マツダシュウサク

マーケティング誌の編集者→広告業界→人財・組織コンサルタントという転職遍歴。組織づくり…

マツダシュウサク

マーケティング誌の編集者→広告業界→人財・組織コンサルタントという転職遍歴。組織づくりやコミュニケーションに関する記事、組織にまつわる問いを歴史から読み解く記事を連載中。

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  • 歴史から読み解く組織とリーダシップ

    歴史好きな組織コンサルタントによる記事。組織やリーダーシップにまつわるさまざまな問いを歴史から読み解いてみようという試みです。組織のマネジメントに興味がある方にお勧め。

最近の記事

モンゴルの世界ー①チンギス・カンのつくった組織

人類史上最大の版図を誇ったのは、19世紀半ばから20世紀初頭の大英帝国である。産業革命によって加速した資本主義と、列強間競争による植民地政策の加熱があわさって、その勢力を急膨張させた。 第二位が、13世紀から14世紀のモンゴル帝国。地続きの領土としては史上最大で、東は満州を含めた中国全域、西はキエフを越えてポーランドのあたりまで、その勢力圏は、ユーラシア大陸のほぼ全域を覆った。地球上の陸地の17%を支配し、領域に含まれる人口は1億人を越えていたと言われる。 この時期、なぜ

    • ユーラシア史―②壁の向こうの世界

      壁の向こうにいる敵 漫画『進撃の巨人』は、壁に囲まれた世界から物語が始まる。100年以上も破られていなかった壁が、ある日突然巨人によって突破される。物語が進むにつれて、巨人の謎、壁の秘密、壁の外の世界が徐々に明らかになっていく。そして、物語も終盤に差し掛かった頃、いきなり語り手の視点が壁の外側へと移る。あまりの切り替わりの唐突さに、別の作品かと錯覚してしまうほどだ。そこには、壁の中とは異なる歴史観を持つ人々がくらしていた。壁の中に住む自分たちのことを、まったく異なる文脈で捉

      • ユーラシア史ー①大陸の中央から世界を見る

        「虫の眼・清張」と「鳥の眼・司馬」 これは、作家の半藤一利氏が編集者時代に接した昭和の二大巨匠、松本清張と司馬遼太郎を評価した言葉だ。松本清張は、人々の暮らしや内面を徹底的に観察し、同時代に生きた人の目から歴史を物語る。一方の司馬遼太郎は、歴史を俯瞰して掴み、大きな流れで物語を描いていく。 組織のリーダーには、この両目を自在に使い分けることが必要だと言われている。市井や現場に寄り添い、肌で感じ取る「虫の眼」。世界や時代を俯瞰し、今を位置付ける「鳥の眼」。寄り引き自在の目

        • ハンニバル戦記-②戦略を実行する

          前回記事でハンニバルが立てた戦略を紹介した。ただし、戦略は実行されなければ机上の空論に過ぎない。以下のステップに沿って、どのようにこの戦略が実行されていったのかを見ていこう。 <ハンニバルのイタリア侵攻戦略> STEP.1:アルプスを越えて、北部イタリアに電撃的に進軍する。 STEP.2:北部イタリアにてローマ軍との初戦に勝利し、ガリア人勢力を味方につける。 STEP.3:中部イタリアにてローマ主力軍を撃破し、ローマ連合軍の動揺を誘う。 STEP.4:南部イタリアにてローマ

        モンゴルの世界ー①チンギス・カンのつくった組織

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        • 歴史から読み解く組織とリーダシップ
          16本

        記事

          ハンニバル戦記-①戦略とは何か

          戦略とは何か 仕事柄、多くの企業の大小さまざまな戦略づくりと呼ばれるものに携わってきた。10年以上先を見据えた長期の経営戦略もあれば、ある特定商品のマーケティング戦略を考えるケース、SNSを活用したコミュニケーション戦略のような特定の手法に絞ったものもあった。 さまざまな場面で飛び交う「戦略」という言葉だが、人によって捉え方がぶれることも多い。例えば、「プレミアムペットフード市場でシェアNo.1を目指す」というのは戦略だろうか。そのために「ターゲット認知率00%」とか「一

          ハンニバル戦記-①戦略とは何か

          ビジネスパーソンが歴史を学ぶ意味

          今回は、特定のテーマを取り上げるのではなく、ビジネスパーソンにとって歴史を学ぶ意味を考えてみたい。 20年以上も前になるが、就職活動を行っていた時、大学で古代ギリシア史を専攻していた私は、面接官から「歴史を学ぶことは、どう仕事につながりますか」という質問を受けた。何と答えたかは記憶にないが、いつもうまく答えられなかったことは覚えている。 その後、歴史とは直接関係ない職業に就き(歴史を直接活かせる職業は、かなり限られていると思うが)、以降も趣味で本を読む程度に歴史に触れあっ

          ビジネスパーソンが歴史を学ぶ意味

          戦争技術と組織の発展-②最強マケドニア軍とアレクサンドロス大王

          古代最強のマケドニア軍 オリエント世界とギリシア世界、それぞれにおいて発展した戦争技術を統合し、最強の軍隊を完成させたのがマケドニアだ。ペルシアから騎兵や散兵、軽装歩兵の使い方を吸収し、ギリシアからは重装歩兵戦術を学んだ。 それぞれの戦術が発展した起源は、前記事を参照していただきたい。 最高のコンディションで歴代各国の軍がぶつかった場合、アレクサンドロス大王率いるマケドニア軍は、後の時代を含めどこよりも強かったであろうと言われている。おそらく、これより300年後に地中海

          戦争技術と組織の発展-②最強マケドニア軍とアレクサンドロス大王

          戦争技術と組織の発展-①組織的戦争の起源から総合戦の完成まで

          ホモサピエンスが他の動物、また他の人類に勝ったのは、大人数を組織的に動かすことができたからだ。それはアリやハチのように、一定のアルゴリズムで働く組織行動ではなく、目的を自分で定め、そこに対して集団を機能的に動かすシステムを作り出す能力のことを指す。 ネアンデルタール人は、私たちより脳の容積も大きかったし、身体も頑丈だったが、せいぜい家族単位での集団行動しか取らなかったらしい。対して、ホモサピエンスは数百、数千、数万の集団を形成するに至った。 やがて人間にとっての最大の脅威

          戦争技術と組織の発展-①組織的戦争の起源から総合戦の完成まで

          秦漢帝国-③統一国家のグランデザイン

          中華初の統一王朝となった秦は、わずか15年であえなく崩壊。このまま分裂状態に戻れば、統一国家としての中国は生まれず、ヨーロッパと同様に複数の国家がひしめく地域になっていたかもしれない。しかし、続く漢王朝によって、中華世界における統一国家のグランドデザインが完成する。 このNOTEは、歴史のスペクタクルを記述するより、歴史を通して組織論を考察するのが趣旨なので、秦朝崩壊後の項羽と劉邦によるドラマチックな覇権争いをバッサリカットし、漢による新国家づくりを見ていこう。 郡国制に

          秦漢帝国-③統一国家のグランデザイン

          秦漢帝国-②統一国家の誕生

          中国はなぜ一つなのか よくよく考えると不思議だ。これほど長期に渡り何度も統一され続けた国は他にない。世界史において、これは極めて例外的なことだ。 領土は広大で、とんでもなく大勢の人が暮らしている。言語、民族、文化は多様であり、気候条件、地理条件も場所によってバラバラ。ヨーロッパのように複数の国が併存している状態でもおかしくない。というより、その方がむしろ自然だ。なぜなら、元々分裂状態だったのだから。バラバラだったものが、なぜ統一を繰り返すようになったのか。 一つには、北

          秦漢帝国-②統一国家の誕生

          秦漢帝国-①性善説と性悪説から始まる組織統治の源流

          人間をどう捉えるか 組織のマネジメントを考えることは、人間をどう捉えるかと同義だ。言い換えれば、人間のどこに光を当てるか。それによって、組織を支える思想が決まる。 組織マネジメントの文脈でよく出てくるのが、性善説と性悪説というキーワード。人間を性悪説で捉え、サボらないように、悪いことしないように、管理・監督しようとするか。人間を性善説で捉え、モチベーションを上げて、自由に任せて、チャレンジさせようとするか。どちらを指向するかによって、権限の持たせ方、目標管理の仕組み、人財

          秦漢帝国-①性善説と性悪説から始まる組織統治の源流

          ローマ帝国-③帝国を繋いでいたもの

          帝国が滅びた日 500年続いた帝国が滅びた日とは、どんな1日だったのだろう。 イメージしやすいのは、外敵の侵攻によって滅びる絵図だ。侵略者によって国土が蹂躙される。これまでの支配者が一掃され、新たな支配者がそこに居座る。住民はそれに従い奴隷になるか、あるいは国外に逃げるか、さもなくば殺されるか。統治機構は破壊され、法は有効性を失い、新たな秩序が築かれるまで混迷の時代に突入する。 教科書で習ったゲルマン人の大移動は、そんな光景がドミノ倒しで起きたイメージではないだろうか。

          ローマ帝国-③帝国を繋いでいたもの

          ローマ帝国-②継承されるリーダー

          トップの継承問題で悩みを抱える企業は多い。特に創業から急成長した企業は、軒並み後継者への引継ぎがうまくいっていない。孫正義、柳井正、永守重信といったカリスマ型リーダーの後継は、なかなか見つかりそうもない。 一方、うまくいった例もある。マイクロソフトは、ビル・ゲイツからスティーブ・バルマーを経て、サティア・ナデラがリーダーを継承した。クラウドシフトに成功し、一時アップルを抜き、時価総額ナンバー1に返り咲いた。 アップルのティム・クックも継承の成功と言えるだろう。確かにスティ

          ローマ帝国-②継承されるリーダー

          ローマ帝国-①共和政から帝政へ

          今回から三回にわたり、古代ローマについて考察してみたい。ローマは歴史が長いので様々な考察ポイントがあるのだが、第一回は、共和政から帝政への移行期に触れ、どのような流れで帝国が築かれたのか。第二回は、五賢帝を中心に、ローマ帝国を率いた皇帝とは何者で、それはどのように継承されたか。第三回は、ローマ帝国の衰亡を見ることで、帝国を繋ぎとめていたものは何だったのかを考えてみようと思う。 組織が持つ慣性の法則 組織には、常に分裂しようとする慣性が働く。全体最適の視点を失い、小組織に分

          ローマ帝国-①共和政から帝政へ

          アテネとスパルタ-変化を生む組織と勝ち続ける組織

          組織のリーダーに問う。 あなたは、「創造を生み出す組織」をつくりたいですか。それとも、「勝ち続ける組織」をつくりたいですか。 もちろん両立が望ましいだろう。というより、イノベーションが勝敗のカギを握る昨今、変化に対応し続け、新しいことを生み出した組織こそが、勝てる組織になるのではないか、という声が聞こえてきそうだ。 ただ、初めにどちらを指向するかによって、組織づくりのアプローチが大きく異なる側面もある。その違いを、古代ギリシアを代表するポリス、アテネとスパルタから考えてみ

          アテネとスパルタ-変化を生む組織と勝ち続ける組織

          古代ギリシアから見た、個と全体の調和

          巨大化した組織の悩み 大企業から来る人財・組織面の相談事は、たいていこんな感じだ。 「わが社の社員は、言われたことはしっかりやるのだが、自分から考えて動こうとしない。」 「自部門の利益ばかり考えて、全体の目的を考えて連携しようとしない。」 経営者は常に、社員が全体の目的を「自分ゴト」として捉えて、自ら動くことを期待している。ところが、組織が大きくなり成熟すればするほど、この「自分ゴト」感は薄まっていく。大企業病の根っこは大概これだ。個が自分らしさを発揮しながら、全体のため

          古代ギリシアから見た、個と全体の調和