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企業規模別離職率に見るカジュアルな退職と、組織の耐故障性

ここのところTwitter界隈では退職の挨拶で月末を感じるようになってきました。12月のこの頃合いはボーナス支給日ということもあり、例月以上の退職が想定されます。

先のコンテンツでもお話しましたが、終身雇用や「石の上にも三年」という感覚が社会的に薄れてカジュアルな退職が一般化し、2年居たら良い方という風潮が成立しつつあります。今回は実際の離職率に対して統計データを見た後、退職に備えての組織構造についてお話します。

統計で見る離職率

厚生労働省発表による令和2年の離職率は、パートを除いた一般労働者は10.7%となります。産業別に見ると情報通信業の離職率は9.7%となっています。

次に厚生労働省発表の雇用動向調査の企業規模別離職率を元にグラフを作成したものが下記となります。

厚生労働省 雇用動向調査 企業規模別離職率を元に作成

平成一桁年であれば1,000人以上の会社規模であれば離職率は7%台と少なく、続く300-999人規模も10%程度以下で推移していました。しかし平成10年を境にこうした300人以上の企業以上でも離職率は上昇し、現在では13%程度に着地しています。

興味深いのは100-299人規模の企業の推移で、通年で漫然と高い状態であり、平成21年以降は5-99人の小企業よりも高い状態が続いています。令和元年の離職率は他の企業規模と比べて4%以上高い17.3%となっており、最も人材が流動的な企業規模と言えるでしょう。人材紹介界隈では2年ほど前から「ITベンチャーの離職率は約20%」と囁かれています。推測するに令和元年の100-299人規模の離職率17.3%を丸めて話されるのではないかと考えています。

正社員のみならず、フリーランスについても短期の契約終了が増えたと聞こえてきます。フリーランス視点で考えると次々と現場を変えられるのはメリットに映る一方で、企業としてはフリーランスを戦力に数える際には契約延長を断られるケースも増えているため注意が必要です。

人材が流動化する前は突然の事故や怪我に備えるという意味合いで知識共有が必要でした。今では事故や怪我などの不慮の事態以上に離職確率が高いため、不意の退職を想定した対故障性を踏まえた組織づくりが必要だと考えます。

組織の冗長構成

本コンテンツでも以前話題にしましたが、私の博士の研究テーマはP2Pによる広帯域動画転送でした。配信用サーバに頼らず、受信者が転送を兼ねることによってコンテンツ配送網を作るというものです。シミュレーションを重ね、論文を読んだ先に見えてきたものは人事との共通点でした。

組織構造と中間ノード AABの離脱

P2Pによるコンテンツ配送網を巡っては、コンテンツの受信者(ノード)という素人が自身のPCやモバイル端末で途中の配送を担うため、確からしさがほぼない前提です。コンテンツ受信を途中でやめたり、転送にかかるコストが高すぎたりすると、例え網全体で要を担っているノードであってもカジュアルに居なくなります。

居なくなるかも知れないという前提での立て直し施策として、いくつかパターンが考えられます。図中ノードAABが居なくなった場合の網の再構築を元にお話します。人事に置き換えるとAABさんが突如退職した場合、下位の社員とチームAABが担っていた役割をどうするかというお話です。

【対処方法】上位ノード(上長)による代行

上位ノードによる代行

まずは離脱したノードの上位ノードが代替するパターン。人事で言うと上司が退職した部下の仕事を引き受けるパターンです。多くの場合、上司は過去に担当していた業務であるため手段としては取りやすいものになります。

しかしP2Pの世界ではこれは最終手段です。上位ノードは上流としてチャンクを配信するだけでなく、自らの下流ノードのステータス管理を担います。そのため、上流ノードの過負荷は網全体における品質が悪化するため、網全体が共倒れするリスクがあります。

【対処方法】同一階層ノードへの振り分け(チーム併合)

同一階層ノードへの振り分け

同一階層の別リーダーに振り分ける方法です。振り分け先の上位者に余裕がある場合は代替可能ですが、そうでない場合はこちらも共倒れのリスクがあるため、あまり推奨されません。

また、P2Pリアルタイムストリーミングではネットワーク伝送遅延時間の差異や、途中に存在する転送ノードのパフォーマンスの差異により、ツリーごとにコンテンツの時間軸が異なります。そのため、上流ノードの切り替え時にはストリーミングコンテンツが途切れたり、暫く再生が始まらなかったりするため、ユーザー体験としては中々不快です。

人事で言うと突然専門性の違う上長にシフトし、現場が一時的に混乱するというものが該当します。

【対処方法】第三者の投入

第三者の投入

全くの新規のノードBについて、中堅たるAABの代替をさせるという手法です。人事で言うと外部から良さそうな人を役職付きで中途入社させる行為に該当します。これが部長や役員になると俗にパラシュート人事と呼ばれます。

P2Pの世界では実現難易度としてはかなり高くなります。事前に計算機資源を自己申告してもらうスタイルの場合、送信者に近いところで高品質なコンテンツを優先的に受信するための虚偽の課題な計算機資源の申告があります。WinMXでは逆に配信ノードになりたくないために過少申告する場合もありました。人事だと「経歴を盛る」行為や高すぎた「ハロー効果」に相当します。

また、物理的な計算機資源が十分であっても、当該P2Pアプリケーション以外のプロセスが大きく計算機資源を圧迫しているために想定したパフォーマンスが出なかったり、当該ノードの管轄外であるネットワーク途中経路の細さなどにより期待された転送ができないケースもあります。人事だと環境やカルチャーの不一致や、オンボーディング不足に相当します。

事前にベンチマークをするというアイディアもP2Pの世界にはありましたが、ベンチマーク自体が網の負荷に繋がるため現実的ではありませんでした。

仮に能力的に合致し、環境に適合したとしても新規参入からであれば0から受信するため転送するチャンクを上位ノードから受診する必要があります。人事だとこれもまたオンボーディングに数えられるでしょう。

少なくともP2Pの世界では末端から始めてもらうのが現実的であり、実績が確認出来次第速やかに昇格させるというのが無難です。

【対処方法】下位層からの引き上げ

下位層からの引き上げ

下位層からの引き上げ。最も現実的な解法です。P2Pの世界でも「昇格」などと呼ばれていました。申告した各ノードの計算機資源やネットワーク環境に基づいて網における位置を決定するアルゴリズムもありましたが、実際に配置してみるとパフォーマンスが出ないケースも少なくないため、転送量や受信量の実績ベースで決定した方が網全体のパフォーマンス向上に繋がります。

人事であれば他社のEMの方などとお話していても出てくる話題ですが、通常業務を経てリーダーシップの素養があるメンバーを発見し、育成して備えるという姿勢が必要です。

同一階層間での知識共有

同一階層間での知識共有

P2Pではコンテンツ配信網の作り方の一つにメッシュ型があります。ノード間が相互接続し、不足したデータ(チャンク)をメッシュ網に対してリクエストし、当該チャンクを保持したノードが送付することで補填するというやりかたです。メッシュ網のみで配送を行うとチャンクのリクエストデータで溢れたり処理が追いつかずにパフォーマンスが低下するのですが、補填のみに使う分には効果的です。実際の組織運営では知識共有(ナレッジシェア)や社内勉強会が相当します。

ドキュメント化による知識共有もまた退職対策に有効です。ローカルPCや個人のクラウドドライブではなく、共有フォルダに格納するだけでも大きな一歩です。

Slackで言うところのオープンSlackもまた必須です。メールでのコミュニケーションではCCに関係者のメーリングリストを入れるというものが相当します。不都合そうなことをDMやDMグループなどでやられると当人が退職した後に厄介なことになりやすいです。

心理的安全性とは「喧々諤々の議論をしても立場が危うくならない」というのが本来の意味合いですが、詰まるところ「ネガティブな情報も隠さず報告できる関係性」になればゴールなのではないかと思います。そのためにもオープンチャンネルで極力やり取りする文化は、退職対策と組織の可用性の観点からも有効です。

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