見出し画像

【読書】会話を哲学する①

こんにちは!エルザスです。


今回は読書感想文です。

私は最近、マンガを題材にしてあれこれ哲学的な思考を重ねる本をよく読んでいます。

今回はマンガの中で交わされる「会話」を哲学し、コミュニケーションの本質を考察するこちらの本を読みました!


会話を哲学する①




コミュニケーションとは

「コミュニケーションとはどんなものか?」ときかれたら、普通は「話し手が聞き手に何らかの情報を伝達すること」くらいに考えますよね?

ところが、本書では違ったコミュニケーション観を紹介しています。

本書によれば、コミュニケーションとは「話し手と聞き手の間で【約束事】を形成すること」だといいます。
そして重要なのは、「その約束事の内容は、実際には話し手には実現不可能なものでも構わない」んだそうです。

抽象的過ぎてなかなか難しいのですが、具体例として紹介されていたマンガのシーンを読むと、少し意味がわかってきました。


『しまなみ誰そ彼』/鎌谷悠希

あらすじは本書をガッツリ引用させていただきます。

舞台は広島の尾道。たすくという高校生の男の子が、ゲイ向けのポルノ動画をみているとクラスメイトに知られたことから物語が始まります。
たすくくんはゲイなのですが、そのことを周りに知られることを非常に恐れていて、ポルノ動画の件を持ち出されたときにとっさに自分はゲイではないと否定し、「バカじゃねーのホモなんて。きもいわそんなの」とまで言ってしまいます。
(中略)
たすくくんは、周りにバレてしまったという恐怖と、自分で自分を否定してしまう気持ちとにとらわれて、飛び降り自殺をしようとしてしまいます。
けれど、そこで「誰かさん」と呼ばれる正体のわからないひとに出会い、
(中略)
少しずつ自分自身を受け入れていく。『しまなみ誰そ彼』はおおよそこうしたストーリーの漫画です。

本書138-140Pより


で、肝心なのはたすくくんと「誰かさん」が出会うシーンです。
飛び降り自殺をしようとしていたたすくくんは、「誰かさん」を追って長い階段を昇っていきました。



なんでも話して。

聞かないけど。



衝撃の発言です。

当たり前ですが、この距離で話して聞こえないわけがありません。

でも、このコミュニケーションによって、たすくくんと「誰かさん」の間には「今からたすくくんが話すことを誰かさんは聞かない」という約束事が形成されているのです。

その約束事は、ひいては以下のような期待を引き出すでしょう。

「誰かさんはたすくくんの話を聞いていないのだから、たすくくんが何を話しても、ドン引きすることも軽蔑することもないし、同情することもアドバイスすることもない」

実際には聞かれている発言を、さも聞かれていないかのように行うことができる。
たすくくんはこれによって自分の気持ちを語りやすくなり、このあと、激しく緊張しながらも自分の本心を「誰かさん」に語ります。

これはコミュニケーションとしてはかなり特殊な事例です。
しかし、たしかにこのコミュニケーションによる効果を考えると、「コミュニケーションとは情報伝達である」というより「コミュニケーションとは約束事の形成である」と言ったほうが良さそうな気がします。


エルザスが感じたこと

コミュニケーションの定義についての考察は大変興味深いです。

しかしエルザス的には、それよりも「誰かさん」の聞き手としての優秀さに惚れ惚れとしてしまいました。

私は自分でも聞き下手だという自覚があって、聞き上手になるためのハウツー本を何冊も読んできました。

例えば『人は聞き方が9割』という本では、要すればこんなことが書いてありました。


  • 笑顔を先出しし、相手の感情に合わせる(ペーシング)

  • 頷きは深さのレベルを三段階にして使い分ける

  • 笑いをとることより相手の言うことに笑うこと

  • 拡張話法5つ:感嘆、反復、共感、称賛、質問。特に感嘆と称賛が大事。オーバー気味に

  • 違う意見の人は間違ってるわけではない。自分と違うだけ。正論・常識を押しつけない、正さない

  • 相手の話題を奪わない(知識でマウントとらない)

  • 助言より「あなたはどうなったら嬉しい?」という質問が有効


たしかにどれも大切だし、有効なのだと思うのですが、いざ実践しようとすると、稀代の聞き下手である私にはどうしても難しい……

聞いたことをなんでもロジカルに甲乙つけようとしてしまうし、共感力が絶対的に足りていない。

そんな私相手では、話し手は安心して話せないに決まっています。
いわゆる「心理的安全性」が確保されていないのです。話したことについて、否定や批評をされずに済むこと、それが悩める話し手にとって何より重要なことです。

それがわかっていても、なかなか実践できないのが私です……

この点、「誰かさん」のやり方は画期的だと思いました。
たったひと言ふた言で、絶大な心理的安全性を確保してくれています。

これならエルザスにもできる!


いや、もちろん私は「誰かさん」みたいなこんな美形じゃないからわからないですけども……
「聞いてくれないなら他の人に話すわ」って言われて終わるかもしれないけども……


とにかく、「心理的安全性を確保するためにそんなやり方があるのか!」と目から鱗が落ちる思いでした。

聞き上手になりたい私にとって、非常に大切な視点を与えてくれたお話でした。
本書を読まなければ、この『しまなみ誰そ彼』を私が知ることはきっとなかったでしょう。
(その後が気になったので全巻買っちゃいました)
素晴らしい作品との出会いをくれた本書にはそれだけでも感謝感謝です。


おまけ

それにしても、本当に聞き上手になりたいならなんとしても共感力を鍛えなきゃな〜、と思っていたら、何も言っていないのに妻が図書館からこんな本を借りてきました。


やっぱり君、俺の目線と思考を自分の頭にインストールしてるよね


↓これの話です。


人の考えは言葉にしなくても伝わるものなんでしょうか?
コミュニケーションは奥が深いですね。



ではまた!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?