丘の上

二人はルナの家の後ろにある大きな緑の丘の頂上にいた。
この丘は非常に大きく、そしてここからの景色は島の西側のビーチとその一帯の家々の並びを一望できるのだ。
二人はしばらく頂上でのんびりとその景色を見ていた。ビーチの上空にはかもめが何羽も鳴き声を上げて飛んでいる。
気付けば、フィスィが近くまで来ていた。

「なぁぁぁ」

「あれ?フィスィ珍しい…………ここまで上がってくるなんて」

「この木、俺好きなんだよなあ」
リンはそう言うと、二人がいる場所のすぐ後ろに生えている大きな木を見上げていた。
ルナ座ったまま、後ろを振り返って木を見た。その木はとても太い幹をしていた。
幹からいくつもの長い枝が生えていて、どの枝も一番高いところまで伸びるとそれ以上、伸びない。
なので、ちょうど大きな傘のようにその木は日陰を作っていた。
フィスィは丘の上の緑の草の絨毯に丸まってのんびりとしだした。
リンが木の隣にある大きな青っぽい岩に手を当てた。かなり大きな岩だった。岩の調子を調べるためにリンはしばらくその岩に手を当てたまま集中していた。

「それ、かなり大きくない?」

「うん…………かなりな…………この下まで結構深くある」

「そこまでわかるんだ」

「うん」

二人の体に西からの風がふわりと通り抜ける。
ルナとリンの髪が風で靡いている。今日も海から来る風は心地いい。後ろのフィスィは岩を触っているリンをぼんやりと眺めていた。

「動かせそ?」

「うん…………もうイケる」
リンはそう言うと、岩から少し離れて、触れていた右手を離すと、そのまま手をかざしたまま、意識を前にある岩に集中させた。
リンの身体にふわりと白い蒸気が立ち昇る。正確にいうと、これは蒸気というよりはエネルギーのようなものが具現化したものだった。
後ろで見ていたフィスィが目を丸くしてその様子を見ていた。
岩にかざしているリンの右手にやがてどんどん蒸気のようなエネルギーの流れが集中していく。
それと同時に前方にある岩の周りが少し緑色に発光した。緑色に発光し出した岩の周囲に微細ではあるが高い金属音のような音が鳴り響く出す。

キィィィィィィイン。

よく耳をすまさないと聞こえない音だ。
後ろのルナには強烈に聞こえているらしい。
あまりの音に頭が痛くなりそうになったので後ろのルナは両手の指を左右の耳にそれぞれ入れて耳をふさぎだした。
やがて金属音が岩の周囲に集まるようにして、その音が拡大していくと、岩が少しずつ揺れ出していく。
揺れ出した岩は、その揺れを徐々に強めていく。次第には岩自体がブルブルと振動するように小刻みに震え出した。
それは、とても速い振動となり、やがて、速すぎてその振動の動き自体が肉眼ではなかなか見れないほどに速くなった。
そこまで来ると、岩が徐々に地面から浮かび上がった。岩は細かい振動を始めた頃から、地面との接着していた部分からは、とうに離れていたらしく、意外にもふわりとその場で浮かび上がった。
岩はちょうど1mぐらいの高さまで空中に浮かび上がると、やがてリンがかざしていた右手を少し左にズラしたので、その位置が左へと移動した。
地面に入り込んでいた面積が深く、岩全体のおよそ半分ほどの部分が中に入っていた。よく見ると岩は円形だったので、勢いよく地面に落とすと、ゴロゴロと丘の上を転がっていくので危険だ。
リンは転がらないように、岩を地面に下ろす時もなるべくゆっくりと動かした。いつもより時間がかかった。

「はぁ…………」
リンは深い息を吐いて、右手を下ろした。
いつもより集中する時間が長かったためか、リンの目はどこかぼーっとしていた。
ともかく岩は綺麗にすっぽりと地面から抜け、そしてその左隣の地面に無事設置されたのだった。

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