失恋墓地|毎週ショートショートnote

読経を終えた私は、墓石に向かって手を合わせているふたりに深く頭を下げた。線香から細い煙がすーっと立ちのぼり、その先でゆらりとゆれて消えていく。

六月の雨がちょうどあがったところで、雲間から空が見えている。

男は何も言わずに同じように頭を下げ、女は頬を流れる涙を持っていた白いレースのハンカチで拭った。それに気づいて、男が彼女の肩をそっと抱く。

「本日は誠にお疲れ様でございました。おふたりの〈失恋〉は当、えんげいにおいて丁重にお弔いさせていただきます。今後、もうこちらにお参りになられる必要はございませんので、どうぞご安心ください」

男女は私たちに礼を言って帰っていった。

「あのひとたち、幸せになれるといいですね」

そばで手伝いをしていた小僧が、ふたつの背を眺めるようにする。

「さあて、どうかな」

私は数珠を袖にしまいながら、ふうと息をついた。

「ウチの檀家でも三軒に一軒は〈失恋〉のなきがらを掘り起こしにくるからのう」