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唐仁原昌子
2024年1月28日 22:00
いつからここにいたのか、それも定かではない。 気がついたら俺は「ここ」にいて、「ここ」で生きていた。 朝、行き来する車の音で目が覚める。 アレがなかなか危険なものだということを知ったのは、数年前に仲間がぶつかって二度と動かなくなったのを見たときだろうか。 どうせ今起き出しても、半端ものの俺がありつける食べ物はない。 一度だけ、ぐっと前脚を伸ばしてからまた丸くなる。 ブランコと人間
2024年1月21日 23:03
その日、家の近くの公園まで帰ってきた頃には、二十三時を過ぎていた。 昼間の賑やかさを忘れたかのように、しんと静まり返った夜の公園。 大通りからは一本ずれた道にあるため、車もそんなに通らないし、時間も時間なので人通りもほぼない。 普段は猫の多い公園なのだが、もうその姿も一匹として見当たらない。 ぼんやり歩く道すがら、思わず公園の中を見たのは、キイキイと規則的な懐かしい音が聞こえたからだ
2024年1月14日 21:58
「目を閉じると、星の落ちる音が聞こえるよ」 その人はそう言って、静かに目を閉じて見せた。 優しい声は静かに闇に溶け、よく手入れされているらしい長い髪が夜風に舞う。 すらりと高い背丈に、神様が丁寧に作ったような絶妙なバランスに伸びたその四肢は、まるで陶器のように滑らかで白い。 私がその森の中で出会った人は、そういう人だった。 木が生い茂り、月明かりもあまり届かないような仄暗い森の中で
2024年1月7日 22:23
放課後の教室。 すっかり夕暮れが通り抜けていった後、じわじわと夜が染みてくるようなそんな時間。 みんなもう帰って、ぽつんと残っている自分と、がらんとした教室の空気。それだけで満たされた空間。 ここにあるのは、ただそれだけ。 自分の席に座って、ぐるりと全体を見渡す。 机の数は、全部で三十六。 いまの私の世界の大部分を構築している、その数字を頭の中でなぞりながら、日々それぞれの机