連載:「視野を広げる新書」【第25回】『子ども若者抑圧社会・日本』
2023年10月1日より、「note光文社新書」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。
現在、毎月100冊以上の「新書」が発行されているが、玉石混交の「新刊」の中から、何を選べばよいのか? どれがおもしろいのか? どの新書を読めば、しっかりと自分の頭で考えて自力で判断するだけの教養が身に付くのか? 厳選に厳選を重ねて紹介していくつもりである。乞うご期待!
「民主主義」の基盤は「ロジカルコミュニケーション」
私は長年に渡って大学やカルチャーセンターで「ロジカルコミュニケーション」を提唱している。その対極に位置するのが、いわば「相手を黙らせるコミュニケーション」である。こちらは、自己主張を大声で述べ、相手の発言を平気で遮り、自分の立場は絶対に譲らず、場合によっては相手を嘲笑したり罵倒したりして、相手が黙り込むと「はい、論破!」と勝ち誇るというタイプである。
テレビやネットの討論番組などの悪影響もあるのか、このような「論破」こそが「ロジカル」だと勘違いしている人が多いが、それはまったくの誤解である。一般に、賛成や反対を表明する意見に含まれる個別の理由や根拠のことを「論点」と呼ぶが、そもそも賛否両論が生じるような問題の背景には複雑な論点が隠れていることが多く、どちらの解決法にも複数のメリットとデメリットがあり、安易に「論破」できるほどに単純化できるような問題はほとんどない。
私が常々学生に勧めているのは、賛否両論に対しては、常に「賛成論(メリット)」の立場から論点を少なくとも3つ、「反対論(デメリット)」の立場から論点を少なくとも3つは挙げられるように視野を広げることである。たとえば「日本の死刑制度を存置すべきか否か」という二者択一に対しては、「存置すべき」と「廃止すべき」の論点を各々3つ以上挙げてみる。これらの賛否両論の論点を明確化した上で、初めて公平な判断の出発点に立つことができるからである。
両論の論点を整理した結果、最終的にどの論点に最も価値を置くのかは、もちろん個人の自由である。逆に言えば、論理的に整理することによって自分がどの論点に価値を置いているかを見極められる。ロジカルコミュニケーションが重視するのは、あくまで新たな論点を発見するディスカッションの「過程」であって「結論」ではない。したがって、議論を進めていくと、当初は死刑制度に賛成だった学生が反対に変わることもあれば、その逆もある。最終的な結論は個人の価値観に依存し、その結論を変更するのも個人の自由だからである。
さて、残念ながら現代の日本社会に知的なロジカルコミュニケーションが根付いているとは思えない。その最大の理由は、議論以前に「子どもだからわかっていない」「子どもだから黙っていろ」といった「論点のすりかえ」が多用されているからではないか。要するに、日本の若者は「抑圧」されているのである!
たとえば2021年の衆議院選挙では、当選者の平均年齢は55.5歳だった。最年少は29歳、最高齢は82歳である。選挙権は18歳に引き下げられたにもかかわらず、衆議院の被選挙権は25歳、参議院の被選挙権は30歳のままであり、しかも選挙に出るためには世界一高い供託金300万円を準備しなければならない。日本では、そもそも若者が政治参加したくてもできない構造になっている。
本書の著者・室橋祐貴氏は、この状況を「権力者にとって都合の良い日本の民主主義」と呼ぶ。選挙・被選挙権年齢が同じアメリカのアーカンソー州では18歳の市長が誕生した。室橋氏は日本も①被選挙権の引き下げ、②民主主義教育、③子どもの権利尊重、④若者団体の基盤整備、⑤人権機関設置という「5つの武器」を若者に渡し、社会課題の解決に積極的に参加させるべきだと提言する。
本書で最も驚かされたのは、自分の意見を自由に述べ他者の意見を尊重する民主主義の基盤が、実は「ロジカルコミュニケーション」そのものだということ!
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