メガネ初恋|毎週ショートショートnote

僕の初恋は典型的すぎる。

中学の入学式、僕の目はひとりの女子に釘づけになった。彼女はマジメを絵に描いたようないでたちで、髪は黒くて肌の色は白く、背筋はまっすぐで制服は規定どおり。成績優秀者の証明書である地味なメガネをかけていた。

そして、僕のように自分と正反対の人間を好きになるタイプには見えなかった。

そこで僕は、いわゆる伊達メガネを買ってかけた。安直にも、そうすることで彼女の側の人間に見せかけられればと思ったのだ。

しかし、レンズに度のないことなどクラスメイトには簡単に見破られてしまい、メガネはすぐに僕の部屋の机のひきだしに眠ることになった。

あれから四十年。あんなに健康だった僕の目も衰え、老眼鏡をかけることを検討するまでになった。それをきっかけにふと、スチール缶の中にずっと隠し続けていたメガネフレームを出して眺めていると、妻が言った。

「まさかそれ、あのときの」

そう、僕の恋物語は典型的すぎるのだ。