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唐仁原昌子
2023年12月31日 16:57
その塔には、たくさんの燭台がある。 全てを数えたわけではないが、うさぎが聞いた話によると三百六十五本の蝋燭が立てられるらしい。 毎年、その年を担当するものが、一日一本蝋燭の灯を見守って過ごす。 うさぎは今年、その役目を担っていたのでここまで毎日、その仕事をしてきた。 三百六十四日も同じことを繰り返していると、さすがに慣れたものだ。 最後の一本を見守りながら、ここまでのことを静かに
2023年12月24日 23:43
「なあ」 金曜の終礼前、隣の席の冬田に急に声をかけられた。 冬田は大人しいというより、無口という印象が強い。 親しい人とはよく話しているが、それ以外の人間にはまるで興味がないと言わんばかりのポーカーフェイスで、隣の席になって一週間以上経つのに会話はほぼゼロだ。 そんな相手にいきなり話しかけられたものだから、私ははじめ、自分に向けられた「なあ」だとは思わなかった。 しかし、彼は明ら
2023年12月17日 22:19
その森には、青い小鳥がたくさん集まる木々があった。 青い羽を持つ小さな命たちが、群れをなして生き、日々楽しそうに綺麗な声で鳴いている。 そんな中、ポツンと一羽だけ橙色が鳥がいた。 生まれたときから、彼女の羽根の色は周りと違った。「何でお前は、そんなに目立つ色なんだろう」 彼女の母は、困った顔でそう言いながらいつも首を傾げていた。 望んでその色に生まれたわけではない彼女は、そう言
2023年12月10日 22:13
「うざかったなあ」 ケンゴは不意にそう呟いた。 寒い冬の夕暮れ、隣を歩く俺に聞こえるか聞こえないかくらいのその声は、普段のケンゴでは考えられないほど小さかった。「…うん」 一瞬、聞こえないふりをするべきか迷ったけれど、無視をする気にはなれなくて僕は曖昧な相槌を打つ。「俺がもっと嫌なやつだったら、全員ぶん殴ってやったのにな」「…うん」「一人残らず、全員を」 ぐっと握ったケン
2023年12月3日 22:18
この世界に、音楽があってよかった。 私はそう思いながら、イヤホンを耳に持っていく。 ことの発端は、私が大学へ向かう途中に、バス停で見知らぬおばあさんを助けたことだったらしい。 バスに乗ろうとした際、目の前にいるおばあさんが入り口のステップを上るのを大変そうにしていた。荷物が大きかったせいもあるだろう。 真後ろにいた私は、何も難しいことは考えずに「荷物、持ちましょうか」と問うた。そん