○ー○○○』

『○。○ー○○○』

これは夢の世界のおはなし

おとなは読まないでね

さて

あの有名な

○ッキー○ウスは

世界にたった1人しかいないんだってね

それは都市伝説でもなんでもなくて

実際に

世界6か所に散らばる

デ。ズ二○ランドを

秒刻みのスケジュールで

まわっているんだって

なぜならあのディ○○ーは

光の速さのほぼ半分

つまり1秒間に地球を3周できるほどのスピードで

移動できる技術を

独自

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『結果』

『結果』

結果からいえば優勝した

最高の気分

のはず

でも僕の気持ちのどこかに

煮え切らないものが残る

振り返れば

一年生のとき

欠席裁判に近いようなかたちで

いやいやながら

引き受けた

合唱の指揮者なんて

やったことがないから

困惑したのも当然

先生はまともに教えてくれないし

ピアノの伴奏の子は無愛想だし

でもクラスでの練習を重ねて

本番というとき

ふしぎな恍惚感が

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『Wooden Culture』

『Wooden Culture』

「あそこに大きな木が見えるだろう」

「いえ、見えません」

「見えるだろう」

「いいえ、まったく」

Wooden Cultureの申し子

ヒメシミズさんが言う

でも僕には大きな木が見えない

かっちりと目を見開いて

しっかりと辺りを見回しても

どこにも大きな木は見当たらない

「悪かった、目を閉じてごらん」

「はい」

「どうだい、大きな木が見えるだろう」

「いいえ、まったく」

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『Anyway』

『Anyway』

BARで隣り合った男に

突然

冷や水ならぬ

冷やソルティドッグを浴びせられた

男は会計と思しきカネを

カウンターに叩きつけて

その場を去って行った

相当酔っ払っていたようだ

バーテンが言うには

「あのお客様いつもそうなんですよ…」

いやいや

むこうは常連かもしれないけど

こっちは初めてだよ

Anyway

気にしてないよ

いちおうね

「大変申し訳ございません…」

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『若き日の戯れを』

『若き日の戯れを』

思えば私の幼少期は非常に恵まれていたようだ

「チョコレートは兄弟仲良くわけるのよ!」

「ああ、なんてこと、油を無駄にこぼして!」

「ちょっと、ゴールドはダメよ、子供が扱うものじゃないの!」

父はいつも多忙で

まともに顔を合わせることもなく日常を過ごしていた

ヒステリックな母の

私と2つ下の弟を叱る声だけが

邸宅に響いていた記憶

まだ私が

母の身の丈にすら追いついていない年頃

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『幸い僕には少し時間があるようで』

『幸い僕には少し時間があるようで』

あぁやっぱり夢だったんだな

安心したよ

どうせそんなことだろうと思っていた

僕のベッドを取り囲む

両親ときょうだいの目元が安堵で緩んだ

呼吸器は相変わらずうっとおしい

見積もりの依頼も

ネットで簡単に出来るらしいけど

僕は若いくせにそういうのに疎いので

手元にあったチラシをみて

まっさきに目についた番号に電話をしてみた

個人経営の職人さんらしく

慇懃ながらもテキパキと応対し

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再投稿『"我レ君ヲ愛ス"』

再投稿『"我レ君ヲ愛ス"』

凡そ拾年に渡る洋行から戻つた後

見聞を記事として寄稿したり

思つたことを小説也で書き起したりしつつも

更に暇を持て余した私は

とある大学校の非常勤講師として

英文学の教鞭を執る事になつた

退屈極まる講義と謂えど職責は果すべし

或る蘇格蘭の三流作家に依るポエムを

読ませ訳をするやうにと

独りの学生を名指した処

何とも野暮つたいことに

"I LOVE YOU"

の下りを

"我

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