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ありふれたもん

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見過ごしていた ありふれたこと について書いてみます。
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#エッセイ

キンモクセイの匂いに誘われて

キンモクセイの匂いに誘われて

ある秋の朝、自転車に乗って家を出た。

特に当てもなく、近所の小川沿いの遊歩道を、ただ川上の方へ走っていく。
空はよく晴れ、空気は澄んで、すがすがしい。

ふと、子どものころ、よくサイクリングしたことを思い出した。
あのとき、何の目的もなく、ただひたすら道を進んでいくのが楽しかったな。

遊歩道を走っていると、ときどき、キンモクセイの匂いがする。

やがて遊歩道の終点につくと、そこからはキンモクセ

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遠出の帰り道

遠出の帰り道

 ここのところ、長い時間、歩くようになった。
 それほど速くはないため、長距離というわけではないが、10時間くらい歩くのも珍しくなくなった。

 長時間、歩くにしても、特に決まった準備体操はしない。
 身体が自然と欲する動きがあればするが、そうでなければ、そのまま歩き始める。

「身体に起こることは何事にも意味がある」というのが、僕の信条だからだ。

~ * ~ * ~ * ~

 その日、朝、家

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おとうさんが よくする まちがい

おとうさんが よくする まちがい

 まだ勤めていたころ、仕事がとても忙しく、毎日終電帰り。終電にさえ間に合わず、タクシーで帰ることもよくあった。
 平日は、朝の出勤時に、子どもたちに見送られる以外、子どもたちと接することもなかった。

 だから、休日は、はりきって子どもたちを連れて出掛けることが多かった。
 東京の西郊から、わざわざ都心にまで出て、上野の博物館や動物園などにも行ったりした。
 混みあっている展示をできるだけスムーズ

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天体測定実習

天体測定実習

数か月、誰とも会わず、家に引きこもっていたどん底のある日、ふと思い出した、学生時代の必修科目にまつわる笑い話

実習の思い出北国、杜の都、街から離れた山の上。

真冬の、よく晴れた、月のない晩。
空気は澄み切って、風もなく、
星も凍りついたように夜空にじっとしている。

山の上には、大学の古いキャンパス。
その中でも一番高いところにある、8階建ての古びた建物。
その屋上に、丸いボール型の屋根のつい

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トイレ掃除でハッとするとき

トイレ掃除でハッとするとき

僕は、毎日、うちのトイレを掃除している。
その間にハッと息を呑む瞬間がある。

* ~ * ~ * ~ * ~ *

うちのトイレ
うちのトイレは、洋式トイレ。

築40年以上の家のトイレなので、
ウォシュレットじゃないけど、
本体は、象牙色の、角が滑らかな陶器、
表面は今もみずみずしくツルツルしている。

便座とフタは同じ色のプラスチックで、
フタの凸状の表面には柔らかい光沢がある。

一畳弱

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