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【読書】吉本ばななさんの1年間を一緒に過ごした

「724の世界」という新刊を読んだ。
吉本ばななさんの過ごした2023年の1年が、毎日5行程度の日記で綴られている。

こちらの記事で綴った、本屋B&Bさんのトークイベントに参加したときに購入した一冊だ。


こんなにも"日記そのもの"の本は、これまで読んだことなかった。
エッセイとは全然違う。
綺麗に整えられた考えではなく、ひたすら生活そのものが目の前に広がっていた。
読めば読むほどに、日記の良さを実感した。


まず、装丁が良い。

学級日誌の表紙みたいなサラサラとしたビニールの表紙が手に不思議なほどしっくり馴染む。
マットな濃い水色はなんだか懐かしいし、山西ゲンイチさんのどんぐりのイラストがかわいい。 

かわいい!!

ワクワクしながら開くとそこには、ばななさんのかけがえのない小さな日常が広がっていた。

お肉屋さんのおじさんを心配しまくる

近所のお肉屋さんのエピソードが、何回も出てくる。
おじさんはかなり高齢で、病気になって手術をしたり、何度も調子を悪くしては、復活してお肉を切っているそう。

おじさんの復活を喜んだばななさんが、思わず背中をさする様子が書かれているところ、かなりほっこりした。

人はこうやって日々を生きて、いつか倒れる。
そしてまた起き上がって、また倒れる。
それは悲しいことじゃない。
日常はかけがえがない、ということなのだ。

724の世界

お肉屋さんのおじさんから、日常のかけがえのなさを感じ取るばななさん。
この文章のちょうど良い重み、胸にストン、と落ちる感じが、本当にばななさんらしくて大好きだ。


ご飯を食べる幸せ。

インド料理、ベトナム料理、もつ鍋、鉄板焼き、高級なお寿司、中華、コーヒー屋さん……
挙げればキリがないほど、素敵なお店で美味しいものを食べるシーンが多い。
家族や友達と。
お店の人との温かいやりとりも描かれる。
夏にインドカレーを食べる描写が素敵すぎて、つられてカレーを食べに行ってしまった。

夏に食べるカレーは最高!


自分の一年の思い出を振り返っても、確かに美味しいご飯の思い出が多い。
食べることは、生きることなんだなぁと改めて思った。
美味しい食事を好きな人と囲むことこそ、シンプルだけど最高の幸せなのかも。

日々を忙しなく生きていると、たったこれだけの単純な事実をすっかり忘れてしまう。
世間を生きる中で、幸せはたくさん努力をしてお金を得て地位を築き、ようやく手に入るような何かだといつのまにか信じ込む。

そうやって苦労して手に入れたものじゃないと、本物じゃないとつい信じてしまう。
成功した人たちの強い言葉が、やたら胸に響いてしまう夜がある。

でも、何者にもなれなくても、たくさんお金がなくても、私たちは幸せになれる。
目の前に温かいご飯と、大事な人がいれば。

言わずと知れた名作「キッチン」で、ばななさんが描きたかったのって、本質的にはこのことなんじゃないのかな、といま改めて思った。

ずっと手元に置いている1冊。

《おわり》



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