見出し画像

海外赴任、留学する人におすすめしたい本

海外に行くと、まるで自分が日本人を代表しているかのような立場に立たされる時があります。
日本人はどう思うのか、日本ではどうなのかと聞かれたときに、あたかも自分が日本人の考えを代弁しているかのような気持ちになるのです。

いいかげんなことを答えてしまったな、なんでこんなことも知らないんだろうという後悔と、今まで当たり前のこととして考えてもみなかったことが本当に多いなという気づきが、繰り返されます。

そんな時に感じるのは、日本のことをもっと学びたいという欲求と、どうしたら相手に伝わりやすくなるかです。
日本のことを知るには近道はなく、とにかく蓄積あるのみですが、相手が理解しやすくなる方法はあります。

それは相手のことを理解して、相手が理解しやすいロジックや、比較を使って話をするのです。
そのために役立つ本をテーマ別にリスト化してみました。


テーマ1:日本人が感じた欧米

1.甘えの構造 土居健郎著

アメリカの知人の家に招かれて「アイスクリームはいるか?」と聞かれ遠慮して断って後悔したエピソードから始まる。
もやもやしながらずっと感じていた違和感の正体を日本人独特の甘えの感覚にあると看破した本。
古い本だが、今読んでも全く当てはまるし、日本人の感覚を説明するのに使いやすいロジック。ただし、なかなか外国人にこの感覚は通じにくい。

2.欧米・対決社会でのビジネス 今北純一著

絶版ですが、古本で手に入ると思います。特に欧米圏に行く人、上司や同僚が欧米人になる人におすすめです。
はじめから対決社会だと心してスタートするのと、ボーとスタートするのでは全く違います。
ボーっと行けば、たぶんしょっぱな打ちのめされると思います。
本当に最初が肝心なんです。
最初についたイメージを覆していくのは、時間も労力もかかります。

3.あめりか物語 永井荷風著

ちょっと毛色の違う本を一冊。永井荷風は20代の4年間を父親の命を受けアメリカで過ごしています。
明治の頃でも今と同じだなとか、やっぱり昔は違うなと時代を超えて感覚をつかむのに良いのでリストにあげました。
それと、単純におもしろい本です。私はアメリカ留学が決まってから、司馬遼太郎の「アメリカ素描」とこの本を続けざまに読みました。
司馬史観と日本人論は、日本人にはわかりやすいですが、外国人にはわかりにくいような気がします。

「あめりか物語」の続きで、「ふらんす物語」もあります。

4.自由と規律 池田潔著

古い本ですが、イギリスのパブリックスクールに通った日本人が当時の体験や思い出を記述しているもの。本質的な部分はあまり変わっていないと感じました。
若者が異国の地で何を感じたのか、どのような価値観を見出したのかを知るのは参考になります。
例えば自分がアメリカで自由の概念を自分なりに感じ取ろうとしたときに、一つの見方として比較対象にすることで、助けになります。

テーマ2:日本人による日本文化の紹介

1.武士道 新渡戸稲造

これは有名なので特に述べることはしません。岡倉天心の「茶の本」も時代的には同じ時期ですが、外国人には理解が難しいような気がします。
日本通の外国人と話すとき用ですね。

2.東洋的な見方 鈴木大拙

鈴木大拙の最晩年の著書です。著作の中では読みやすい本です。シンプルな言葉使いです。
禅に興味がある人が現れ禅について聞かれたとき、自分なりの考え方を説明したい人向けです。
鈴木大拙は外国人が理解できるロジックを分かっている人なので、考え方を説明するのに参考になります。

テーマ3:欧米人による日本文化の紹介

1.菊と刀 ルース・ベネディクト著

日本は「恥の文化」欧米は「罪の文化」という有名な分析で、批判も多いのですがわかりやすいですし、欧米人に何かを説明するときに使いやすいロジックです。
こういう説明をするとアメリカ人はしっくりくるんだなと理解できます。

2.英国一家日本を食べる マイケル・ブース著

日本食通の外国人が日本食を食べてどのように感じるのか、町並みや雰囲気をどうとらえるのかが参考になります。
外国人に和食を食べてもらうとき、日本食レストランに連れていくとき、こういうところに驚いたり、喜んだりするんだなと知っておく感じです。

浅いなと感じる部分もあると思いますが、そういうものだと思ってください。
私たち日本人が海外に住んだり旅行して分かった気になっているレベルは、この方の日本理解に比べるとはるかに低いレベルです。
自分の知っている世界やフィルターを通してしか、物事は見えないし理解できないんです。

3.美しき日本の残像 アレックス・カー著

日本好き、東洋好きの外国人が日本の美をどのように評価するかが参考になります。例えば彼は古民家再生をしているのですが、再生の仕方は外国人ならではです。

英国一家日本を食べるも同様に、著者は日本人ではないので、私からすると正直ちょっと違うなとか理解が浅いなと思うところもあるのですが、日本文化を海外に紹介するときは、彼らのフィルターを通した方がよっぽど理解され刺さります。

テーマ4:欧米人の思想の背景

1.ローマ人の物語 塩野七海

特に欧米人の基礎知識としてローマ史はありますので、知識として持っておくのがよいと思います。
例えば、日本人であれば「関ケ原の戦い」と言われたら絵が浮かぶしあらすじも分かりますよね。欧米人にとって、ハンニバルがローマ軍を包囲殲滅した「カンニエの戦い」とか、カエサルのガリア戦記は同じです。
5賢帝の一人ハドリアヌスの長城は、今もイングランドとスコットランドの境になっていますし、大陸法はローマ法がベースになっています。ラテン語もローマですね。
ローマは現代につながっています。

2.プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 マックス・ウェーバー著

間違えているという意見もありますが、分かりやすいロジックではあるし、古典の名著です。
アメリカ人の感覚を分かろうとするとき、もしかしたら分かった気になっているだけかもしれませんが、この本は役立ちます。

3.自由からの逃走 エーリッヒ・フロム著

これも分かりやすいストーリーです。
深く理解しようとすれば、ハンナ・アーレントの「全体主義の起源」も読まないといけないですが、自由からの逃走だけで十分と思います。
日本人が周りに合わせ周りの指示に従うことで安心を覚えるところを、少しタイプは違うもののドイツ人はこうなんだと比較できるようになります。
封建主義の元、身分や職業が固定されていたところから自由にしてもいいとなったときに、逆に連帯が薄れ不安になるという話です。

番外編 +10冊

あっという間に10冊を超えてしまいました。
他にも時間が余った人のために番外編として以下の10冊もお勧めします。

(1)ガリア戦記:カエサルによるガリア地方遠征の記録。読み物としてもおもしろいです。記録係を従軍させて記録させていたらしいので、今となっては貴重な記録です。


(2)アレクサンドロス大王東征記:アレキサンダー大王の東征の記録。これも記録係を従軍させていたらしい。カエサルはアレキサンダーのことを研究していて戦い方も参考にしていたとのこと。

(3)ディスコルシ(マキャベリ著):マキャベリによるローマ政治研究。ローマについて語られた本はたくさんありますが、まずはこれを読むのが良いと思います。一流の人物による一流の分析です。

(4)伝習録(王陽明):明治維新の原動力となったのは陽明学が日本で学ばれていたからともいわれている。清と李氏朝鮮は正統派の朱子学のみだったのが影響したとか。私はそんな単純な話ではないと思いますが、陽明学が明治維新の日本人の行動に影響を与えていたのは事実と思っています。

(5)正法眼蔵随聞記(懐奘えじょう):禅関連の古典で一番わかりやすいと私は思います。師の道元の教えを一生懸命ノートに取っていて、それが死後弟子に発見され書籍化されたもの。文章を通じて一生懸命な気持ちが伝わってくるんですよね。

(6)古事記:現代語訳がたくさん出ているので、一度ちゃんと読んでみることをお勧めします。どういうわけか、世界中の昔話や伝承には共通のストーリーやモチーフがあるらしく、古事記も例外ではありません。また日本の昔話の元になったであろう話もたくさん出てきます。
文字のない時代に口伝えの伝承で伝わってきた話です。

(7)アメリカの民主主義(トクヴィル):訳が悪いと評判のバージョンを読みましたが新訳が出てます。アメリカで民主主義がどうやって定着していったのかを見聞きしたフランス人が書いた名著。民主主義を語る上で避けては通れない本です。

(8)隷属への道(ロバートFハイエク):共産主義の限界を看破した本です。個人的に好きな本ですが、今は昔ほどは好きではなくなってしまいました。
ハイエクは古典的自由主義の代表で、経済にとどまらず経験主義からくる哲学的な要素も入っていると思います。ハイエクの本はアメリカ留学前に片っ端から読みました。

(9)正義論(ロールズ):昔の理論なので洗練されておらず批判を受けることもありますが、何が社会にとっての正義かを説いた最初の本で、この本を通らないで先には進めないと思います。
ざっくりすぎるだろと怒られそうですが、アメリカは無知な大衆が最後は正しい判断を下すという仕組みで作られています。ロールズの無知のヴェールも伝統的なアメリカの考えがあっての理論のような気がします。
私は最初英語で読んでいましたが、読むのに時間がかかりすぎるので、後から日本語訳を手に入れ読み直しました。

(10)大きな森の小さな家シリーズ(ローラ・インガルス・ワイルダー):最後に児童文学です。マーク・トウェインの「トムソーヤの冒険、ハックルベリーフィンの冒険」と迷いましたが、アメリカ人の心のふるさと的な話にしました。続きの「大草原の小さな家」もいいです。アメリカ人のバックボーンにある質実剛健に一人で生き抜くという精神はこういうところにあるんだなと思います。

アメリカに留学、駐在する人用のリストになってしまいました。本を絞り込むのは難しいですね。

ちょっといやらしいですが、こいつ教養あるなと感じさせるのはビジネスでもプライベートでも人と付き合う上で非常に役立ちます。
英語でどこまで深い話ができるかは置いておいて、日本語ベースでも頭に入れておくのが良いと思っています。










この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?