立方体の思い出|毎週ショートショートnote

帰りの学活が終わると同時に、僕は教室を飛び出した。きょうの放課後から購買で、体育祭の思い出を売り始めるからだ。

思い出は個人で注文するなら希望の形で購入できるが、学校でまとめて業者に依頼するときは五種類ある形をそれぞれ同数で一括注文するから、早い者勝ちなのである。

購買前はすでに人だかりとなっていたけれど、僕はなんとか〈立方体〉で買うことができた。また掻き分けるように外に逃げ出し、さっそく頭に入れる。体育祭の興奮と熱気が脳内に巡る。

「おまえはいつも〈立方体〉だな」

声にふり向くと、同級生のタカシだった。彼の手にあるのは〈四角錘〉の思い出だ。

「立方体がいちばんピッタリ、隙間なく詰められるから……ってオレ、競走で一位になってるのに賞品もらってない」

何言ってんだ、とタカシが苦笑した。

「おまえ、ビリッケツだったじゃないかよ」

「しまった」

僕は頭から上下逆さの思い出を取り出して入れ直した。立方体はこれが珠に傷なんだよなあ。