見出し画像

最後の恋になればいい


#創作大賞2024 #恋愛小説部門

あらすじ
友人と共に婚活に婚活に励む独身OL・綿貫芽生(28)は、本心では元カレが忘れられず上手くいかない日々を過ごしていた。そんな中、ある日のお見合いパーティーの帰り道にバーの店長・大崎晃(34)と出会う。
大崎に元カレを引きずっていることを見抜かれた芽生だが、そんな大崎からの励ましの言葉で、一度とことん元カレと向き合おうと決心する。
そんな折、大学時代の友人の結婚式に元カレも出席することが分かり、再会することが決まる。その日のために自分磨きをしたりカクテルドレスを選んだりと準備をする芽生だが、内心乗り気になれていない自分にも気づいていた。迎えた結婚式当日、単身、式場に足を踏み入れる芽生だったが……。

第1話
私・綿貫芽生 わたぬきめいは今日も、無駄だとわかっていても一縷の望みをかけて、戦に臨む。
綺麗目なホテルの一室に、いつもより少しフォーマルな服を着た男女が集まれば、やることはひとつだ。
「それでは男性の方は次の女性のテーブルへご移動ください!」
何故だかこういう時のお見合いパーティーの司会者って、ものすごく元気に見える。
私は自分の前を去っていく13番の名札をつけた男性に会釈をして、次の男性を待つ。やって来た14番の男性は、なかなかイケメンだ。しかし着ている服を見て、テンションがすんっと下がる。服がとてつもなくダサい。
「それで、僕の趣味は……」
人当たりも良いし、悪いところはない。でも服がダサい。もし私がこの人のことを心底好きならそんなことは気にしないだろうし、「私がお洒落にしてやろう!」と意気込むのかもしれない。けれど、生憎彼と出会ってまだ1分の私にはその気力は湧いてこない。ただ服がダサいと言う現実だけがそこにある。
「はい。ありがとうございました。それでは次のお席へご移動ください」
当たり障りのない会話をしていたら5分という持ち時間なんてあっという間で、また次の男性がやってくる。15番の男性は、汗っかきなのか顔を常にハンカチで拭いている。
「あっ……。えっと、うん。あの、そうですね。えっと」
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
きっと女性に慣れていないんだろう。こういう人と付き合ったら、初心で可愛いと思えるんだろうか。
「あ、はい。あの、じゃあ、け、血液型は!」
「O型です。佐藤さんは?」
「ぼ、僕はB型です。はい……」
しん、と会話はそこで終わる。「え、終わり?」と危うく口に出そうになったけれど堪えて、ニコニコと笑ってみせる。15番さんも笑い返してくれるけれど、ずっとこんな調子じゃ苦しいかもしれない。この人と付き合ったら、何かを提案したり、スキンシップをしたり、それら全部、私発信になるんだろうか。そこまで頑張れるほどこの人のことを好きになっている未来が見えない。
「時間になりました。男性は次のお席にご移動お願いします!」
ニコニコしているだけでまた5分はあっという間に終わる。次にやって来た16番さんはなかなか爽やかで、服もダサくないし、余裕も感じられる。
いいかもしれない。
「こういう場って、あまり慣れてなくて……。結構緊張するもんですね」
照れたような様子も誠実で良い。16番さん、好感触だ。
「お時間がきてしまいました。それでは男性はご移動お願いします!」
やっとテンションが上がり出したと言うのに5分という時間は短くて、16番さんもとい田中さんは次の席へと向かっていく。
田中さん、良い人だけど今日多分一番人気と見た。私なんかを選んでくれる気が全然しない。
「あのさぁ」
田中さんを名残惜しんでいると17番さんが来ていた。
駄目だ、集中しないと。
「はい! すみません、ぼーっとしちゃって」
「全然。わかるよ~疲れたよね」
お。この人、気楽に話せそうだな。
「この後2人で仕切り直ししない? ぶっちゃけ疲れたっしょ」
17番さんの視線の先には、窓の外に見えるラブホテルの看板。
「5分喋るより一発やった方が絶対相性とかわかるよね~」
けらけらと笑う17番さんもといクソチャラ勘違い男と対照的に、私の表情筋はみるみる凍りついていく。やっぱり今日も、時間を無駄にしてしまったかもしれない。

疲れた顔の参加者も多い中、司会の女性は最初からずっと変わらないテンションで声を張り上げる。
「はい! 以上でこの場に来ている全員の方とお話していただきました。これより連絡先カードを回収し、集計出来た人からお渡しさせていただきます」
お見合いパーティーのスタッフが、参加者がそれぞれ書いた連絡先カードを回収しに回って来る。カードには自分の連絡先、連絡先を渡したい相手の番号が書かれている。このカードには枚数制限があって、3枚までに自分が選ばれなければ意中の人の連絡先を知ることは出来ない。
田中さんからカードもらえたら時間も無駄じゃなかったと思えるんだけど……。
「芽衣」
スタッフにカードを渡し終えて、手持ち無沙汰になった私に一緒に参加していた友人・結城沙織 ゆうきさおりことさおちゃんが話しかけてくる。
「どうだった?」
「……うーん、はは」
苦笑いをする私を見て、さおちゃんが笑う。
さおちゃんはなんとなく上機嫌に見える。良い人がいたのかもしれない。
「綿貫様、どうぞ」
スタッフがやってきて、私に封筒を渡す。この封筒の中に、私に連絡先を教えたいと思った人のカードが入っているのだ。いつもこの瞬間は少しだけ緊張する。
「ありがとうございます」
スタッフが去ったのを見計らって、そっと封筒を開く。恐る恐る中身を見るが、封筒の中はもぬけの殻。連絡先カードなんて1枚も入っていない。
「ですよね~」
ガクッと肩の力が抜ける。残念な気持ちが大半なのに、何処かでほっとしている自分がいるのがまた情けない。
「いいんですか!?」
突然隣から大きな声がする。見るとさおちゃんが席から立ち上がっていて、私が唯一良いと思った男性、田中さんがさおちゃんと照れくさそうに向き合っている。
「はい。結城さんが話していて一番楽しかったので……」
「ほんとですか!? 嬉しい! ありがとうございます!」
幸せそうなさおちゃんの笑顔。周りからは自然と拍手が起こっている。とても喜ばしい光景のはずなのに、私は拍手をしながらズキズキと胸が痛んでいて、自分の心の狭さに心底嫌気がさしていた。

人通りのまばらな商店街を、さおちゃんと2人、肩を組んで歩く。
「実質3択だったよね~今日の街コン。あんだけ人いてさ」
「3人もいた? 田中さん1択じゃなかった? 誰かさんと両想いになったけど~!」
「え~? やっぱそう思う~?」
「もう! す~ぐニヤニヤする! ほんと、終わってからずっとニヤけてるからね、今日!」
「そんなことないでしょ~」
「そんなことあるし!」
お見合いパーティーが終わった後、やけくそで流し込んだお酒はすぐに体中を回って、静かな商店街に、千鳥足の女2人の足音とやたらと大きな話し声が響く。
「皆さん聞いてください! この人が~!」
皆さんなんて言うほど周りに人はいないけれど、そんなもの見えちゃいない。私に比べたら少しは酔いがマシなさおちゃんが私の頭を撫でて宥める。
「まあまあそう拗ねんなって。ほら、もう一軒行こう!」
「行く~! 今日は飲む!」
「いいぞいいぞ! どこ行こうか」
「ん~なんか、バー的な……。あ、ここ良いじゃん!」
直感的に目に留まったのは、『Bar OLIFANT』と書かれた看板。看板に描かれている象のイラストが、なんとなく気に入ったからだ。
「いいね、じゃあここにしよう」
「決まり~!」
さおちゃんが代わりに店のドアを開けてくれる。呼び鈴のカランコロンと言う音が少し低めで、なんだか心地良い。
店の中に入るとお客さんは1人しかいなかった。照明は少し暗めで、店の雰囲気に合っている。棚にずらっと並んだお酒のボトルがキラキラと輝いて、その中で店のマスターと思われる男性がシェイカーを振っている。彼は出来上がったお酒を注ぎながら「いらっしゃい」とあまり愛想のない声で私たちを出迎えた。

第2話

第3話

第4話

第5話

第6話

第7話

第8話

第9話

第10話

第11話

第12話

第13話

第14話

第15話

第16話

第17話

第18話

第19話

第20話(最終話)

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?