テキスト書き

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最近の記事

折本 140字小説

昨年の〈月々の星々〉に応募した140字小説からセレクションして8ページ折本仕様に面付しました。 10月の[着]に応募した中から3作品、11月の[保]に応募した中から3作品を収録。12月の[調]には応募しなかったのですが今回、3編を新たに書いて頭数を揃えました。もしよかったら。 上は折り用の破線ナシver.、下は破線(切り込みは実線)アリVer.です。

    • 8p折本「透明人間殺人事件」

      〈ぺーパーウェル11〉参加作品。 以前に書いた謎解き掌編が今回の「時計」というテーマに合っていたので、8p折本にしてみました。一枚に収まらず上下巻になってしまい、ルール違反かも知れませんが、よかったら。

      • グリム童話ATM|毎週ショートショートnote

        オレはATMの前に着くと、携帯電話の向こうの老婆に訊いた。 「何の話か、思い出しましたか?」 ここまでは順調だった。老婆は突然の電話を息子からだと思い込んだし、オレにも銀行のキャッシュカードを簡単に渡した。ただひとつの問題は、パスワードをその場で思い出せなかったということだけ。この銀行の口座のパスワードはすべて、グリム童話のタイトルだ。 「内容は思い出したんですけど、題名が」 「言ってみてください」 「何かかぶった女の子がカゴにいっぱいの……」 マッチ売りの少女だ

        • メガネ初恋|毎週ショートショートnote

          僕の初恋は典型的すぎる。 中学の入学式、僕の目はひとりの女子に釘づけになった。彼女はマジメを絵に描いたようないでたちで、髪は黒くて肌の色は白く、背筋はまっすぐで制服は規定どおり。成績優秀者の証明書である地味なメガネをかけていた。 そして、僕のように自分と正反対の人間を好きになるタイプには見えなかった。 そこで僕は、いわゆる伊達メガネを買ってかけた。安直にも、そうすることで彼女の側の人間に見せかけられればと思ったのだ。 しかし、レンズに度のないことなどクラスメイトには簡

        折本 140字小説

          オノマトペピアノ|毎週ショートショートnote

          「リサイタルの観客が皆、居眠りをしてしまった」との報告に、開発部の黒瀬は顔面蒼白となった。 聴く者の心理に働きかける「音源サブリミナル機能」が世に出て以来、ピアノ業界ではA社の〈わくわく〉ピアノとB社の〈じーん〉ピアノ、C社の〈うるうる〉ピアノが三つ巴の戦いを呈してきた。 そこで、D社はこれらに挑む新製品として、聴衆を夢見心地にさせる〈うっとり〉ピアノの開発にすべてを賭けてきた。しかし、試作品を提供したピアノ奏者から信じられないクレームが飛び込んできたのである。 ピアノ

          オノマトペピアノ|毎週ショートショートnote

          噛ませ犬ごはん|毎週ショートショートnote

          両親とも仕事で遅くなるという夜、ぼくは友だちのリョウタの家で夕食を食べることになった。 茶碗には白いご飯がふたくち分くらい入っている。それを箸でつまんで口に入れると、なんかちょっと変わった味がした。――けっして「おいしい」とは表現できない味。子どものぼくにもわかるくらいの。 見ると、リョウタは自分の茶碗にみそしるをドバッと入れていた。 「〈ネコまんま〉はダメって言ってるでしょ!」 リョウタのお母さんが嫌そうな顔をしたが、リョウタは聞こえないというふうにアッと言う間にそ

          噛ませ犬ごはん|毎週ショートショートnote

          大増殖天使のキス|毎週ショートショートnote

          「……〈天使の接吻〉」 新任の警部補の繍子のつぶやきに、高村はあらためて遺体に目をやった。女子大生の白いカラダには、あちこちに小さな赤いアザのようなものがある。まるでキスマークだと高村も思っていたからこそ、繍子の声が聞き取れたのかもしれない。 「何です、それは」 「若者のあいだで噂になってるらしいの。天使がカラダにキスしてくれると片想いが叶う、って」 「天使なんていませんよ」 高村が言うと繍子は苦笑した。彼女はかつての事件について詳細を知っているひとりだ。 「〈天

          大増殖天使のキス|毎週ショートショートnote

          失恋墓地|毎週ショートショートnote

          読経を終えた私は、墓石に向かって手を合わせているふたりに深く頭を下げた。線香から細い煙がすーっと立ちのぼり、その先でゆらりとゆれて消えていく。 六月の雨がちょうどあがったところで、雲間から空が見えている。 男は何も言わずに同じように頭を下げ、女は頬を流れる涙を持っていた白いレースのハンカチで拭った。それに気づいて、男が彼女の肩をそっと抱く。 「本日は誠にお疲れ様でございました。おふたりの〈失恋〉は当、縁迎寺において丁重にお弔いさせていただきます。今後、もうこちらにお参り

          失恋墓地|毎週ショートショートnote

          2次会デミグラスソース|毎週ショートショートnote

          ミユキは薄切りのタマネギをフライパンで念入りに炒めた。 今夜はおしゃれな居酒屋で異業種交流会――と呼べば聞こえはいいが、言わば恋人探しの場である。以前の合コンは店で初めて顔を見るから、ある意味では賭けのようなものだったらしいけれど、最近はオンラインですでに確認済みだから気が楽だ。 問題は、目当ての異性にどうやってアパートに来てもらうか。 そういうときにデミグラスソースは最適なのだ。ハンバーグ、オムライス、メンチカツ……相手の好物がどんなものであっても大丈夫。「ちょっと作

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          執念第一|毎週ショートショートnote

          ある祈祷師が雨乞いをすると、必ず雨が降る。なぜなら、その祈祷師は雨が降るまで雨乞いをし続けるから。恋愛成就も雨乞いも、最も大事なのは〈執念〉なんです――。 ここで、会場から笑いが起こる。 今年最後の「恋愛成就セミナー」を私は、いつもの話で始めた。聴講者らの気持ちをほぐすためだ。 すると、ひとりの男が声を発した。 「二番めは何ですか」 彼は二番めの要素を知りたいのではない。彼自身が持っているものを、恋愛を成就させうるアイテムとして挙げてほしいのだ。私の答えに案の定、彼

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          穴の中の君に贈る|毎週ショートショートnote

          買物帰りに公園を通り、君のいる穴の中を覗いて僕は尋ねた。 まだダメ、と君が答える。 〈――ねえ、そろそろ結婚しちゃおうか〉 一年前、君はこの公園で僕にそう言った。 けれども、それは成り立たない話だった。君は僕と交際していると思っていたようだけど、僕には別に大切なひとがいたからだ。嘘をついていたワケじゃない。訊かれていないことを僕から言う必要もなかったから――それだけのことだった。 君はその場ですぐに穴に入った。 時が流れ、あの日、僕の抱いた罪悪感はもうどこにもない

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          クリスマスカラス|毎週ショートショートnote

          「明るすぎます」 上空でホバリングしながら、隊を導く部隊長が言った。 「これでは私たちの姿は人間たちに丸見えですが、どうしますか」 そりに乗った男は眉を寄せた。ふだんの年なら午前零時を過ぎれば世間はすっかり闇の中に沈み、誰にも気づかれずに下りていって、それぞれの家を回ってくることができる。だが、今年は土曜日。町にはまだ明かりが灯っている。 「あすの夜に延期しますか」 参謀役の一頭が決断を促すように訊く。 いや、と男は首を振った。 「子どもたちは我々のことを待って

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          男子宝石|毎週ショートショートnote

          友人のおなかの中に新たな光が宿った。見た目はまったく変わらないので、「そろそろだろうな」と言われるまで僕は気づかなかった。 「男子か女子かはもう、わかってるの?」 僕は訊いた。 「ぜんぜん」 「出てきたのを見ればわかるのかな」 「オレには無理だな」 と、友人はふうと息をつくように言った。 「まあ、コイツを取り上げてくれるその道のプロにはわかるってことなんだろうさ。てゆーか、俺にはコイツに男女ってのがあるのかもわかってねーし、そもそも俺自身、男なのか女なのか、も」

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          バイリンガルギョウザ|毎週ショートショートnote

          商店街のラーメン屋でギョウザの無料イベントをやっているから、と彼女に言われて、僕たちはデートのラストを締めくくるために店に入った。 交際を始めてちょうど一年がたったきょうのデートは特別で、できれば落ち着いたレストランででもと考えていたのに、彼女がどうしてもこの店のギョウザがいいと言うのだ。 壁にはポスターが貼ってあり、〈すべて食べきれば無料〉というよくある企画だが、その条件が変わっていた。 「バイリンガルギョウザ?」 いぶかしげに言うと、店主は笑顔で答えた。 「はい

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          全力で推したいダジャレ|毎週ショートショートnote

          「やはり、ターゲット層を広げていくべきかと」 新たなアイドルを生み出す会議の中、前田は口を開いた。この芸能プロダクションでさまざまなアイドルを育ててきたが、行き詰まりを感じ始めてもいた。 「市場はすでに飽和状態です。次に開拓すべきは四十歳以上のオジサン世代。そして、その起爆剤がダジャレだと考えています」 ディスプレイに資料を投影する。 「ダジャレはオヤジギャグとも呼ばれ、これまで長きにわたって嫌悪の対象となってきました。オジサンたちに全力で推してもらうために、これを利

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          立方体の思い出|毎週ショートショートnote

          帰りの学活が終わると同時に、僕は教室を飛び出した。きょうの放課後から購買で、体育祭の思い出を売り始めるからだ。 思い出は個人で注文するなら希望の形で購入できるが、学校でまとめて業者に依頼するときは五種類ある形をそれぞれ同数で一括注文するから、早い者勝ちなのである。 購買前はすでに人だかりとなっていたけれど、僕はなんとか〈立方体〉で買うことができた。また掻き分けるように外に逃げ出し、さっそく頭に入れる。体育祭の興奮と熱気が脳内に巡る。 「おまえはいつも〈立方体〉だな」

          立方体の思い出|毎週ショートショートnote