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連載:「視野を広げる新書」【第20回】『なぜ東大は男だらけなのか』

2023年10月1日より、「note光文社新書」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?

★現代の日本社会では、あらゆる分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。
★「新書」の最大の魅力は、読者の視野を多種多彩な世界に広げることにあります。
★本連載では、哲学者・高橋昌一郎が、「知的刺激」に満ちた必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します。

現在、毎月100冊以上の「新書」が発行されているが、玉石混交の「新刊」の中から、何を選べばよいのか? どれがおもしろいのか? どの新書を読めば、しっかりと自分の頭で考えて自力で判断するだけの教養が身に付くのか? 厳選に厳選を重ねて紹介していくつもりである。乞うご期待!

「アファーマティブ・アクション」の論争

私事で恐縮だが、長女が今春から東京大学に進学したばかりなので、気になって手にしたのが本書である。オビに「『男が8割』の衝撃――。女性の “いない” キャンパス。現役の教授による懺悔と決意。これは大学だけじゃない、日本全体の問題だ!」とある通り、日本の男女格差に対する広義の提言書といえる。

一般に、アフリカン・アメリカンやネイティブ・アメリカンなどの人種的少数派、女性や心身障害者などの「社会的マイノリティ」に対して、歴史的に存在してきた差別を撤廃するために導入されたアメリカの政策を「アファーマティブ・アクション(affirmative action)」と呼ぶ。「積極的格差是正措置」や「少数者優遇制度」などと訳されることもあるが、その適用には今も論争が続く。

具体的には、アメリカ合衆国の政府機関や民間企業における雇用や昇格をはじめ、高等教育機関の入学審査などにおいて「社会的マイノリティ」を積極的に採用する方策が設置されてきた。大学の入学判定では、入学者の何パーセントかは必ず社会的マイノリティから優先的に合格させるという「割当制」や、社会的マイノリティの受験生には自動的に入学試験の成績に何点かを上乗せする「加点制」のような方式が取られてきた。そこで不合格になった白人学生が「逆差別」だと大学を訴える裁判が多発し、その判決は州によって異なっている(これらの裁判については拙著『愛の論理学』(角川新書)をご参照いただきたい)。

日本では、アファーマティブ・アクションは「ポジティブ・アクション(positive action)」とも呼ばれ、女性に対する優遇措置を指すことが多い。2023年に「世界経済フォーラム」が発表した「Global Gender Gap Report(世界男女格差報告書)」によれば、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位という世界最下位レベルである。どうすればこのギャップを埋めることができるのか?

2012年度、九州大学理学部数学科が後期入試の募集定員9人のうち5人を女性に割り当てる「女性枠」を公表して大騒ぎになったことがある。当時、女子学生が4学年254人中26人と約1割しかいなかった数学科は、「女性研究者増は喫緊の課題。まず入学者を増やすことが必要」と女性枠を設定したが、発表直後から「法の下の男女平等に反する」といった苦情の電話やメールが殺到して、結果的に九州大学は、この「女性枠」を全面的に取り止めざるをえなかった。

しかし、つい先日、京都大学が2026年度入試に「理学部特色入試」として女性枠15人と「工学部学校推薦入試」として女性枠24人を新設した発表に対しては、12年前に九大が受けたほどの反発はなさそうである。時代の価値観変遷も踏まえて、本書は、2016年から東大が採用している「女性教員増加のための加速プログラム」に加えて、ついに東大入試にも女性枠の設置を提言している!

本書で最も驚かされたのは、著者・矢口祐人氏がアメリカの大学・大学院修了後に東大教授となり、今は副学長を務めている点である。かつての東大教授といえば、学部も大学院も東大一色で助手から教授に出世するのが普通だった気がする。矢口氏のような非東大出身者が東大で活躍すること自体、斬新に映る。

実は、私もアメリカの大学・大学院出身なので、今から15年ほど前、東大の非常勤講師にお声が掛かった際、「私のようなアウトサイダーでよろしいのですか」と聞くと「高橋さんのような人に新風を注ぎ込んでほしいんですよ」と言われたことを思い出した。その頃から東大が変わろうとしているイメージはあったが、果たして矢口氏の究極の提言は受容されるか、大いに注目したい!

本書のハイライト

東大を含めて、日本のトップ大学は、社会の未来のため、キャンパスにおけるジェンダー環境を徹底的に再考する必要がある。それは単に数を合わせるための議論ではなく、あるパーセンテージまで女性が増えれば、それで終わりというものではない。これまでの大学と社会が当然のごとく受け入れてきた男性中心の価値体系を、根本から改める姿勢が求められる。社会と組織に深く染みついた価値観の再考なしに、東大と日本が変わることはできない。(p. 16)

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