グリム童話ATM|毎週ショートショートnote

オレはATMの前に着くと、携帯電話の向こうの老婆に訊いた。

「何の話か、思い出しましたか?」

ここまでは順調だった。老婆は突然の電話を息子からだと思い込んだし、オレにも銀行のキャッシュカードを簡単に渡した。ただひとつの問題は、パスワードをその場で思い出せなかったということだけ。この銀行の口座のパスワードはすべて、グリム童話のタイトルだ。

「内容は思い出したんですけど、題名が」

「言ってみてください」

「何かかぶった女の子がカゴにいっぱいの……」

マッチ売りの少女だ!

オレはタッチパネルで〈マツチウリノシヨウジヨ〉と入力したが、画面にはエラーが表示された。

「じゃあ、女の子が魔法で変身して王子様と出会う話かしら……」

人魚姫か!

だが、それでもダメだった。

「真っ白なお姫様が……」

雪の女王!

オレが入力し終えるや否や、画面は暗転した。

〈他行のパスワードが連続で3回入力されましたので、この口座は取引停止となりました〉