見出し画像

人材の流動化から見た往年の3年転職説、現在の「2年居てくれたら感謝」

エンジニア採用のあまりの加熱っぷりに危機感すら感じている今日このごろです。エンジニア採用について言えば、ブランディングから採用しなければならないのが日本なので、「採用コスト」と一口に行ってもブランディング(登壇やテックブログの準備コスト)や選考過程で発生するコストは積み重ねていくとかなりのものになります。

経営からするとそのようなコストを払った人材には終身とは言わずとも、少しでも長く居てもらいたいものです。

皆さんの会社は採用対象者が何年在籍することを念頭に各種設計をしていますでしょうか。多くの場合、「終生ではないにせよ暫くは居るだろう」と思っては居ないでしょうか?

実際のところ、人材の流動化が進み過ぎて2年居たら良い方になってませんか?というのが今回のテーマです。

【短期離職の背景】(2000年代後半)3年

かつては3年で辞める、ないしは辞めましょうという風潮がありました。下記の本が発刊されたのが2006年、2007年でした。特に「若者はなぜ3年で辞めるのか」はかなり話題になりました。

「転石苔を生ぜず」をポジティブな方に捉え、3年で業務を覚えて次のステージに行かないと腐ってしまうという危機感と煽りがありました。

履歴書を見ていてもこのムーブメントに乗った人たちは少なくありません。きっちりと3年単位で転職をしている、ある意味生真面目な人が特に30代後半以降の方に見られ、そこに確かに3年で辞めるムーブメントがあったことを示しています。

(2010年代前半〜2018年)落ち着いた時期はあった

その後ずっと3年間隔で転職する人が一般化したかというと、そうではないと捉えています。2008年のリーマンショック、事業仕分け、2011年の震災と政情が不安定になり「3年で転職しないと」というムーブメントは沈静化したように見えます。

2010年代中盤になると3年周期で辞める人は書類上で悪目立ちするようになりました。売り手市場にシフトしていった2015年以前はまだ買い手市場だったこともあり、在籍年数や経験社数を強く見る企業からはこうした3年で辞める人材は懸念されており、「社数は次で3社目以下」「一社あたり年数が3年以上」というのを採用条件にする会社もありました。今はその条件は強気すぎると思いますが。

(2019年〜現在)2年以下

今回の本題です。Z世代(1995年以降産まれ)を中心に2年以下で辞める人達の動きが目立つようになってきました。早いと数ヶ月。先に話題にしたような未経験とは限りません。

次にそれぞれの背景や問題点、その解決案をお話します。

終身雇用制度に由来する「石の上にも3年」

「石の上にも三年」という言葉がありますが、これを強要するには無理があるなと感じます。私が見てきた企業にも下記の風潮がありました。

・メンバーとして問題がなければ3年でリーダー
・リーダーとして問題がなければ3年でマネージャー(課長クラス)
・マネージャーとして問題がなければ3年で部長

この3年という忍耐を強いるというのは2つの背景があります。

一つは終身雇用の名残。正社員になった以上、長期間居てくれることを前提に年単位の階段を設計してしまうケースです。終身雇用制度というのは一生涯企業が人生の面倒を見てくれるという前提があるものですが、実際にこれをできる企業は既に限定的です。例えベンチャーでも上位メンバーが過去に所属していた終身雇用を前提とした組織から制度設計をすることは少なくなく、自然と「石の上にも三年」を強いてしまっているケースは多々あります。

画像1

もう一つは新卒一括採用の名残です。0から始まることを前提として企業内で育てるのが新卒一括採用の前提です。

それぞれの前提に対してのお話を次にしていきます。

【背景】企業と従業員との温度差:意味づけ・キャリアパス提示の不足

若手の定着が危うい企業についてよくあるパターンとして「いいからこれをやりなさい」とトップダウンで業務指示を出しているケースです。それを遵守して諸先輩方が生き生きと輝いていて定年まで目指せていれば問題は起きにくいですが、そういう企業はそもそも少なくなっています。

下記コンテンツでお話したのは総合職を主眼に置いていましたが、専門職でも同様の流れを感じます。通年で経験してみた後に同じ一年が繰返され、あまり代わり映えはしない。勢い、学ぶことはなくなったと判断してしまいます。

多くの総合職の場合、一人前と呼べる状態になるには一年が目安としてあるように思います。仕事を一通り覚えるのに早い人で数ヶ月、通年で業務フローを覚えた2年目にやってくるのは業務に対する既視感です。

こうなるとソーシャルゲームの曜日クエストみたいなもので「このままの業務フローが生涯続くのでは?」という不安(略)が産まれます。

対策としては現在の職務の深さを見せるというのが挙げられます。既に仕上がった業務プロセスの場合、表層的なプロセスの把握のみで業務ができてしまい、プロセスをマスターすることで「ここで学ぶものはなくなった」と見えてしまいます。プロセスそのものの意味付けをすることや、他のプロセスとの連続性、あるいはそのプロセスを支える各要素を示さないと飽きてしまいます。

企業の階段と従業員の希望との乖離.drawio (2)

【背景】企業と従業員との温度差:出世はしたくない

若手の中には職種問わず「リーダーの打診があったから転職活動をしている」というエースプレイヤーが居ます。

出世をするということが「面倒くさい時間外業務が増える」「上長がつまらなさそう」ということであれば誰も目指しません。

詳細は下記コンテンツに譲りますが、楽しげに働く中間管理職と、その業務の意味付けと待遇が必要です。「出世するより副業したほうが稼げる」というジャッジにならないようにしなければなりません。

【背景】企業と従業員との温度差:巨人の肩の一般化

先立ってある企業のCTOとお話していた際に出たものです。技術が進化しすぎて(深追いしなければ)覚えることが減ったのではないかというお話です。

例えばパブリッククラウド。マネージドサービスが花盛りですが、インフラに対する知見がなくてもトラフィックが少なければ雰囲気で乗り越えられます。バックアップにしろ復旧にしろ、冗長化にしろポチポチとクリックすればできます。パフォーマンスに不満があれば取り敢えずお金を積めばある程度までは凌げます。マネージドサービスの元となったOSSを知らなくてもプログラムから叩けてアクセスできる世界です。

例えばRoR。こちらも他社のVPoEとお話していた際に出たことなのですが、joinを伴うSQL文が書けない若手エンジニアが出現しているようです。(joinを使うデータ構造がダメだという話ではここでは無視します)あるデータ抽出を若手エンジニアに指示したところ、「RoRを入れて良いですか?」と聞かれたそうです。意図としてはRoRのActiveRecordを使って良ければやります、そうでないとできませんというものだったそうです。SQLを知らなくても目的は達成できるのは事実かも知れませんが、なかなかのオーバーヘッドに目を瞑る必要があります。

コンピュータ・サイエンスにおける小難しいハマりポイントを先人たちの積み上げ(巨人)が覆い隠してしまったと言えそうです。

これに類する現象は未経験採用の現場でも起きています。プログラミングスキルが分からなかったのでお題を出したのですが、プログラムを見せて貰いながら大変だったところを質問したところ「環境構築です」と回答がありました。Webシステムに関するところはユーザーログインだろうがユーザー管理だろうが、Udemyやらオンライン教材にソースコードが転がっています。コピペすれば概ね動いてしまう。そして詰まるところはコピペだけではできないローカル環境では動いていた自分のソースコードをHerokuにアップロードして環境変数を変えるところだったというわけです。言うなれば「ロジックを理解する」のではなく、「呪文を覚える」に近い人と言えそうです。

巨人そのものを理解することが無い限りは簡単なことに見えてしまい、「この道は極めたので飽きました」「今困ってないので巨人を見るのは遠慮しておきます」となっているようです。

企業の階段と従業員の希望との乖離.drawio (3)

【背景】従業員との温度差:主に専門職におけるレベルの多様化

昨今のエンジニア新卒採用などはプログラマという職種の一般化や、インターンによる早期のエンジニアとしての芽生えが起きています。

RPGで言うところの「みんなレベル1から初めて、ボロ布と折れた棒からシナリオスタート」というシチュエーションが新卒一括採用でゼロから教育する事象と同一だとするとレベル1に混じってレベル20や30の人材が混じっている状態です。RPG全般で言うところの中盤に相当するレベル30なのに木の棒でステージ1から始まってしまう。マザーだったらバトルシーンにすら移行しないレベルです。ゲーム難易度が低いと感じた結果、「なんだこのクソゲーは」となって次のゲーム(会社)に行ってしまうというものです。

「3年でリーダー」のような既定路線の1段目を設けてしまうと、例え2段目、3段目のステージが面白いとしてもそれを見せることなく辞めてしまうということになります。

厄介なケースとして、レベル30の人材が早期に辞めた結果、レベル30の人材と仲の良かったレベル1の人材も「この企業に居ては成長できないのでは」と誤認して辞めるというものもあります。「君はまだ早かろう」という人材も混じって離職の連鎖が発生します。

企業の階段と従業員の希望との乖離.drawio (1)

難儀するケースとして、ビジネスモデルが完成していたり簡素な企業の場合、レベル30の人材に任せられるような2段目、3段目が存在しないケースもあります。メンバーの次はリーダーとして取りまとめて終わりという組織もあります。

システムの場合、特に負荷や複雑さもないものの収益化は問題ないという場合、とても素晴らしいことではありますが、スリリングさはありません。勢い、見限りやすい傾向にあります。目の前に自社にオーバースキルな人材が来た場合、無理に口説いて受け入れることが必ずしも双方の幸せになるとは限りません。

【背景】ジャネーの法則に早期に気づくようになったのでは

19世紀の哲学者ポール・ジャネーが発案したジャネーの法則ですが、主観的な1年の長さは年齢に反比例するというものがあります。50歳にとって1年は人生の50分の1だが、5歳にとっての1年は1/5だからというのが理由です。

従来の日本の制度では進学・就職・自動車購入・結婚・出産・育児・自宅購入という大筋のテンプレートがありました。このテンプレートに載ることは周囲の同年代との時間共有をすることでジャネーの法則に気づくのはだいぶ先で済みました。

しかし今はそのテンプレートが崩壊しています。晩婚化や介護、人生における大型出費である車や自宅購入からの距離も挙げられるでしょう。1992年の個人尊重教育に代表される動きも影響があるでしょう。そのため、ジャネーの法則を従来よりも早期に感じ、焦りを感じて動き出しているのではないかと考えています。

【企業側】短期離職対策と採用コストも含めた収支計算

考えられる対策としては、職務に追加する形で本人のWillに近いものを段階的に挑戦する機会を提供するというものです。

こうした生き急いでいるようにすら見える人材は成長意欲が高いと言え、企業としては少しでも長く働いてもらったほうが良いケースが多いです。ここに対して無策であると一部の奇特な人材と、下記コンテンツのような人材だけが残るようになり、外注で良かったのでは?となります。

特に自社サービスにおける正社員エンジニア採用というのは贅沢行為になってきています。コアコンピタンスは内製化、その周辺は海外に外注という流れは加速していくでしょう。

【従業員側】人材の流動化、2年周期の転職は続くのか?

少子化、IT人材不足と相まってこのまま人材の流動化は進むのでしょうか。

キーワードとしては海外人材だと考えています。実際に数十名規模のベンチャーであっても、今後の開発組織のグロースや日本人の採用難を前に「日本でなくて良くない?」と東南アジアへの拠点を模索しています。移民は現実的ではありませんがこうした海外開発拠点の動きが定着してくると、流動的な日本人、特にメンバー層は再び懸念される可能性があります。

「これからの人材は流動的だ!」と短期離職を繰り返す人が増えている昨今ですが、往年の「これからは3年で転職しなければ!」という論調に類似しており、反動が来るシナリオも気にしたほうが良いでしょう。

弁証法の観点で言うところの時代は繰り返すということです。なお、使える弁証法は読みやすく、私も社内でお勧めしている一冊です。

執筆の励みになりますので、Amazonウィッシュリストをクリックして頂ければ幸いです。
https://www.amazon.jp/hz/wishlist/ls/COUMZEXAU6MU?ref_=wl_share


頂いたサポートは執筆・業務を支えるガジェット類に昇華されます!