オノマトペピアノ|毎週ショートショートnote

「リサイタルの観客が皆、居眠りをしてしまった」との報告に、開発部の黒瀬は顔面蒼白となった。

聴く者の心理に働きかける「音源サブリミナル機能」が世に出て以来、ピアノ業界ではA社の〈わくわく〉ピアノとB社の〈じーん〉ピアノ、C社の〈うるうる〉ピアノが三つ巴の戦いを呈してきた。

そこで、D社はこれらに挑む新製品として、聴衆を夢見心地にさせる〈うっとり〉ピアノの開発にすべてを賭けてきた。しかし、試作品を提供したピアノ奏者から信じられないクレームが飛び込んできたのである。

ピアノ市場はすでにA、B、Cの三社の寡占状態となっており、後発組には致命的な設計ミスだった。

「大丈夫だ、黒瀬」

うなだれる黒瀬に、営業部の白井が言った。

「こいつで新たな市場を開拓して、シェア一位を奪取してやる」

黒瀬のピアノは〈すやすや〉ピアノと名を変えて発売され、小さな子どものいる家庭やマンション住まいの演奏者らに飛ぶように売れていった。