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最後の恋になればいい 第17話


#創作大賞2024 #恋愛小説部門

* * *
式場に着くと、見知った顔が受付をしていた。結局、コートの下に青いドレスを着た私は、久しぶりに会う彼女たちに少し緊張しながら受付へと向かう。
「綿貫芽生です」
「はい、綿貫……って芽生!? やば! 超久しぶり!」
顔を上げた友人たちと目が合う。二人は大学時代にサークルが同じだった同級生だ。気軽に話す仲ではあったけれど卒業後も連絡を取り合うほどではない、そんな仲。
「久しぶり。元気だった?」
「元気元気! でもさあ、聞いてよ~!」
話に花が咲きそうだったところに、次の来場客が来て私の後ろで少し困ったようにこちらを見ている。
「あ、ごめん。また後で話そ」
手を振って、私は彼女たちと別れる。すると様子を伺っていたらしい他の女友達たちが輪になって寄って来て「久しぶり」と口々に声をかけてくれる。
懐かしい気持ちでテンションが上がっていると、その女友達のうちの一人が会場の出入り口を指さした。
「あれ原くんたちじゃない?」
その名前にドクンと心臓が大きく跳ねる。「ほんとだ~」とにこやかに手を振る女友達たちに混ざれないまま、じっと背を向けていると「おー。久しぶり」と、確かに卓也の声がして、本当に今から再会するのだとやっと実感する。
「芽生? どうかした? 原くんたちだよ~」
恐らく親切心で教えてくれる女友達たちに「う、うん」と返すけれど、ちゃんと笑えているのかわからない。「ほらほら」と促され、恐る恐る振り向くと、数名の男性たちの中に一人、28歳になった卓也がいた。私が振り向くと卓也は既に此方を見ていて、目が合う。あれだけざわざわしていた周りの声や音が突然聞こえなくなって、全部がスローモーションのように見える。私と卓也は何を言うでもなくただ無言で、会釈を交わした。

新郎と新婦が前に座り、微笑み合っている。それを微笑ましく見守りながらも、私は参列客のテーブルの上の空のお皿を見て、グウと小さく腹を鳴らせる。こんな時でも食い意地が張っている自分に心底呆れていると、司会の女性がマイク前に立つ。
「お待たせいたしました。ただいま食事の準備が整いました。お食事はビュッフェ形式となっております。皆さまどうぞお食事を楽しんでください」
その言葉を言い終わるのが先か、参列客たちは一斉に席を立ち、ビュッフェの列に並び始める。私も例に漏れず並ぶと、背後から肩を叩かれる。振り向くと、卓也がいた。
「よ。久しぶり」
「よ、よう。えっと、卒業ぶり」
「そんなぶりだっけ」
「そうだよ」
「あ、毎年メールするからか。久しぶりなのに久しぶりじゃない感じ」
「誕生日だけね」
『なんだそれ。七夕か』
ふいにマスターの声が脳裏を過る。思わず思い出し笑いをしてしまうと、卓也がきょとんとした顔で、こちらを見ていた。
「芽生? どうかした?」
「あ、ううん。なんでもない」
「そっか。あ……じゃあまた後で。あ、ドレスいいね。青似合ってる」
男友達に写真を撮ろうと呼ばれた卓也が列を抜けて去って行く。輪に戻る前に卓也は私の方を一度意味深に見て、手を振る。私はどういう反応をしていいのかわからないまま同じように手を振り返した。

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