短歌十首連作「無声動画」
無声動画
まぎれもない白をめざして卵白の底はやばやと曇りはじめる
サニーサイドアップ 調整されたよろこびはえくぼをそれほど深めはしない
影として生まれなおして牛乳の線がコップに刻まれてゆく
薄い崖のごとく切り出すことばだけ掬ってフォーク二本の反射
苔色の廊下がずっと脳にある ともだち ぬりえ おみずください
駅近の定義がこまかく合致する人とふくふく笑って生きる
ぬけがらに囲まれながら本を読むひとつの儀式としての部屋干し
ティファールの上蓋あけて逃がす湯気 だれかのための妖精がくる
自然光を照明にする一日が無声動画のようですずしい
ふたりしてうどんが好きで、はすこし嘘 きのうと同じつややかな箸
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