バイリンガルギョウザ|毎週ショートショートnote

商店街のラーメン屋でギョウザの無料イベントをやっているから、と彼女に言われて、僕たちはデートのラストを締めくくるために店に入った。

交際を始めてちょうど一年がたったきょうのデートは特別で、できれば落ち着いたレストランででもと考えていたのに、彼女がどうしてもこの店のギョウザがいいと言うのだ。

壁にはポスターが貼ってあり、〈すべて食べきれば無料〉というよくある企画だが、その条件が変わっていた。

「バイリンガルギョウザ?」

いぶかしげに言うと、店主は笑顔で答えた。

「はい、ギョウザをひとつ食べるごとに中国語をしゃべっていただきます」

そんなふうに言われても、英語ならともかく、しゃべれる中国語なんて知れている。

「さあ、頼んで!」

彼女が楽しそうにせかす。

出てきた皿にはキツネ色のギョウザが六つ。

これくらいなら、と「ニーハオ」とか「シェイシェイ」とか言いながら頬ばっていったが、すぐに詰まって僕はしかたなく言った。

「ウォー・アイ・ニー」