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まちとの絆-短絡的総量縮減・オママゴトからの決別-

なぜこのテーマ?

自治体等FM連絡会議

2024年8月に富山市で開催される自治体等FM連絡会議で発表することとなった。

この会議は2010年から毎年、2回/年の頻度で開催されており、全国から公共施設マネジメントの担当者が集まる。当時は公務員で公共施設マネジメントに取り組み始めたばかりであったが、第1回から公務員を辞めるまでは毎回必ず参加していた(この間に代表幹事も務めていたこともある)。基本的に自治体の担当者しか参加できないことから、公務員を辞めて以降は今回のような形で「呼ばれたとき」のみ参加させていただいている。

そして、今回のテーマが「都市経営の視点から見た公共空間の可能性」というかなり難しいものなので、自分の発表タイトル「まちとの絆-短絡的総量縮減・オママゴトからの決別-」に合わせて整理(+noteを読んでいただいている方へのネタバレ)するためにまとめておく。

当たり前のことだけど未だに

公共施設マネジメントやPPP/PFIが自治体にとって重要なテーマになってかなりの時間が経過している。総務省が2014年に全ての自治体に対して公共施設等総合管理計画の策定要請を出したり、内閣府・総務省連名で2015年に200千人以上の自治体を対象(現在は100千人以上に拡大)にPPP/PFIの優先的検討規程の策定要請をしているが、そのまちの経営のためにどのような公共資産を持ち、活用していくのかは(法定受託事務ではなく)自治事務である。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000286228.pdf

自治事務なので、それぞれの自治体が自主的にかつクリエイティブに公共資産を利活用していくことが必要であり、そのこと自体は至って当たり前のことであるが、残念ながら全国的には未だに「誰か・何か」に依存して「自分たち」で考えて覚悟・決断・行動をしていない自治体が多いように思う。

何のためにやってるのか?

いろんな自治体の担当者の話を聞いたり、実際に業務として様々なプロジェクトや計画に携わったりするなかで、「何のためにやっているのか?」が明確になっていない人・まちに会うことが多い。

短絡的総量縮減

公共施設等総合管理計画では、ほぼ全ての自治体で(総務省の策定要請の影響やさいたま市のハコモノ3原則がフューチャーされていたこともあるが)「30年で30%の施設総量縮減」といった施設総量の縮減が目標として掲げられている。

以前から様々なところで主張しているように、本来はカネの問題から始まったはずの問題を旧来型行財政改革の思考回路・行動原理で短絡的に「公共施設やインフラは負債」なので減らせば良いとしてしまっているところに根本的な問題が存在している。
そして、公共施設の総量縮減を目標に掲げながらも、現実的にはさいたま市に代表されるように、この数年間で施設面積が増加している自治体が非常に多い。横手市のように施設面積をかなり削減している自治体も一部では存在しているが、面積を減らしてもそれ以上に人口減少・流出やまちなかの衰退のスピードのほうが圧倒的に早く、根本的な解決には全く繋がっていない。
こうした現実は、総務省が公共施設等総合管理計画の見直しにおいて、「施設保有量の推移」を明示するようになったことから、定量的に把握しようと思えば全国の状況も把握できるはずだ。(行政財産⇒普通財産にした時点で実際の施設保有量は全く変わらないのだが「管理対象面積から除外≒施設面積を削減」したことにしてしまっている自治体もあるので、総務省が本気で「施設面積の削減」を志しているのであれば、こういった部分も含めて全国のレビューをするべきだろう。)

オママゴト

総量縮減一辺倒のザ・公共施設マネジメントが思うように進まないと感じたり、利用者を中心とした市民・議会への説明で炎上したり(それすら避けたり)しても、何か「やっている感」は見せる必要がある。
コンサルに高額な業務委託費を払って計画づくりの無限ループに自ら陥ったり、市民を集めて公共施設マネジメントのボードゲームを実施したり、高校生・大学生といった若いリソースを無駄遣いした啓発マンガを作成したり、有識者委員会を組織して空中戦を繰り広げたりしていく。
これらに共通することは、どれだけやっていても全く「三次元のリアルなまち」は動かないことであり、これらはすべて貴重な税金を使ったオママゴトでしかない。

これだけでもかなりタチが悪いが、もっと悲惨なのは他自治体の先行事例を短絡的に劣化コピーして「ハコモノを整備すればまちが活性化する」と、完全にまちのヒューマンスケール/エリアスケールから逸脱したハコモノを整備し墓標化することである。
コンサルに丸投げ委託して可能性調査・アドバイザリー業務を行なって、形式的・アリバイづくりの事業手法比較法とVFMを算出してPFI法に基づくPFI(サービス購入型)整備したから民間活力を導入した、うちのまちはPPP/PFIに積極的に取り組んでいると表面的に取り繕うのも、結果的にまちにとって良いことはないのでオママゴトの一環でしかない。

まちとの絆

まちとして捉える

「短絡的な総量縮減・オママゴト」は行政運営(≠自治体経営)の視点で自分たちが管理するハコモノだけを点としてみていることが共通項であり、まちとリンクしていない。
エリアの価値、それぞれのまちの歴史・文化・風土や地域コンテンツ・地域プレーヤーなどは検討するレイヤーにすら入っておらず、都市経営の視点で捉えていないところがリアリティの無さにもつながっている。このことは、多くの自治体で公共施設等総合管理計画、各種PPP/PFIプロジェクトに関わる部署が都市整備・都市計画の部門とすら連携していないことからも明らかである。都市経営という側面できちんと捉えれば、宮崎市等で実施しているように検討体制も自ずと庁内横断的なものになるはずである。

宮崎市_公民連携推進会議

公共施設・インフラは市民生活を支えたり豊かにするための「物理的な要素」として整備した公共資産であり、決して負債ではない。これらの公共資産を「まちとして捉える」ことができれば、「そこにそれ」がなぜ必要なのか説明がつくはずである。同時にまちは常に現在進行形で動いているので、公共資産もまちとあわせて柔軟に新陳代謝していくことが求められるはずだ。こうした視点で考えれば、「公共施設を廃止」することは、決して100%のネガティブな選択肢ではないこと、まちの新陳代謝を促すために必要な行為であることも見えてくる。

誤魔化さない

計画づくりの無限ループをやっているうちは、二次元の世界に閉じこもっているので何も痛みを伴うことはない。行政運営という狭い世界で見れば対外的にも「総務省の方針に基づき計画の策定に取り組んでいます」と言えるだろう。しかし、「まち」という単位で見た場合には、ほぼ全ての市民にとって計画づくりは何の意味を持つこともない。

「考えている」ほど無駄な時間はない。二次元から三次元に置換していくことが何より求められていることはわかっているはずだ。
誤魔化すとは計画づくりだけでなく、三次元の世界で「コンサルに丸投げ」して(本当は手法も裏で決まっているのに)アリバイづくりのための無意味な事業手法比較表・VFMの算出を行い、補助金・交付金や起債に依存してヒューマンスケール/エリアスケールから乖離したハコモノ整備を行ったり、点としてだけの集約・複合化プロジェクトをすることも含まれる。
先行事例の劣化コピーでまちが良くなるわけがない。

試行錯誤

上記のnoteに記したように、どんなに小さなことでも良いからまずは自分たちでまちに出て「本質的な課題やポテンシャル」を直視し、そこから浮かび上がってくるプロジェクトをやってみることが大事である。

そして、やってみれば色んなところでコケる。思ってもいないところでコケることももちろんあるし、その多くは非合理的なものであろう。
本当に悩んだり苦しむのはこうしたところであるべきだ。(別途、もう少し情報が明らかになってきたらnoteにも記そうと思うが、大東市においてmorinekiの第二期プロジェクトが議会で否決されたらしい。)

自分たちでやる

自分たちでやることで「経験知」が蓄積されてくる。
安易に国・コンサル・学識経験者等に依存せず、先行自治体の劣化コピーにも走らず、自分たちなりに試行錯誤することで「どうやったら自分のまちでプロジェクトを具現化していけるか」がはじめて見えてくるし、その形は他自治体と同一であるはずもないし、その自治体内でもその瞬間のものであり、プロジェクト(・時間軸・政治的な風向き等)によって変わってくるはずだ。

自分たちらしい・そのまちならでは

ビジョンとコンテンツ

こうして考えてみると、改めて重要なことはビジョンとコンテンツである。
「何をしたいのか≒ビジョン」とビジョンを実現するために「誰が・何を・どういう頻度で・どういう収支でやっていくか≒コンテンツ」を精査し、そこに物理的・政治的・財政的・時間的などの様々な与条件をセットアップしていく。
こうしてやっていけば、事業手法は自然とどこかに収斂していくしVFMも算定する必要はなくなってくる。

段階的にやる

このようなビジョン・コンテンツを自分たちで考えていけば、自ずとプロジェクトの規模は「自分たちでマネジメントできる範囲≒ヒューマンスケール/エリアスケール」に合致したものになってくる。

藤沢市の市民会館改築のプロジェクト(OUR Project)はまさにこうしたプロセスを経て進行しているので、ハコモノの面積などから入ることなく、自分たちなりの「場」の整理を丁寧に組み上げている。

誰とやるか

PPP/PFIだけでなく、あらゆることは「誰とやるのか」で結果は大きく左右される。だからこそ、「誰とやるのか」を慎重に見極めなければならないし、スキル・熱量等の高い意中の誰かと確実に組むためには、自分たちも対等・信頼に足るだけのリソースを準備しなければならない。もちろん覚悟・決断・行動も求められる。

まちとしての総力戦が求められている現在、随意契約ガーなどといまだにいっている自治体は置いていかれるだけであるし、提案インセンティブ付与型のような形で行政が民間のノウハウをただ取りして「官の決定権問題」を生じさせているようでは対等・信頼の関係を構築することなどできない。

南城市では基本構想から事業化まで「民間事業者に委ねる」モデルも2件実施している。これはネオ提案制度とも言えるだろうし、今後はこの「正しく委ねる」プロジェクトも広まっていくだろう。

「まちとの絆」とは、「まちとしての総力戦」と読み替えることもできるだろうし、その前提として短絡的総量縮減・オママゴトからの決別が求められる。

お知らせ

2024年度PPP入門講座

2024年4月22日からスタートした全6回(60分×3コマ×6回)の入門講座。色々とトラブルでご迷惑もおかけしましたが、無事に2024年6月28日に終了しました。ご参加いただいた約460名の皆さま、共催いただいた日本管財株式会社様、協賛いただいた伊藤忠商事株式会社様、九州電力株式会社様、後援いただいた特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会様にはこの場を借りて改めて感謝申し上げます。

今後、来年度に予定する次期入門講座までの間、アーカイブ配信をしています。お申し込みいただいた方にはYouTubeのアドレスをご案内しますので、今からでもお申し込み可能です。

実践!PPP/PFIを成功させる本

2023年11月17日に2冊目の単著「実践!PPP/PFIを成功させる本」が出版されました。「実践に特化した内容・コラム形式・読み切れるボリューム」の書籍となっています。ぜひご購入ください。

PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本

2021年に発売した初の単著。2024年5月現在6刷となっており、多くの方に読んでいただいています。「実践!PPP/PFIを成功させる本」と合わせて読んでいただくとより理解が深まります。

まちみらい案内

まちみらいでは現場重視・実践至上主義を掲げ自治体の公共施設マネジメント、PPP/PFI、自治体経営、まちづくりのサポートや民間事業者のプロジェクト構築支援などを行っています。
現在、2024年度業務の見積依頼受付中です。

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