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2023年、デザイナーに必要な「偏愛」「非合理」「プロセス」のはなし

本年もよろしくお願いいたします。
以前まとめた「AIはUIデザイナーの仕事を駆逐してしまうのか?」という海外記事メモの議題に対する自分なりの考えです。(この記事を読んでない人前提に書きますので、読まなくてもOKです)

AIがデザイナーの仕事も代替することは確実で、その中でどんなデザイナーが淘汰され、どんなデザイナーが生き残るかについて、前回は海外の他の作者の考えを引用していましたが今回は自分なりの考えをもとに書いていきたいと思います。

2022年はバーチャル技術の発達やAIの進化をまざまざと見せつけられる年でした。入力されたキーワードをもとにAIが画像を生成するMidjourneyはギークな界隈にとどまらず日中のワイドショーなどでも取り上げられてお茶の間にまで衝撃を届けるまでに至りました。

Midjourneyによって生成された画像

AIの進歩に関しては以前もご紹介しましたがマナブさんのVoicyがめちゃくちゃわかりやすいのでオススメです。

で、本題に入る前にAIと自分の本業であるUIデザイナーとの関係性の未来予想をしてみたいと思います。


デザイナーとAIの未来

あらゆる仕事にAIが組み込まれていく未来、人間はそのAIが生み出す作品をいかにディレクションし、構成させていくかといったキュレーション力が必要とされています。
技術への感度の高いクリエイター達はすでにAIを駆使した創作実験に励んでおり、絵も物語もすべてAIで作り上げた漫画や、ほぼAIが書いたブログ記事などを人そのまま発表するようなことが行われています。

するともうすぐ書籍の執筆活動もほぼAIがやってしまうことになることは容易に想像できます。テーマや方向性だけを提示すればあとはAIがビジネス書も自己啓発書もライトノベルも純文学も一瞬で仕上げてしまう。

そうなるといよいよ既存の仕事のやめるかやり方を変えざるを得ない人たちがでてきます。
本人も公言していますが、例えばひろゆきの本などは本人がほとんど手を動かすことなく、ライターがインタビューなどをもとに編集しているというのは有名な話です。
このライターような「この人はこんなことを言っていた」という事実(データ)をベースとした編集作業はAIの超得意分野であり、AIは残酷なまでに彼らの仕事を奪いにくるでしょう。

ここで2023年以降のデザインの未来予想も解像度高く想像できます。

例えばUIデザインのようなある程度の「型」をベースに組み上げていくようなデザインはAIの得意領域で、将来的にはMidjourneyのようにキーワードを入れるだけで必要なデザインが一瞬で何パターンも手に入るようになることでしょう。
そして(ここがデザイナーにとってAIを使う大きすぎるメリットでもあるのですが)それらのデザインは基本的に著作権フリー

そのまま流用するも、改変するも自由。
デザイナーの仕事は無数に吐き出されるAIのデザイン案に対してジャッジをし、必要な修正を施す作業に注力すればよいことになります。こんな未来がすぐ目の前まで来ようとしています。


AIの得意分野は「与えられた課題への最適解を無数に出すこと」

2022年は様々なAI技術の活況と多くの人たちの努力によってより解像度高くAIの実態を把握できるようになりました。
そこから見えてきた、というかより色濃く印象づいたのは「最適解を高速で打ち出すこと」に関してAIはとてつもない力を発揮するという事実です。

電卓を考えてみればわかりやすいですが、元来コンピューターというものは「正解を瞬時に導き出す」という作業に対して異常な力を発揮していました。
それがより高度になり「瞬時に最適な次の一手を考える」というところまで行ったのが囲碁のチャンピオンに勝ってしまったAlphaGoであり、それからさらに時を経た今では「絵」「写真」「物語づくり」「記事づくり」「作曲」「歌唱」などに対して同じように最適解を打ち出すまでに至りました。

AIは過去の膨大なデータから、あらゆる可能性を考慮した上で最も多くの分岐を回収できるコスパの良い回答を導き出すようにできています。
言ってしまえば「過去のデータから導き出される民主的な答え」を割り出します。

そうなってくるといよいよUIデザイナーの仕事も危うくなってくるように感じます。
それまで専門的な勉強をして実践を積んで長い時間かけて技術を習得し、苦労して正解を導き出していたデザイナーの仕事が、AIによって小中学生でも再現可能なものになってしまいます。
デザイナーはこのAIが引き起こすテクノロジーの津波に対してどう乗り切るかを考えなくてはなりません。

誰でもUIデザインができてしまう時代にデザイナーとして生き残るにはどうすればよいのか。
それはAIの得意分野に人間が時間を割かないことです。

もっと突き詰めて言えば、最も被害が少なく、最も多くの人から賛同を得られ、最もリスクの少なく、コスパの良いデザインを考えることにデザイナーの時間を溶かさないことです。

すでに2000文字を超えていますが、ようやくタイトルにたどり着きました。

デザイナー必須の3要素「偏愛」「非合理」「プロセス」

デザイナーは、というかもしかしたら人間は、とも言ってもいいかもしれませんが、とにかく仕事人として生き残るには最速で最適解を導き出すようなKPI重視の従来型の仕事の取り組み方を変える必要が出てくると考えます。
もちろんこういった仕事に価値がないのではなく、前述の通りこういうコスパの良く仕事することは中学生でもできてしまう未来がすぐそこまで来ているからです。

そこで私が考えたデザイナーが生き残るための重要キーワードが「偏愛」と「非合理」と「プロセス」です。
順番に説明してみます。

1.偏愛

AIには趣味嗜好というものが存在しません。AIはクライアントに対して自分を殺し、徹頭徹尾要望に応える有能なビジネスマンです。
言い方を変えれば個性がない、とも言えます。
入力に対して希望通り、期待通りのものを出してくれるけど、一方でクライアントの脳内の遥か彼方にあるようなぶっ飛んだ提案や、人を選ぶようなドギツいアイディアはAIにとっては苦手分野です。

一方で人間には多かれ少なかれ「自分はこれが好き」と言った偏愛が存在しています。デザイナーとして働いていれば恐らく多くの人が「理屈で考えたらこのA案が最適なんだけど、自分の好みはなんかB案なんだよなぁ」という葛藤を経験したことがあるのではないでしょうか。

しかし、このA案をつくるような「多くの場合での正解」を導き出す仕事はAIが代替してしまいます。つまり将来的に人間の仕事として価値があるのはB案を提案する能力です。

一方で、クライアントや会社などの外圧にさらされているデザイナーとしてのキャリアが長くなればなるほど、B案を出す気力も体力も情熱も失ってきてしまうような気がします。

しかし、ただ流れに任せてA案を出すことのテクニックばかりを磨くのはデザイナーの寿命を短くします。

自分への戒めも込めて書きますが、自分の偏愛を大切にし、情熱を持って創作に取り組む姿勢と自分の思いを高いクオリティで表現する技術を磨くことは怠ってはいけません。
圧倒的なクオリティでもって「あんたの言うことはしらんけど俺はこれが好き!!」という提案を生み出す能力の価値が今後確実に高まってくるように感じます。

そんな時代の到来が目の前に迫っている今日のデザイナーには、日々新しいもの、美しいものを見て、体験して、自分の中の歪み、フェチ、偏愛を大切に醸成し、恐れずに自分だけのアウトプットを出すことを続けていく姿勢が求められると思います。

2.非合理

AIが導き出す回答は非常に合理的なものです。それは前述の通り、過去のデータを総動員させて将来想定される可能性を考慮した最適な判断を下すようにプログラムされているからです。

そんな中で人間が取り組むべき仕事は「場面に応じて非合理的なジャッジを意図的に取り込む」ことだと考えます。オーダーメイドと言い換えても良いかもしれません。

うまい例えになるかわからないまま頑張って書いてみますが、例えばタクシーを降りる時、運転手さんに「お釣りはいいです」というやり取りをしたり見たことはありませんでしょうか。

ここではお釣りを受け取らないことには何の合理性もありません。
タクシーではキャバクラのような運転手の指名制度はないため、普通はその場限りの付き合いになります。そのため、お釣りを受け取らないことで運転手へ与えた恩が自分へ返ってくることは考えづらい。
何かしらの利害関係があってお互いの関係性を深めていくことに意味があるならまだしも、どう考えてもその場限りの付き合いであるタクシーの運転手さんからはお釣りは受け取るべきです。

しかしこういった非合理は日常の中に細かく織り込まれています。その場の一瞬の感謝を得る嬉しさや、あるいは一抹の優越感に浸るために人は喜んで非合理的な行動を起こします。

そのような側面にも目を向けたデザインを行っていくことが、AI時代においては非常に求められてくる人間の能力のように感じます。
クライアントの心の奥まで入り込み、彼らが本当に心から求めていることは何か、それを実現させるためには果たして合理的でコスパの良い方策だけを提示すれば解決するのか、と言ったことにまで考えを及ばせてデザインを作り上げていくことが必要となると強く確信しています。

3.プロセス

AIは瞬時に答えを導き出します。そこには「その答えに至るまでに費やした時間」や「なぜその答えに行き着いたのか」という理由が抜け落ちています。人間が生み出すべきはそこからうまれる価値です。

例えば同じアウトプットだったとしても、一方は「2秒でできました」というものと「3日寝ずに考えました」というものではちょっと後者のほうがありがたみがあり、もっと言えば価値が高いようにも錯覚してしまいます。言うまでもなくAIが作れないのは後者です。

さらに言えば、「クライアントと50回打ち合わせをして2000回LINEのやりとりをして作り上げたもの」だったり、「クライアントと殴り合いの喧嘩になりながらも作りあげたもの」だったり、「クライアントと一緒になって手を動かして立ち上げたもの」だったり、とにかくアウトプットだけを切り取ると同等の価値のものでも、そこに至るまでのプロセスや時間によって仕事の価値が変わることがあります。

より良いものを生み出すことを目指すことはもちろん大切。しかしAI時代においてはそこに至るまでのプロセスをどう価値化させるかが非常に重要なテーマとなります。

ちょっと難しいことを書いてしまいましたがやり方はシンプルと思っていて、要は誠実に人と仕事をすることに尽きると思います。クライアントが支払ったコストに対して期待以上のものを提供する。その「もの」がアウトプットだけに限った話ではないということです。

しっかりと相手の話を聞き、その真意を適切に汲み取り、ときには反発し、最後は相手が納得するかたちのアウトプットを出す。このプロセスにこそ人間の仕事の価値があると考えます。まぁ言うは易く行うは難しなのですが、、

とにかく、AI時代においてはこれまで以上に人と人との関わり合い、信頼関係、馴れ合い、癒着を醸成する能力がデザイナーに求められると思います。

丁寧に挨拶をする、メッセージの言葉選びに気を使う、時には飲み会に行ってバカな話をしてみる、、そんなカッコよくも面白くもない地味な人間関係づくり、信頼関係構築にこそAIが生み出せない価値があると考えています。


仕事は信頼づくり、人に優しい1年に

AIのことを知れば知るほど、デザイナーの仕事が様変わりする未来が見えてきました。
そこから考えを深めていくと、結局たどり着いたのは「人を大切にしよう」という幼稚園から教えられていた結論でした。

人を見てときにはその人に合わせたオーダーメイドで非合理的なデザインを行う。人と向き合って、ときに巻き込みながら丁寧に仕事をする。そして、自分という人間の持つ歪みやフェチを大事にして、それらを表現するためのスキルを磨き続ける。

そしてとってもとっても大事なことを言い忘れていたことに今気づきましたが、これらは前提として「AI技術を使いこなせる」デザイナーになっていることがマストです。これからの時代はAIが使いこなせなければ競争レースのトラックにすら並べない時代になります。

AIの技術に触れ、勉強し、一方で飲み会に行き、人といっぱい話をして、元気に笑顔で挨拶をする。

先端のテクノロジーを学びながら、幼稚園のときに先生に教えられたことをキチンと守る「良い子」でありつづける。
そんな立ち回りを身につけることこそがデザイナーとしての処世術なのかなぁと考えたりしました。

ではでは本年もよろしくお願いいたします。

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