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最後の恋になればいい 第19話


#創作大賞2024 #恋愛小説部門

* * *
やっと俺の番が回ってきて、ガソリンを入れ終えた店員が息を切らして走ってくる。
「4312円になります!」
元気よくそう言われ、俺は小銭を数えるのも面倒で財布に偶然あった五千円札に感謝して速攻で渡す。店員は笑顔で受け取ると走り去り、お釣りと箱ティッシュを持ってまた戻ってくる。
「こちらお釣りと、粗品になります。どうぞお気を付けて!」
「……どうも」
受け取ったティッシュの箱には象の写真が載っている。俺は一瞬あの動物園での光景がフラッシュバックしながら、エンジンをかけ直した。

* * *
二次会の会場に着くと、どうやら抽選会をしているようでドアの外にいても大盛り上がりの声が聞こえてくる。ちょうど私がドアを開けた頃、司会の男性が当選者を発表していて、どの席に座ればいいのか迷っている私を女友達たちが見つけ、手招きしてくれる。
「あ、芽生。こっちこっち!」
私は呼ばれたテーブルへ向かい、腰を下ろす。
「ごめんお待たせ~」
「ううん。これ、芽生の分のくじびき。残念ながらまだ当たってないけど」
「あ、ありがとう」
「コートは? 脱がないの?」
「あ……。うん、寒いから」
なんとなくそわそわして、私はコートを羽織ったまま抽選会の行く末を見守る。
「一等の箱根旅行ペアチケットは……なんと! 原くんで~す!」
「えっ!」
卓也の驚いた声が聞こえて、思わず私も卓也が座っている方のテーブルを見る。一等だからか会場中の皆の視線が卓也に集まっていて、卓也は照れくさそうに立ち上がる。
「それじゃあ原くん。一言コメントをどうぞ!」
「あ、えっと」
「ほらほら前出て、一等賞男!」
周りの友人たちに押されて、卓也が前に出てくる。司会にマイクを渡され、卓也は観念したように苦笑いして、口を開く。
「え~……。一緒に行く相手もいないのに当たっちゃいました~!」
恐らく場を盛り上げようとして言った卓也の言葉。私はその言葉で、本当に卓也は今フリーで、その上で私に連絡をしてきたんだと再確認する。
「あれ? ラブラブだった元カノそこにいますよ!」
一人が酔っぱらった声で私を指差す。今度は会場内の視線が私に集中して、私は突然のことで言葉に詰まってしまう。
「あ、俺二人が披露宴の時コソコソ話してんの見た!」
「何? 復縁~?」
「え、いや。えっと」
波紋のように、一人がそのことに触れるとどんどん周りに波及していく。
ど、どうしよう。こういう時ってどういう対応が正解?
何を言えばいいかわからない私を、しかし女友達たちもどう助ければいいのかわからないようで心配そうに見ている。
「違うから! まだ!」
フォローのつもりで言ったのだろう卓也の言葉の「まだ」と言う言葉に、私は敏感に反応してしまう。
「なんだよつまんねーなー」
「夢見させろよ~! こういう再会で復縁とかドラマっぽいだろ~!」
「いやいや、そう言われても」
私が「まだ」の意味にとらわれている間にその場は卓也がなんとなく収めてくれていた。卓也はからかいの声に軽く応じながらも景品を受け取り、自分の席に戻ろうとする。
しかしその途中、目が合ったかと思うと、卓也がこちらに近付いてくる。
ちょっと待って、心の準備が。
なんて言っている間にあっという間に卓也は私のすぐそばに来て、耳打ちをした。
「ごめん。あいつら酔ってて……」
「う、ううん。卓也が悪いわけじゃ、ないし……」
それだけなんとか返して、私は俯く。
「じゃ、また」と背中越しに聞こえた卓也の声に反応出来ないまま、ときめきなのか戸惑いなのか、原因ははっきりしないまま、ただ心臓だけが跳ねていた。

* * *
天気予報を見ての今のうちに移動しとこうと判断した人が多いのか、高速道路にはいつもよりも車が多い。それでもなんとか進んでいたけれど目的地まであともう少しというところで車は完全に停止する。渋滞だ。
「くそ」
思わず出かけた舌打ちをこらえて、俺は窓の外の雪を見た。

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