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トイレ掃除でハッとするとき

僕は、毎日、うちのトイレを掃除している。
その間にハッと息を呑む瞬間がある。

* ~ * ~ * ~ * ~ *

うちのトイレ

うちのトイレは、洋式トイレ。

築40年以上の家のトイレなので、
ウォシュレットじゃないけど、
本体は、象牙色の、角が滑らかな陶器、
表面は今もみずみずしくツルツルしている。

便座とフタは同じ色のプラスチックで、
フタの凸状の表面には柔らかい光沢がある。

一畳弱のスペースにあり、
それほど高くない天井には、
便座の真上の位置に電球がある。

何の変哲もない、普通のトイレだ。

影について

すでに書いたように、トイレの灯りは電球。

点光源なので、光源と影を作る物と
影が映る面の位置関係で影の大きさが変わる。

つまり、
光源に近い物ほど大きな影を作るし、
影が映る面が光源から遠いほど大きな影となる。

トイレ掃除をしていると、
上体がトイレの真上に来るから、
真上の電球に照らされて、
自分の影がトイレに映る。

そして、影が映る面となるトイレの各部分は、
それぞれ電球からの距離が違うので、
そこに映る影の大きさは異なってくる。
それも天井の電球が近いため、変化が大きい。

例えば、トイレの縁とその外側の床は
距離的に不連続なので、影の形が急に変わる。
トイレの内側の漏斗型の曲面に映る影は、
平面に映る影とは違った歪みを持つ影ができる。

そんな影を眺めていると、ときどき
自分の周りの空間が縮んだり伸びたり、
歪んだ感じするときがあるから面白い。

鏡像について

ツルツルのフタを閉めると、
柔らかい光沢の表面に、
ぼんやり自分の姿が映る。

凸面の表面に映る像は
広角レンズで撮ったようで、
そこに映る自分の姿は、
平面に比べて、小さくに映る。

このとき、電球は真上にあるので、
逆光の状態。

電球が自分の後ろに隠れたときは、
薄暗い自分の姿の後ろに
後光が射したように見え、

ハッと息を呑む。

普段は前のことばかり気にしているけど、
自分の後ろ側があることを思い出しす。

また、自分の姿が「地」になって、
何も映っていない周りの空間が
「図」に見えてきたりする。

そんなことに改めて気づかされて、
ハッと我に返る。

影と鏡像が重なると

後光が射した小さな鏡像が映った
フタの外側には、
自分の大きめの影がフタや床に映る。
その鏡像と影の中心がそろうと、

ここでもハッと息を呑む。

自分の内側にいる自分、
あるいは、
自分の外側に大きく広がった自分、
そんなものを見た気がする。

もう一つの鏡像

フタを開けて、棒タワシで中を掃除する。
磨き終わったらジャーっと水を流す。
そのとき、中を覗き込んでみる。

水の流れが止まった後、
漏斗型のすぼんだ先に溜まった水面は
しばらくゴボゴボゴボーっと波立っている。

やがて水面の波が収まると、
水面に自分の姿が映る。
棒タワシで中を掃除している間は
気づかなかったけど、

ユラユラした水面には、波が収まるにつれ、
だんだんと姿がはっきりと映ってくる。

そして、漏斗型の曲面に映った
歪んだ影の中心が合わさると、
フタに映った鏡像と影が重なったときとは、
また違う感じのものが見えてきて、

ハッと息を呑む。

もう一つの影

鏡像の映った水面を覗き込むと、
さらにその奥、水底に影が映ることがある。
そこに映る影は、水の屈折で小さく映る。

水底の影、
水面の鏡像、
漏斗型の曲面の影
が重なると、

合わせ鏡の中にいる無限の自分、
を見たかのようで、ここでも

ハッと息を呑む。

* ~ * ~ * ~ * ~ *

毎日トイレを掃除しているけど、
僕はまだこれらの瞬間を見飽きない。

てつろう拝

2020年03月10日 初稿

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