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唐仁原昌子
2024年8月25日 21:05
一日の終わり。 眠る前に、壁にかけたカレンダーにペンでバツ印を書き込む。 この夏休みが始まってから毎日、今までしたことのない何かをしてみようと思い立って、気まぐれに始めた習慣だ。 一日一日、着実に休みが過ぎていく様子が目に見える。 うまく説明はできないけれど、「今日」という日の終わりを自分で決められるような感覚がしてなかなか良い。 誰かに決められて終わるわけでも、時間に追われて気
2024年8月18日 21:18
──ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。 広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗の剥はげた、大きな円柱に、蟋蟀が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。──「俺、今なら羅生門に出てくる下人の気持ちがわかる気がする
2024年8月11日 22:18
太陽が窓ガラス越しに、ジリジリと机上を焼く窓辺から、ひたすらに暑そうな外をぼんやり眺める。 暑すぎると、蝉の声もしなくなるんだななんて、どうでもいいことを考える。「駅まで歩くのだるいなあ」 まるで自分が呟いたのかと思うくらい、ぴったりのタイミングで隣にいた田辺が言う。 それ、わかる。 だよねー暑いしなー。 他愛のない、そして深い意味もないやり取り。 そのまま、ふうと小さなた
2024年8月3日 21:23
どこかからピアノの音が聞こえてくる。 同じアパートの人だろうか、何となく懐かしい気持ちになる。 聞いたことのある曲だけれど、何という曲だっただろう。作曲者もタイトルも、全然思い出せないな。 そもそもどこで聞いたんだっけ。 そんなことを思いながら、俺はごろりと寝返りを打つ。 窓際のベッドから、部屋の全てを見渡せるワンルーム。誰にも邪魔されることのない、俺だけの空間。 壁一枚隔てた